第27話 頼みの綱

 ユイニャンは人見知りが激しい。おいしいケーキやお菓子を作れるけれど、自分の気持ちを相手に伝えることは苦手だ。つまり、不器用。


 でも、だれにでもやさしい。どんなことをされても、相手を責めることなく、自分を責める。だから、放っておくことができない。


 それが、ユイニャンだ。


 エリオット様は、ユイニャンのすべてを認めて、愛してくれている。


「それでも、ぼくはユイニャンを愛している」

「……エリオット様」


 ユイニャンの頬に赤みがさした。ようやく、気持ちが落ち着いてきたみたい。よかった。


 安心したところに、ジョセフ国王陛下とジョシュアさん、それにジェインさんとカナミア様まで現れた。


「目が覚めたようだな。このような扱いをして、本当にすまない」


 こともあろうに、国王陛下がユイニャンに頭を下げた。


 もちろん、ユイニャンはあわてる。


「あわあわあわあわ、あ、あの、あのっ!?」


 そんなユイニャンの先を見通して、カナミア様が仁王立ちする。


「アイシア、あなた、よくもわたくしに恥をかかせてくれたわね。ちょっとこっちに来なさい」


 カナミア様は、檻の前で仁王立ちのまま、アイシアさんを手招きする。


「……なによ」


 覚悟を決めた眼差しで、アイシアさんは檻の近くによった。カナミア様は、ひとつ頷くと、平手でアイシアさんの頬をぶった。乾いた音が、檻の周りでこだまする。


「あなたのせいで、わたくしの秘密を明かさなければならなくなったわ。だから、これは罰よ」


 アイシアさんは、頬をぶたれたままの姿勢でたたずんでいる。


「本当に、気の強い子。だからこそ、わたくしのお気に入りなのに」

「気はすんだか、カナミア?」

「はい、おじ様」


 そう答えると、カナミア様はエリオット様に呼びかける。


「エリオット、あなたに大切な話があるの。その子を救う手がかりよ」


 檻によりかかっていたエリオット様が、はっと息を飲んだ。


「どういうことだ、カナミア?」

「……実は、あの予言には続きがあったの。これを」


 カナミア様は、エリオット様に四つ折の古い紙を渡す。エリオット様は、その紙を開いた。なにかの草の絵が掛かれていた。


「それは、魔力を無効化できる薬草よ」

「なんだって!? では、この薬草で、ユイニャンの魔力は無効化されるのか!?」

「そう、永遠に魔法が使えなくなる。つまり、魔女ではなくなる」


 そんな都合のいい薬草があるなんて、知らなかった。エリオット様の目が、次第に輝いていく。


「どこにあるんだ?」

「そこまでは知らないの。ただ、この薬草が生えるのは一年に一度きり。それを探しさえすれば、その子を救うことができるわ」

「……ありがとう、カナミア!」


 感極まったエリオット様に、手を握られて、頬を赤らめるカナミア様がかわいい。


「べ、別に、感謝されるほどのことじゃないんだからねっ。それに、本当にその薬草があるのかも謎だし」

「それでも、希望にはなる。ありがとう」

「盛り上がっているところ、悪いんだけど、その紙、ちょっと見せてくださる?」


 いつの間にか、檻まで近づいていたルーさんが、待ちきれない様子で言った。


「おまえには関係のないことだろう!?」


 ぶっきらぼうにジョシュアさんが突き放した。そこへ、国王陛下が身を乗り出された。


「いいや、見せてやりたまえ。仮にもこやつは占い師のはしくれ。薬草には詳しいかもしれぬ」

「それにアイシア。あなたも薬草に詳しかったわね」


 たたみかけるようにカナミア様が言うと、頬をはらしたアイシアさんが、顔をあげる。


「……では、見せるぞ?」


 エリオット様は戸惑いながら、二人に絵を見せた。


「これって?」


 アイシアさんが薬草の絵を見て首をかしげる。


「知っているのか?」


 おもわずエリオット様が身を乗り出した。


「もっとよく見せて」

「もったいつけるな!!」


 エリオット様に怒鳴られて、アイシアさんは頬をふくらませる。この人、本当にたいした度胸だ。


「もったいつけてるわけじゃないわ! 暗くてよく見えないから頼んだのに」

「アイシア? あなた、わたくしの前でエリオットに口ごたえするなんて、たいしたものね。また頬を殴ってもらいたいの?」

「殴りたければ、どうぞ。まぁ、どっちみち、その薬草がわかったところで、あたしには関係ないんだから」

「あたし、その草見たことあるわ」


 突然突破口をひらいたのは、ルーさんだった。でも、なぜか、巨体をゆらして笑っている。


「ママ! 余計なこと言わないでよ!?」

「やっぱりアイシアも知ってるんじゃない。なんでとぼけたの?」

「その薬草を見つけても、あの子を助けるためでしょう? あたしにはくれないんでしょう?」


 その答えにだれもが唖然とした。あれほど魔法使いから魔力を奪っておいて、今更、と思ったのだ。


「アイシア?あなた、魔女をやめたいの?」


 信じられないものを見るように、カナミア様が言った。


「ええ。魔女なんて大嫌い! 魔女なせいで、イヤなことばかり起こるわ」

「だが、今はユイニャンの魔力を無効化することに集中したい。そなたはその後で、検討しようと思う。どうだ?」


 国王陛下の頼みでも、アイシアさんは引き下がる気配を見せない。


「そうしたら、来年までこの牢獄の中にいるってことになるわ」

「そのあたりのことも考慮する。まずは、そなたの魔力をできる限り渡してほしい。あとは、ジェインの部屋で過ごしてもらう。あの部屋は魔力を半減できるからな。どうだ?」

「本当にあたしのことも、助けてくれる?」

「くどいわよ、アイシア。おじ様が直接助けると言ってくれてるじゃない。今は、島が滅びないことを優先したいの。そのための薬草よ」


 カナミア様は、アイシアさんを説得しようと必死だ。


 なかなか薬草のことを話さないアイシアさんに見切りをつけて、エリオット様は薬草を描いた紙をふところにしまった。


「もういい。ぼくたちで探そう」

「待って‼」


 アイシアさんが、檻をつかんだ。


「その薬草探し、あたしも参加させて。あたしなら、薬草の場所を教えてあげられるわ」


 これは、かなりリスクの高い交渉だ。あたしの額から汗がひとすじ流れた。


 つづく
















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