第41話 効能?
怪しげな色の液体を一気に飲み干したユイニャンは、不思議そうな顔をした。
「どうした? ユイニャン。どこか変わったところはあるか?」
見かねた国王が声をかけると、ユイニャンは困ったように小首をかしげた。
「体の痛みが、消えました」
「では、魔力も消えたのではないのか?」
陛下に問われて、また首をかしげる。
「それは、わかりません」
「では、檻から出てみるか? そなたの得意な魔法はなんだ? 試してみようではないか」
さらに、ユイニャンは困っている。なので、あたしが助け船を出すことにした。
「ユイニャンは、水をお湯に変えるのが得意でした」
「ですが、やり方は自分ではわかりません」
「もう一度、エリオット様に自分の気持ちを伝えてみたら?」
「ふえぇっ!?」
ユイニャンは、エリオット様のことになると魔法が暴発するのだ。多分、はずかしくてそうなるのだろう。
「わ、わかりました。やってみます」
「では、ジェイン、鍵を開けよ」
「はっ!」
陛下に命令されたジェインさんは、彼女になったアイシアさんにいいところを見せようと、気合いを入れてカギを開けた。重々しいカギががちゃりと開くと、魔力も一緒に解放されて、扉が開く。
ユイニャンは、おっかなびっくり檻から出てくる。ここから見た限りでは、魔力があるかはわからない。
まずは、ジェインさんが魔力測定器をユイニャンにかかげる。反応は、ない。と、いうことは、少なくとも最強の魔女ではなくなったってことか。とりあえず、ひと安心……。と、油断していたところで、ユイニャンの体ががっくりとくずれた。
「大丈夫か、ユイニャン!?」
見ていられなくなったエリオット様が、すぐにかけより、助け起こす。
「すみません。なんだか、体に力が入らなくて……」
「あれ?」
あたしは思わず声をあげた。
「どうしたのだ? ミカリン?」
陛下に問われて、はっとする。
「これまでのユイニャンだったら、エリオット様に助け起こされたら、魔力が暴発するはずです」
「それに、脱力もひとつの症状と見てよいのではないでしょうか!?」
ジェインさんは、あたしの言葉を次ぐように続けた。
「体の中にあった魔力が奪われた時、わたくしもかなり脱力しました」
それは、アイシアさんに魔力を奪われた時のことだろう。
「ユイニャンさんの場合は、特にひどいようなので、薬草の効果だと思われます」
「ほう?では、成功したのか?」
「おそらくは。この魔力測定器は、どんな微量な魔力にも反応しますから」
と言って、自分の体に測定器を向けるジェインさん。途端に、けたたましい警報音が鳴り響く。それを一旦切ってから、またユイニャンへと警報器を向ける。うん、無反応‼
「だとするなら、成功したも同然ではないのか?」
「……すごい。魔力が消えちゃうなんて」
アイシアさんは、呆然とつぶやいた。
「ためしに、わたくしの部屋へ来てもらうのはどうでしょう? あの部屋は、魔力のある者には内側から開けることができない、というしかけがほどこされております」
ジェインさんは一気にまくしたてた。そして、得意そうな笑みを浮かべ、アイシアさんを見た。
「そうだな、それで魔力のあるなしがわかるというなら、なるほど、試すがよかろう」
陛下はまだきちんと立つことすらままならないユイニャンを見ながら言った。ユイニャンはまだ、エリオット様に支えられている。ちょっと、いちゃついているようにも見えてきて、おもわずカナミア様をちら見してみたら、案外平気そうにしていて、あたしが驚いた。
「ユイニャン、道化の部屋まで歩けるかい? それとも、ぼくが連れて行こうか?」
「そんな、エリオット様。わたし、がんばって歩きますから」
と、なにやらいちゃつきだしたところへ、めんどくさそうにアイシアさんが口を挟む。
「も~。そんなんじゃ、きちんと歩けないんだから、ここは素直に王子様に抱っこしてもらえば? レモンティ国の王様にも認めてもらったんでしょう?」
「そ、そんな、図々しいことできませんっ」
「図々しくなんてないよ、ユイニャン。たしかに、アイシアの言う通りだ。今は体が動かないのだから、ムリをしない方がいい」
「ですが……」
「まったく、なにをしているのだ、エリオット。おまえがユイニャンを連れて行けばすむことだろう?」
ここまで見守ってきたジョシュアさんが、さすがにちょっとキレ気味で言った。
「それか、魔法でワープさせるという手もあるが?」
国王陛下自らの提案に、またもやユイニャンは首を左右に弱々しくふる。
「とんでもないです!」
「なら、あたしがかついであげるわ。アイシア、反対側を持って」
ここまで、檻が開きっぱなしだったことをすっかり忘れていたあたし達は、堂々と檻から出てきたルーさんとアイシアさんに驚きを隠せない。だけど、ルーさんの提案を飲むしか、話が先に進まないのも事実だ。ジェインさんという婚約者もできたことだし、アイシアさん、逃走の恐れはなさそうだ。
「では、アイシアさんの縄をほどいてもよろしいでしょうか、陛下?」
ジェインさんはうやうやしく陛下に聞いた。
「そうだな。構わん。ただし、今度こそおかしなまねをしたら、わかっているな?」
「はい。もうおろかなことはしません。あたしは、いかさまの妻になる女ですから」
アイシアさんはどこかうつろで、悲しそうに見えた。やっぱり、ジェインさんとのおつきあいには抵抗があるのかな?
「そうかたくなになるでない。ジェインもこう見えて、役に立つ男なのだぞ?」
ジェインさんに縄をほどいてもらいながら、陛下の言葉を聞いていたアイシアさんは、すがるように、そうなんですか?と聞いた。
「お城に勤めているんだし、お金に不自由はないはずだから、覚悟を決めるわっ!」
決意を固めたアイシアさんは、いつもの強気な女の子に戻っていた。
つづく
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