第38話 いたばさみ

 ルーさんは、アイシアさんをぶ厚い胸板で挟みこんで息巻いている。圧倒されたあたしとユイニャンは、うまく言葉が返せない。


「なに口ごもってるのよ。やっと薬草が見つかったのよ。素直に喜びなさい」


 ……それができたら、どんなにいいか。


「アイシアのことなんて、気にしなくっていいのっ」


 そう言われてもなぁ。


「じゃあ、あれか。彼氏の話でもすれば。エリオット様とは、どうなの、ユイニャン」


 余計に答えられるかぁ。カナミア様は、ずっと昔から、エリオット様が好きだったんだから。


「じゃあ、もうあれか? あたしがこの先を占ってみるか?」


 それはそれで気まずいです。


「なによ、なぁんも話すことがないわけぇ!?」


 ルーさんは、心底あきれてあたしとユイニャンを見た。そうなのだ、なにを話すにしても、気まずいのだ。しかも、ユイニャンは苦しそうにぐったりしている。余計な話で疲れたさせたくない。


「しょうがないわねぇ」


 吐き捨てるように言ったルーさんは、胸の中でぐったりしかけているアイシアさんをその辺に座らせた。


「あんた達、本当に遠慮っぽいのね」


 いや、それほどではないです。


「なぁに? なにか知りたいこととか、ないの?」


 ルーさんは占い師の顔つきになって、にやりと笑う。魔力を無効化する部屋にいても、占いはできるらしい。


「えっと、じぁあ……」


 あたしが口を開きかけた時だった。カナミア様が、あたしを押しのける。突然だったので、よろけたよ。


「クローンの薬草ができるのはいつごろになるのかしら?」


 ああ、それならあたしも気になる。


「それ聞いちゃう?」


 ルーさんは、更に怪しげに笑った。


「実はさ、半年後にはできちゃうのよ」

「半年後!?」


 やっとルーさんから解放されたアイシアさんは、拍子抜けした声で繰り返した。


「そう、半年後。あんたは魔女でなくなるの」

「……それならそうと、先に教えてくれたらよかったのに!」

「半年なら待てたわけよね」

「うん。……あたし、本当にバカだわ」


 アイシアさんは、がっくりとうなだれた。


「どうする? それでも縄をほどかない?」


 ルーさんに問われて、アイシアさんは唇をかむ。


「うん、やっぱりまだ、このままでいる。あたし、目の前でユイニャンが魔女から解放されるの、黙って見ていられる根性ないもん」

「そうよね」


 ルーさんは、あっさりと肯定した。


「でもこれで、肩の荷がひとつおりたんじゃない?」


 どうよ、とでも言いたそうにルーさんがあたしとユイニャンを交互に見た。たしかに、一年待ってもらうのと、半年待ってもらうのとでは、気持ちの面でかなりちがう。


「半年もかかっちゃうけど、それだけ繊細な作業なのよね」


 ルーさんは、見てきたように納得しながら頷いた。


「次は男の話題ね」

「それは、もういいわ」


 あたしたちから視線をはずして、カナミア様が言った。


「わたくしは、公務にはげむことに決めたの。だから、エリオットとは勝手になさい」

「え~と、それはですね。カナミア様は、エリオット様をあきらめた、ということでよろしいのでしょうか?」


 ジェインさんが、うやうやしく聞いた。カナミア様は、戸惑いながら頷く。


 あらま。ユイニャンにまつわる問題が一気に二つも片付いちゃった。


「王室はこれからが忙しくなるわ。魔女狩りに反対していたレモンティ国以外はね」


 カナミア様の言葉が強がっているように聞こえたのは、気のせいじゃないだろう。実際、魔女狩りを禁止した後の決意はさっき聞いたばっかりだもんね。


「あとは、自分達でどうにかするのね」


 カナミア様は、つんとすましてユイニャンに言った。ユイニャンは、なにを言われているのか理解できていないらしく、それがまた、カナミア様をやきもきさせた。


「まぁ、いいわ。あなたも苦しんでいるのだもの。エリオットも充分、苦しんだはずよ 」


 割りきったようにつむぎだされた言葉に、ユイニャンの瞳に涙がにじむ。ようやく、カナミア様の気持ちが理解できたのだろう。


「ありがとうございます、カナミア様。わたし……」

「お礼なんて言わなくていいから。あなたは、自分の体のことを考えなさい」


 恋敵だったユイニャンに、やさしい言葉をかけたカナミア様をルーさんが暖かく見守る。


「なるほど。カナミア様も、ひとつ大人になったわけか」

「そ、そんなのじゃないんだからっ! わたくしは、ただ……」

「はい、はい。言いわけはしなくていいから」


 ルーさんに軽くあしらわれたカナミア様は、ムキになるけど、そんな姿も可愛らしい。


「なぁんか調子が狂うわ。ちょっと、アイシア。あなた、新しいドレスを作ってちょうだいっ」

「やっぱり、ドレスが目的なのね。親友だなんて言っておいて、結局、あなたまであたしをだましたんじゃないっ」

「ちがうわっ。なにか仕事を与えたいの。そうでないと、半年もこの部屋でモンモンとしているあなたを見ることになる。そんなのはイヤだわ」

「……それもそうね。あたしも、ドレス作ってる方が、気持ちが落ち着くわ」

「本当はこの部屋から、移っていただく予定でしたが?」


 ジェインさんは、はて、と首をかしげる。


「もういいわ。あたし、この部屋で充分よ」

「そうですか。それはたいした度胸です。尊敬にあたいします」

「なによ、それ。茶化さないで」


 平身低頭なジェインさんに対して、完全に戦闘モード全快なアイシアさん。


「茶化してなんていません。むしろ、ビリビリしています」

「はぁ?」


 ジェインさんは、苦しそうに左胸をおさえた。


「なんということでしょう。このいかさまジェイン、完全にアイシアさんを、愛してしまいました」


 ……って、ええ~っ!?


 つづく









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