第40話 晴れやかな未来のために
ジェインさんがアイシアさんに、愛の告白をして、その告白を受けるしかないアイシアさんは、結婚を前提におつきあいをすることになった。
道化師であり、いかさまでもあるジェインさん。その中性的な物腰と、女装しても生える美貌で、アイシアさんのハートを簡単につかんだように見えるけれど、ルーさんの占いによれば、ジェインさんは将来浮気するらしい。アイシアさんは、断ることができない事情があるから受けたけれど、本当はイヤでたまらないんだろうな……。
そんなカップルが一組成立した直後に、ロイヤルミルクティ国の王様であるジョセフ国王陛下が華々しく降りてきた。その美しさ、神々しさは、後に続くジョシュアさんと、エリオット様の美男子王子様二人がかりでもかすんでしまうほどだ。
ジェインさんがしなやかなしぐさでお辞儀をする。それにつられて、あたし達もお辞儀をする。
「よい、面をあげよ」
国王陛下に言われて、あたし達は顔をあげた。うう、やっぱり麗しい!
「ずいぶん待たせてしまったが、薬草の調合を終えた。ジョシュア、ここに」
「はっ!」
陛下の合図で、ジョシュアさんが小さな瓶をかかげた。瓶の中には緑色に紫が少し混ざったような、複雑な色の液体が入っている。
陛下は、その小瓶をユイニャンに見せた。
「これが、そなたを救う薬草だ。すまぬな、アイシア。しばし、我慢して見ていてくれ」
「はい。ママ、あたしのこと、動けないように押さえていて」
「まかせて」
アイシアさんは、後ろ手で縛られているだけじゃ足りなくて、ルーさんに抱きつかれ、身動きがとれなくなった。
「ああ、なんという姿。できることなら、その役目、このいかさまジェインが代わりたいところです」
「なんのことだ? ジェイン?」
陛下に質問されたジェインさんは、つい先ほど繰り広げられた愛の告白のことを、若干誇張して答えた。
「そうか、それはめでたいではないか。まさか、ジェインに生涯の伴侶ができるとは思いもしなかったぞ」
「父上、話が横にそれてしまいました」
ジェインさんを讃えるジョセフ国王に、王子であるジョシュアさんがやんわりと忠告した。どうやら国王陛下、やたらにノリがいいらしく、よく話がそれてしまうらしいのだ。
「それはすまなかった。ユイニャン、ここまで来れるか?」
「はい。ただいま、まいります」
ユイニャンは、体を起こして、懸命に檻の近くまで歩いた。そして、国王陛下にぺこりと頭をさげる。
「体がつらいところをすまないな。では、さっそく、これを飲んでみてくれないか?」
陛下は小瓶をさし出す。
「承知しました、陛下」
ユイニャンの白い手が、ゆっくりと瓶をつかむ。みんなが見守る中で、エリオット様が前に進み出る。さすがに陛下より前に出ることはなかったけど、本心は檻にしがみつきたい気持ちだろう。
「ユイニャン。ぼくはきみが魔女であっても、普通の女の子であっても、きみを愛している。それを信じて。そして、先ほど父上にも、そう宣言してきた」
「……エリオット様」
ユイニャンは、か細い声でそれだけ言うと、瓶を両手でつかんだ。
「愛してる、ユイニャン。父上はぼく達のことを認めてくれたよ」
「わたしも……、わたしも、エリオット様をお慕い申しあげております」
「ユイニャンからその言葉を聞けて、こんなにもうれしいなんて」
エリオット様は、ユイニャンの緊張をほぐすように、爽やかに笑った。
「そなたにはエリオットだけでなく、友がいる。それはなによりの財産だ」
国王陛下はそう言って、あたしの顔を見た。目があった瞬間、とろけそうな笑顔に包まれて、こんな時なのにあたしは赤面しちゃった。
「そうだよ、ユイニャン。気楽に、がんばって」
あたしは赤面してるのをごまかすようにそう言った。
「これが終わったらみんなでたこ焼きを食べるんだからなっ」
ジョシュアさんはそう言った。その言葉には、ちゃんとアイシアさんへの配慮が含まれている。
「あたしのことなんて気づかってないで、さっさと飲んじゃいなさいよ」
アイシアさんは告白を受けてから、ずっと頬が赤い。それがすごく、可愛らしい。
その一方で、エリオット様のことをあきらめた発言をしたカナミア様は、元気がない。そりゃ、あきらめたとはいえ、あんな風にエリオット様とユイニャンのいちゃつきを見せられたんじゃ、元気もなくなるか。
「せかすんじゃないわよ、アイシア」
その、カナミア様が、アイシアさんをたしなめる。
「その薬草がどんな作用をもたらすのか、本当のことはまだだれも知らないんだから。よほどの覚悟がなければすぐに飲むことはできないわ」
「あたしだったら、すぐ飲んじゃうのに」
アイシアさんが、不満そうに口をとがらせた。たしかに、すぐ飲むのは勇気がいるんだろうな。
「大丈夫です。みなさんがわたしを信じてくれたように、わたしもみなさんのことを信じてますから」
ユイニャンは、やつれた顔に笑みを浮かべると、瓶のフタを開けた。あたしは思わず、息をつめる。
「いただきます」
ちょっと的はずれな宣言をすると、ユイニャンは、複雑な色の液体を一気に飲み干した。
つづく
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