第28話 信頼

 アイシアさんは、突然薬草探しに参加させろ、と言い出した。なんという神経の持ち主なのだろう。


「あのねぇ、アイシア」


 カナミア様が訴えかけるような口ぶりで、アイシアさんに言った。


「あなた、この薬草を煎じて飲めばいいと思っていない?」

「ちがうの?」

「ちがうわ。実は、もう一枚紙があるの。残念ながらわたくしには、解読できなかった。今現在、その紙の所有者はわたくしからおじ様へ移ったわ。そして、おじ様は、その紙の解読ができる唯一の存在。だから、あなたがズルをしようとしても、ムダなのよ。薬草は見つけしだい、ここに持ってくること。そうでなければ、あなたを普通の人間に戻す、という将来的な計画も白紙にするわ」

「まるであたしがズルをするみたいな言い方ね」


 そうだ、この親子、決めつけられるのが嫌いなんだった。


「そうは言ってない。でも、今のところ、あなたの信用はないの。わかる? だって、あなたたち親子のせいで、島が滅びようとしているのだもの」

「それは、ママが勝手にやったことだわ。あたしのせいじゃない!」

「でもね……」


 ルーさんが慈愛に満ちた、やさしい瞳で、アイシアさんの肩に手を置く。


「それでもやっぱり、あなたは信用されていないの。親の罪は子の罪。子の罪は親の罪、なんだから」

「ママ……」

「あたしはね、証明したいと思っただけなの。島を滅ぼすのは、アイシア、あんたじゃないって。そのせいで、この子につらい思いをさせたんだから、少しは我慢して。この子のために薬草のありかを教えるべきよ」

「でも……」


 ルーさんの訴えも、アイシアさんのかたくなさではじき返してしまう。


「よく聞きなさい、アイシア。あんたがここで、薬草のありかを教えなければ、あんたのために薬草をつんでも、どうすればいいのかあたしにはわからない。だから、協力するしかないの」


 そうだ。薬草をどう調合すればいいのか知っているのは、ジョセフ国王陛下だけなのだ。つまり、本気で魔女をやめたいのなら、協力せざるをえない。


 アイシアさんは、ジョセフ国王をふくれっつらでにらんだ。なんだか子供っぽいところもある人だな。


「本当にあたしのことも、助けてくれる? 約束して」

「約束しよう。次の薬草が見つかりしだい、そなたのために使う、と」

「きちんと調合してくれるんでしょうね!」

「ああ。それも約束しよう」


 ジョセフ国王にここまで言わせるなんて、やっぱりとんでもない人だ。


「わかったわ。じゃあ、あたしが薬草の場所まで案内する」

「場所を教えてくれればいいのだ」


 エリオット様はすぐに反対した。


「複雑なところにあるのよ。口で説明できないような」

「ならばしかたなかろう」

「父上!? この女の言うことを信じるのですか」


 ジョシュアさんはすがるように陛下を見上げた。


「そのかわり、少しでもおかしなマネをしたら、そなたの薬草はないと思え」

「わかってるわ」


 交渉成立。あれ? でも、あたしは?


「ミカリン、そなたもユイニャンの親友として、共に薬草探しを手伝ってくれたまえ」

「はい!」


 やった! 少しは役に立てるかな?


「それに、男ばかりのところにアイシアだけだと、困ることもあるだろう。そなたには、アイシアのお目付け役を頼もう」

「そうですね、男の人じや、細かい監視ができませんものね」


 それに、相手が女の子だと、なにかと遠慮しちゃうもん。


「ああ、期待している、ミカリン」


 うわっ。陛下に期待されちゃった!


「では、あらためて頼もう。ジョシュア、エリオット、ジェイン、ミカリン、そしてアイシア。ユイニャンのために、薬草を探し出し、ただちに持って帰ってくれ」

「はい、父上」

「もちろんです、おじ様」

「はっ、陛下」

「承知しました!」

「わかってるわ」


 それぞれの返事が性格を表している。特にアイシアさんは、投げやりな様子だった。


「本当に頼むわよ、アイシア。島の存亡がかかっているのだから」

「だから、わかってるって」


 カナミア様の真剣なお願いも、アイシアさんの前では軽くあしらわれてしまう。


「目的地は処刑の滝よ。後は、アイシアに聞いて」


 ルーさんの説明に、あたし達は頷いた。


「ユイニャン、しばらく留守にするよ。必ず、薬草を探して、ぼくが馬で届けるから」

「エリオット様、わたし……」

「なにも言わなくていい。ぼくには、きみの痛みや苦しみ、それに恐怖を替わってあげることはできない。その代わり、ぼくにできるだけのことをする。いいね? なにかあったら、おじ様に相談するんだ。国王陛下だけど、おやさしい方だから」

「はい、エリオット様。どうかお気をつけて」

「はいはい、恋人同士は目の毒よ」


 せっかくのエリオット様とユイニャンの甘い別れの言葉も、アイシアさんのおかげで茶化されちゃった。なんか、こう、残念な人だな。


「とにかく、あたしをここから出してよ」

「わかった。ジェイン、カギを開けてやれ」

「はっ! 陛下」


 ジェインさんは檻の鍵穴にカギを入れた。重々しい音とともに、なにかの魔法がかけられていたのかわかる。


「ささっ。どうぞ」


 ジェインさんは扉を開けた。反射的にエリオット様が扉に近づこうとして、ジョシュアさんに止められる。すぐそばに、ユイニャンがいるのに……。


「あ~あ、もどかしいわね、あんた達って」


 雰囲気をぶち壊すように、アイシアさんが出てきた。扉はすぐに閉められ、カギもかけられると、ユイニャンとエリオット様は、また檻ごしで見つめあう。


 つづく













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