第26話 痛み

 ユイニャンはロイヤルミルクティ国のお城にたどり着いても、目を覚まさなかった。


 あたし達は、ロイヤルミルクティ国のジョセフ国王陛下に、状況を手短に説明していた。この時点で、ユイニャンはすごい熱が出て、とても苦しそうにうなっていたからだ。


 いつ目を覚ますかわからないユイニャンは、ルーさんが言った通りに、魔力を無効化する部屋に入ることになった。


 おなじ部屋に、アイシアさんとルーさんが入ることになって、エリオット様はかたくなに反対し続けた。


 だけど、だれかがユイニャンの看病をしなければいけなかったから、エリオット様の意見は却下された。


 最初は、あたしが看病するって名乗り出たのだけど、魔女ではない一般人だから、部屋には入れないと、反対されてしまったのだ。


 その部屋は、一見すると普通の牢獄のように見えた。冷たくてさみしい、犯罪者を入れるための牢屋。そんな感じ。


 ユイニャンは、埃っぽいベットの上に寝かされて、ずっとうなされている。


 面会は自由にしていい、とのことで、あたしとエリオット様は、ほとんどつきっきりで牢の前にいた。


 時折、怒りの矛先をルーさんに定めたエリオット様が怒鳴りちらしていたけれど、結局、ユイニャンは三日も眠ったままだった。


 ユイニャンが目を覚ました時、あたし達は現実を目の当たりにしたのだった。


「うう……。痛い……」


 うめいたユイニャンの体から、静電気のようなものが見える。魔力を無効化する部屋にいて、このありさまだ。きっと、この部屋を出たら、魔力が暴走してしまう。全部、ルーさんの言った通りになってしまった。


「痛みどめの薬をもらってこようか?」


 ユイニャンは、あたしの声にビクッと体を震わせた。それから、おどおどと辺りを見回す。


「ここは、ロイヤルミルクティ国のお城の中だよ」

「ユイニャン、具合はどうだい? なにか、ほしいものはあるか?」


 あたしの声にかぶさるように、エリオット様が言った。エリオット様は檻にしがみついて、ユイニャンの様子をうかがっている。


 檻の中ではアイシアさんが、ユイニャンの額に氷水でぬらしたタオルを乗せていた。


「……わたし、どうしたんですか?」


 ユイニャンはなにが起きたのかわからない、という顔をしたけれど、すぐに痛みで顔をゆがめる。


「ごめんなさいね。あんたがここにいるのも、体の痛みも、全部、あたしのせいなの」

「ルーさん?」

「まだわかんないの? あんたはね、あたしの魔力を受け取ってしまったの。体の痛みはその副作用。しばらくすれば治まるわ。それより、あたしのせいで、あんたの魔力はアイシアとおなじになってしまったの」

「それって、もしかして……」


 ユイニャンの唇がわなないた。


「そう、あんたもアイシアとおなじで最強の魔女になってしまったの。しかも、あんたは自分の魔力をコントロールできない。それって、アイシアより危険な存在とも言えるわ」

「じゃあ、わたしが、言い伝えの魔女なんですか?」


 ユイニャンは、上半身を起こした。額にのせていたタオルが重力に負けて落ちる。


「そういうこと。だから、あたし達は、この魔力を無効化する部屋に入っているの」


 ユイニャンは、タオルを握りしめた。


「大丈夫だ、ユイニャン! 今、ジョセフおじ様がいろいろと考えてくれている」


 エリオット様は、両手で檻につかまって訴えた。


「そうだよ、ユイニャン。きっと、なんとかなるって」


 あたしは、自分に言い聞かせるように叫んでいた。


 だけど、ユイニャンの表情は、暗く、沈んでいる。


「わたしが、島を滅ぼす魔女だったのね……」

「泣いていてもしかたないわ。体の痛みが治まりしだい、あたし達と魔力をコントロールする練習をしましょう」


 アイシアさんは、やさしくはげましたけれど、ユイニャンの表情はますます青ざめていく。


「……どうして、滝に落としてくれなかったんですか?」


 それは、いつものユイニャンよりも低い声だった。


「今の魔力じゃ、滝に落としたぐらいじゃ死ねないわよ。それに、あんたの仲間がそんなことさせやしないでしょう?」

「でも、このままだと、わたしが島を滅ぼしてしまうわ」

「おちつきなさい。あたしだって、責任を感じているの。できるだけのことをするから、今は体を休ませて……」

「そんな、のんきなこと、できません!」


 ユイニャンの頬を涙が伝う。


「ユイニャン」


 エリオット様が檻によりかかりながら話しかける。


「ぼくは、ユイニャンが好きだ。たとえ、魔力をコントロールできない、最強の魔女だとしても」

「……エリオット様?」


 ユイニャンの両目がまたたく。


「大丈夫。ぼくを信じて」

「あたしだって。ユイニャンがどんなだって、親友であることに変わりないわ」

「ミカリン……」


 あたしも、檻によりかかる。


「この部屋の中にいれば大丈夫だから。牢獄みたいでイヤかもしれないけど、今はあたし達を信じてほしいの」

「……でも」


 ユイニャンの頬を新しい涙がぬらす。どうすればいいのかわからないのは、みんな一緒だ。


「甘えちゃえばいいのよ」


 しれっと檻の中でアイシアさんが言った。


「こんなことになったのは、あたし達のせいだって、責めればいい。王子様に甘えて、助けを求めればいいじゃない」

「ユイニャンは、そんな子ではない!!」


 凛としたエリオット様の声が檻を震わせる。


「それができないから、ユイニャンは今、とても苦しんでいるのだっ!」


 そのひとことで、エリオット様は、本当によく、ユイニャンを理解して、愛してくれているのだな、と感動した。


 つづく











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