第37話 きっかけ

 ユイニャンがお礼を言ったことで一区切りついて、ジョシュアさんが背中を向けた。


「おれも、これから実験室の護衛に行く。ジェイン、後は頼む」

「かしこまりました」


 返事を聞くなり、ジョシュアさんは階段をあがって行った。


「バカなことして! あんた、王子様を人質にとったの!?」


 まるで見てきたように言い当てたルーさんに、アイシアさんが頭を下げる。


「ごめんなさい。薬草を根こそぎ持って行かれたのを見たら、気持ちが押さえられなかったの」

「しかたのない子」


 ルーさんは苦笑して、後ろ手に縛られているアイシアさんを、きつく抱き締めた。


「ママ、苦しい」

「これぐらいの罰は受けなさい!」

「息ができないよ」

「なら、息を止めればいいのよ。なんでも衝動的に動くから、失敗するの!」

「わかったから。苦しいよ……」

「まったく、いい薬だわ」


 親子の再会に、カナミア様が拍手する。うん? このシチュエーションって、気まずくないかな? あたしが、というよりも、ユイニャンが。


「大事にならなくてよかったわ。カナミア様に説得を頼んでよかった」

「アイシアは、本当はとてもいい子だもの。わたくしの説得がなくても、きっと、折れていたはずだわ」

「問題はそのきっかけなの。アイシアは頑固だから、カナミア様の説得がなかったら引くに引けないんじゃないかと思って」

「それもそうね」


 と、カナミア様は軽く受け流しているけど、この瞬間もアイシアさんはルーさんのぶ厚い胸板に挟まれている。さすがにちょっとかわいそうに思えたけど、まだ苦しんでいるユイニャンを見ていたら、助けるのをやめにした。


「ねぇ、ママってば!? 窒息しちゃう」

「そんなんじゃ死なないわよ。あんたにはきちんと反省してもらわないといけないんだから」


 つまり、罰ということか。


「あたしの占いで一番はずれてほしかったことが現実になって、どんな顔すりゃいいのよ!?」

「……ごめんなさい」

「あたしにあやまるんじゃないでしょ。このはねっかえりが!」


 今度はアイシアさんの両耳をひっぱった。尋常じゃない伸び方してる……。


「痛いっ! なんで耳をひっぱるのよっ!?」

「どの口が文句言うの!?」

「わかった。ごめんなさい、ユイニャン」

「それだけか!?」


 ルーさん、すっかりドスきかせてしゃべってる。あ。アイシアさんの耳が紫色になってきた。


「あたしが傷つけた、すべての人にあやまります。ごめんなさい」

「薬草なんて、一年もすれば、また生えてくるの。髪の毛と一緒よ! それをあんた、一年も待てないですって!?」

「ごめんなさいっ!」


 これは、かなりのおしおきだ。なのに、カナミア様、笑って見てる。


「もう、やめてあげてください。ルーさん」


 ここで助けに入ったのは、なんとユイニャンだ。


「だってあんた、薬草取られるところだったのよ‼」

「だけど、もうあやまってくれましたから」


 息をしているだけでつらそうなのに、他人を思いやることができるユイニャンって、やっぱりいい子だ。


「あんな、心がこもってないのは謝罪とは言わないの‼ まったく、ユイニャンの爪の垢をアイシアに飲ませてあげたいわ」

「やだよ、ママ。きったないよ」

「きったないのはあんたの方なの。実際、ユイニャンには爪の垢なんてないんだから」

「ないものを飲ませるの?」

「たとえだよ、たとえ。このおバカさんが!」


 またルーさんが、力をこめて、アイシアさんの両耳をひっぱる。これ以上は危険な気もするけど、単なる親子のたわむれだし。まぁ、いっか。


「痛いっ! わかったから」

「わかってないっ!! あんたはこの島の存亡をおびやかしたんだからね」


 そうなのだ。アイシアさんは、島が滅びようと構わないから、薬草をよこせと主張したのだ。しかも、ロイヤルミルクティ国の王子様であるジョシュアさんの喉に短剣まで突き立てた。


「そうよ、きちんと反省すべきよ」


 しまいには、カナミア様にまで言われてしまった。ルーさんは、両耳をばっと離すと、またアイシアさんを胸の中で抱き締めた。


 こりゃ、おしおきが続くってことかな。ははははは……。なんとなく、かわいた笑いが口からもれる。


「あんた、なに笑ってんのよ。親友が苦しんでいるでしょう? なにか声をかけてあげなさいよ」


 突然、ルーさんに話をふられて、あたしはひきつった笑いをひっこめた。


「いや、あの。ユイニャンつらそうだし、話しかけない方がいいかなって思って」

「つらいからこそ、話しかけてあげるの。それが親友ってもんでしょう!?」


 ユイニャンがこんなに苦しんでいるのは自分のせいだっていう自覚がないんだろうか、ルーさん。


 とにかく、それにならって、ユイニャンに話しかけることにした。


「ユイニャン、大丈夫? ご飯とか食べれてる?」

「ミカリン……。心配しないでください」

「あんたも! この期におよんで、心配するなって方がムリがあるでしょう」


 こういう時は、素直に甘えちゃいなさい!って、ルーさんは言うけど、そもそも、ルーさんがユイニャンを、こんな体にしちゃったわけだし、もう苦笑するしかない。


 つづく





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