第30話 仲間

 今度こそ、ユイニャンを助けるんだ!


 あたしとジョシュアさんが馬車までたどり着くと、ジェインさんがすでに手綱を握っていた。


 この人、馭者もやれるんだ、すごいなぁ。なんて感心してたら、馬車の中から怒声が響く。


「おそい! あんたの友達を早く救ってやろうって気持ちはないの?」

「すまない、アイシア。出がけに妹に遭遇してな。時間をとられた。さあ、ジェイン、出してくれ」

「はっ!」


 ジェインさんのかけ声で、馬車は走り始めた。


 ジョシュアさん、あたしがぐずぐずしてたのに、かばってくれたの?


「仲間がいて、うらやましいわ」


 なぜかジョシュアさんの横に座ることになったあたしへ、いやがらせみたいにアイシアさんが言った。


「おまえにだって、仲間はいるだろう? カナミアは、おまえのことを気にかけていたぞ」

「あの人は、あたしが作るドレスが必要なだけ。仲間なんかじゃないわ」

「カナミアは、仲間ではないやつの頬を叩くような人間ではない」

「だってあの人、魔女が嫌いなんだよ!?」

「そういうわけでもないさ」

「あたしが魔女だって知って、怒ったの。だから、頬を叩いたんだわ」

「あの……」


 白熱したバトルにたえきれず、つい口をはさんでしまった。


「なぁに?」

「アイシアさん、矛盾してます。決めつけられるのは嫌いなのに、カナミア様のことは決めつけてる」

「そうよ? あたし、ひねくれてるんだもん。それでもあんたは、あたしのことも仲間に入れてくれるの? ユイニャンにあんなことをした娘の、このあたしのことも」


 あたしは、すぐには答えられなかった。あの時、本当はアイシアさんがユイニャンを襲うつもりだったのだと聞いた。でも、そうしなかったから、ルーさんが襲ったのだ。


 なんにしても、複雑な気持ちだ。


「今は、アイシアさんも仲間です」

「おれもそう思う」

「……そんなこと言って。薬草が手に入ったら、またあたしのこと仲間はずれにするんでしょ」

「それはちがう」


 心外だ、とでもいうようにジョシュアさんが口をとがらせた。


「おまえが薬草を探してくれたら、仲間を通り越して、島を救ったヒーローになる。だろう?」


 たしかに、女の子だけど英雄だ。その言葉が意外だったのか、アイシアさんは涙ぐんだ。とても感情の激しい人だ。


「な、なによ。お世辞なんて言わないでよ。ヒーローなんかより、仲間の方がいいに決まってるじゃない」


 それからしばらく、アイシアさんは毒づくことなく、唇をかみしめて車窓を眺めていた。


 ……どうでもいいことなんだけど、あたしがジョシュアさんと並んで座った理由は、アイシアさんが馬車の真ん中でふんぞりかえっていたからだ。


 そんな雰囲気で、だれも話さなくなった。馬車の振動が、重い空気をまとっている。


 そういえば、ジェインさん、アイシアさんの魔力を受け取って、つらそうだったけど、大丈夫なのかな?


 あたしが知ってるジェインさんの魔法は、子守唄で敵を眠らせるのと、たこ焼きが出てきたやつ。


 あの時は平和だったな……。


「おまえ、食い物のことを考えているだろう?」


 突然ジョシュアさんに指摘された。


「え?なんでわかるの?」

「よだれたらしてるぞ」

「ええっ!? ……ウソじゃない!」

「へへっ。また、みんなでたこ焼き食べような」


 あ……。おんなじこと、考えてたんだ。


「なぁに? もしかして、あんた達も恋人同士?」


 腕に顎をのせてアイシアさんが聞いてくる。どうしたら、そんな風に見えるんだか?


「なんの話だ?」

「だって、なんだかあたし、お邪魔みたいだから」

「そんな風に見えたか? おれ達はただ、平和だったあの頃をなつかしんでいただけだ」

「そうね、あたし達親子のせいで、平和じゃなくなっちゃったものね」

「今度はおまえも一緒に、たこ焼きを食べるんだぞ?」


 ふいうちみたいにジョシュアさんが言ったから、アイシアさんが息を飲んだ。


「なんで、たこ焼きなのよ?」

「仲間だからな」

「はぁ!? 仲間だと、たこ焼き食べるの? お好み焼きは?」

「お好み焼きは食べたことがないが、カツ丼なら食べたことがある」

「あ~あ、もう、なんで食べ物の話になっちゃうかな!?」


 それは、いろんな説明を省いたせいではないかと。それにしても、やたらに仲間って言葉を強調してない?ジョシュアさん。


「みんなで食べたたこ焼きがうまかったから、また食べようなって話をしているのだ」

「その中に、あたしがいてもいいの!?」

「もちろんだ。ただし、変な気は起こすなよ!?」

「……なるほど、たこ焼きであたしを縛っておけると思うわけ?」

「そんなわけあるか」

「だって、あたし、バカだもん」


 そんな、見も蓋もない言い方をされちゃうと、さすがのジョシュアさんも言葉につまる。


「とにかく、薬草を見つけたら、みんなでうまいたこ焼きをたべるんだ。おまえに拒否権はないぞ、アイシア」

「はいはい。王子様はソウルフードがお好きなのね」


 アイシアさんはあきれた様子で肩をすくめた。


 だけど、そういうことじゃないんじやないかなぁ? ジョシュアさんは、純粋にみんなでたこ焼きを食べてお祝いしようとしているんじゃないのかな? その中にアイシアさんがいるのは、自然な流れというか……。


 そんなことを考えている間に、処刑の滝に到着した。馬車を降りると、ひと足先にたどり着いていたエリオット様が、馬をなでていた。


 つづく






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