第25話 後悔

 馬車の中は、ルーさんが乗ったおかげでぎゅうぎゅうづめになった。


 こんな状態なのに、エリオット様は、気絶しているユイニャンを両手で抱えるように抱きしめ、心配そうにしている。


 まったく、ルーさんのおかげで散々だよ‼


 ……ちがう。あたしが、ユイニャンをルー・ルーの館なんかに連れて行かなければ、こんなことにはならなかったかもしれない。


 あたしのせいだ、あたしの……。


「これはおれたち全員のミスだ。自分だけ責任を感じる必要はない」


 なぜか、隣に座るジョシュアさんが、やさしい言葉をかけてくれた。


「でも、もしあたしが……」

「共に旅をしたおれ達もおなじ気持ちだ。もっと言うなら、魔女狩りなんかがあるからこんなことになったんだ」

「ようやくそのことに気づいてくれたの?」


 ルーさんは憎たらしくそう吐き捨てた。


「うるさいっ! たちの悪い魔法使いめっ!! おまえのせいでみんなが苦しんでるんだぞっ!」


 口を挟むな、とばかりにジョシュアさんがルーさんに噛みついた。その一方で、ルーさんは悪びれることもなくあくびをしている。


「あ~あ、退屈だわ。せっかくだから、あなたの運命を占ってあげましょうか?」

「退屈だと!?」


 今度はエリオット様が怒る番だ。まだぐったりと意識のないユイニャンを抱きかかえたまま、これまで見たことのない憤怒の表情を浮かべている。


「のんきに占いなんかする暇があるのなら、ユイニャンを助ける方法を考えろっ! もしもの時は、貴様を処刑の滝に落としてやる」

「あぁら。おっかない。でも、所詮ただの王子様じゃない。あんた達の身分違いの恋を、回りの人が認めてくれると思っているの?」

「口の減らない魔法使いめっ!? もし、ぼくに魔法が使えたなら、貴様をヒキガエルに変えてしまうところだっ!!」


 ユイニャンが目を覚ましたら、こんなに怖いエリオット様を見て、さぞかし驚くことだろう。


 そしてユイニャンは、エリオット様にこんな恐ろしい言葉を吐かせちゃうくらい、深く愛されているんだ。


「やめろ、エリオット。それよりアイシア、おまえはなぜ、自分で復讐しなかった?」


 そうだ。本当ならアイシアさんが拘束される前に、ユイニャンに魔力を投げる予定だったらしいことは、さっきのルーさんの言葉からもわかる。


「失恋したばっかりのあたしに、仲むつまじい恋人同士を不幸にさせることなんて、できるわけない。だからって、まさかママがこんなことをするなんて、思ってなかった」

「なぁに? あんたまであたしのせいにするの? あたしはね、初めて会った時から、その子が言い伝えの魔女だってわかってたのよ」

「だったら、なぜその時に教えてくれなかったんですか? 教えたら、復讐することができなくなるからですかっ!? ユイニャンはとってもいい子なんです。それなのに、こんなことするなんて、ひどすぎますっ!」


 あまりにも緊張感のなさすぎるルーさんに腹がたって、あたしはおもわずそう叫んでいた。


「アイシアだっていい子なのよ。でも、魔女狩りがしつこくて、強くならざるを得なかったの。ユイニャンはしあわせね、こんなにみんなに愛されているんだから」

「あたりまえです! それより、占い師なら、この先どうなるのかを教えてください!! ユイニャンはどうなるんですかっ?」


 ルーさんはすぐには答えなかった。その代わり、慈悲深い目でユイニャンを見ている。


「……残念だけど、あたしの口からはとても言えないわ。言えることがあるとすれば、その子の監禁場所は魔力を無効化する部屋に入れてあげるべきよ。それで少しは時間が稼げるはず」

「時間とは、どういうことだ?」


 今度はジョシュアさんが厳しい声をあげた。


「時間稼ぎよ。……島が滅びるまでの、ね」

「貴様!? ユイニャンを処刑しろ、と言うのか!? ならば先に、貴様を処刑してやるっ!」


 エリオット様は鬼のように怒り狂ってわめいた。


「ふふっ。処刑の滝? あんなの、子供だましよ。最強の魔女を滝に落としたところで、死ぬわけがない」

「処刑の滝は、レモンティ国のものだ。貴様のようなヒキガエルにごちゃごちゃ言われる筋合いはないし、ユイニャンのことは、ぼくが守る!」

「あぁら、威勢のいいこと。この子が目を覚ましたら、まずは急激に魔力が増えたことへの副作用、つまり激痛に襲われる。そうなれば、魔力が暴走し、どうすることもできなくなる。魔力を無効化する部屋に入れなさい。あたし達も、おなじ部屋に入るから」

「だれが、貴様のような汚れた魔法使いとおなじ部屋になんて入れるものか!? なぁ、ジョシュア!」


 エリオット様は、ジョシュアさんに同意を求めた。だけど、ジョシュアさんは深く考え込んでしまっている。


「おい! ジョシュア?」

「……すまない、エリオット。魔力を無効化できる部屋は、一部屋しかない」

「なんだと!?」

「あとは、魔力が半減するジェインの部屋だけだ」

「ユイニャンはジェインの部屋だよな?」


 ジョシュアさんはゆっくりと頭を左右にふった。


「本当にすまないが、ユイニャンには、魔力を無効化する部屋に入ってもらう」

「ウソだろ、ジョシュア? それではまるで、ユイニャンが言い伝えの魔女みたいではないか」

「……現時点では、そういうことになる」


 ジョシュアさんの言葉を聞いて、エリオット様が腕の中のユイニャンを力なく見つめた。


「そんなはずない。そんなはずは……」

「これ以上の言葉はお互いつつしみましょう。ここで言い争えば、振動でユイニャンが目を覚ますかもしれない」


 ルーさんはそう言うと、静かに口を閉じた。


 つづく







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