第33話 不安

 滝の裏側から出てきたあたし達は、アイシアさんに人質にとられたジョシュアさんを先頭に馬車へ向かった。


 再び最強の魔女として力を手に入れたアイシアさんは、とても強情で、だれの説得にも応じない。やたらに話しかければ、ジョシュアさんを傷つけられる恐れがある。


 馬車に乗り込むなり、ジェインさんは馬に鞭を打って走り出した。


 アイシアさんの横で、後ろ手を縛られ、喉元に小型の剣を突き立てられているジョシュアさんが、不思議そうに口を開いた。


「城に戻って、薬草を手に入れたところでどうするつもりだ?」

「調合させて、あたしが使うの」

「おまえは優先順位を考えないのか? まずは、魔力を制御できないユイニャンが薬草を使うべきだ。そういう約束だったろう?」

「わかってるわよ。でもね、根っ子から薬草を引っこ抜かれたのを見ちゃったら、来年は芽が出ないんじゃないかって不安になったの」

「おまえは本当に矛盾している。あの薬草を使いたいがために魔力を奪い返したのか?」

「そんなつもりはなかった。でも、わかっていても、不安なんだもの。それに、あの子はみんなから好かれているし、一年ぐらい、あの牢獄に入ってたって、エリオット様とはいちゃつけるでしょ?」


 ジョシュアさんが困ったようにうめく。


「本当のところ、あの牢獄が一年持つかは保証できないんだ。つまり、次の薬草を待ってる間に檻が壊れて、島が滅びる可能性がある」

「そっか……。でもいいわ。あたしには関係ないもの」

「おまえはっ。どこまで自分勝手なんだっ」


 ジョシュアさんは、自分の喉に突き立てられた剣のことなんて忘れたように強く叫んだ。


「自分さえよければ、島が滅びても構わないのか?」

「うるさい! それのどこがいけないの!? あたしは生まれてすぐに捨てられたの。魔女だってだけで。それなのに、王様は魔女狩りを勧めた。あたしはいつも、魔女狩りの驚異と戦ってきたわ。たったひとりでよ」

「それは、言い伝えのせいだ。あの言い伝えさえなければ、魔女狩りなんてしなかった。おまえは、だれかに魔力を渡せば魔力が弱まる。だが、ユイニャンは違う。魔力をコントロールできないせいで、苦しんでいる」

「わかってるわよ。だけど、あたし、魔女だってことが苦しくてたまらないの」


 わかって、と言わんばかりにあたしの顔を見る。この人、本気で自分勝手だなぁ。


「それはわかるが、島が滅びたらみんな死ぬことになるんだぞ? それでも横取りしたいのか?」

「そうね、こんな島、滅んだって構わないし、あたしだってもう、あたしでいることが憎くてたまらないの。魔女狩りなんてするから、こんなことになったんだ」


 もう矛盾だらけで、自分勝手なアイシアさんを責める気も失せた。ジョシュアさんもおなじらしく、彼女に命を預けて、口を閉じた。


「なによ、あきれてるの?」

「そりゃ、あきれるだろ。おまえにはなにを言っても通用しない。こんなに頑固な人間には初めて会った。それなのに、黙っていれば、それはそれで責め立てる。いったいどうすればいいんだ?」

「どうって……」


 アイシアさんはきゅっと唇をかみしめた。


「適当にあたしのこと、責めればいいじゃない」


 そして、同性であるあたしのことを見た。


「あんたの親友から薬草を奪おうとしてるんだよ?なにか言いたいことないの?」

「アイシアさんは、これで満足なんですか?」

「え?」


 アイシアさんは、ひどく驚いた顔をした。


「アイシアさんは、きっと、薬草を手に入れて、魔女じゃなくなっても、満足しないんじゃないですか?」


 あたしは思いきったことを言った。ジョシュアさんが人質にとられているのに、ちょっと大胆だった。


「……そうかもしれないわ。あたしって、めんどくさい女だから。あんた、ミカリンだっけ?すごいわね、あたしの性格見抜くなんて」

「ほめてないで、ちゃんと考えてください。ここまで話をこじらせたんだから、潔く薬草をあきらめてください」

「そうね。あたし、魔女じゃなくなっても、満足できないかも」

「……今ならまだ、間にあうぞ」

「そう言われてもね」


 あたしとジョシュアさんの説得に応じそうになるも、短剣を離そうとはしない。


「うまくすれば、薬草の残りが手に入るかもしれないんだぞ?」

「ウソだ。あんな小さな薬草、一回分にしかならないよ」

「それはそうと、頼みがある」


 交渉には応じないと踏んだジョシュアさんが話を変えた。


「なによ?」

「城に戻れば妹のシャノンがいる。まだ六才で、おれになついている」

「だから、なに?」

「城に戻れば、シャノンはいつもおれを探し、抱きついてくる」

「仲がいいのね」

「シャノンには手出しをしないでくれないか?」

「たしか、そのシャノン様も魔女なんでしょ? 大好きなお兄様が捕らわれの身で帰ってきたら、どうするかしら?」

「攻撃してくると思う。だけど、蚊に刺された程度のもんだ。頼むから、妹を傷つけないでくれ」

「まぁ、考えておくわ」

「本当に頼む」


 それからはだれも口を開かなかった。


 つづく




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