最強の魔女

第24話 罠

 ロイヤルミルクティ国の馬車が到着してから、不機嫌な顔を隠そうとしなかったアイシアさんが、ジョシュアさんに向けて言葉を発する。


「なんであたしがこんなバカなマネをしたのかって? それはね、あなた達魔女狩りに、復讐をしたかったからよ」

「おれ達は最強の魔女を探していただけで、魔女狩りではない」

「だけど、以前は魔女狩りをしていたでしょう? あなた達、あたしが何回魔女狩りにあったか知らないもの。あたしには、その子みたいに守ってくれる友達なんていなかった。自分の身は自分で守るしかなかったわ。それに……」


 アイシアさんは、同意を求めるようにユイニャンをあおぎ見た。


「あたしだって、好きで魔女になったわけじゃないもの。ちがう?」


 話をふられたユイニャンは、あうあうと言葉をにごらせる。それにいたっては、同意見だろう。


「あたしがどれほどママに魔力をゆずっても、勝手に魔力はふくれあがった。今回だって、放っておけば、また魔力がふくらんだはずだわ。だけど、待てなかった」

「なぜだ!? そのままでいたら、追われなかったのに」


 ジョシュアさんは険しい表情で、アイシアさんを問いつめた。けれど、アイシアさんは薄ら笑いを浮かべたまま、力なく首を左右にふり、少しためらってから口を開く。


「……あたし、バカだから、深く考えてなかったの。あたし、本当に……」


 それまで強気でいたアイシアさんが涙を見せた。


「さぁ、拘束してちょうだい。このままだとあたし、島を滅ぼしたくなるかもしれない」


 アイシアさんは、力なく、両手をさしのべた。


「……わかった。ジェイン、縄をかけてやれ」

「はっ‼」


 ジェインさんは、ジョシュアさんに指示された通りに、魔力封じの縄でアイシアさんの両手を縛った。そうしてそのまま、馬車へと乗せる。


 その細い後ろ姿に、なんだかあっけなさを感じて、ぼんやりしていた時だった。


 ルーさんが、突然ユイニャンを呼び止めた。


「あんた、まだ魔力が不安定なんでしょう!?」

「え? あ、はい」


 正直にユイニャンが答えると同時に、ものすごい圧力を感じた。ルーさんの魔力だ。


「ママ、やめてっ!?」


 アイシアさんが止めるのも聞かず、ルーさんは自分の魔力を、無理矢理ユイニャンに受け渡してしまった。


「ひゃあぅ!?」


 突然魔力がふくれあがったユイニャンは、その圧力にたえきれず、気を失ってしまう。


「ユイニャン‼」


 あたしとエリオット様が呼びかけても返事はない。青ざめてたおれたユイニャンの方から、あたし達の腕にはめた魔力測定のブザーがけたたましく鳴り響く。


「……そんなっ!?」


 エリオット様は、すくっと立ち上がると、ルーさんの広い胸ぐらをつかみあげた。


「なにをしたっ!?」

「あんたたちの固定概念をくつがえしてあげたの」

「どういうことだっ!?」


 ユイニャンはまだ目を覚まさない。


「最強の魔女を探してるんでしょう? お望み通りにしてあげたのよ。ただ、最強の魔女は、二人になっただけのこと。本当はアイシアがするはずだったことを、あたしがしてあげたの」

「なんてことをっ!? 戻せっ! ユイニャンに渡した魔力を取り戻せっ!?」

「無理よ。あたしだって命がおしいわ。不安定な魔女から魔力を取り返すなんてリスク、背負いたくないわ」

「自分がなにをしたのかわかっているのかっ!?」

「わかってるわよ。あんた達こそわかっているの? 不安定な魔女が力を得たら、さぞかし島がおびやかされるでしょうね。つまり、あんた達が探していた魔女は、すぐ側にいたってわけ」

「なんてことをっ! なんてことをしでかしてくれたんだっ!?」


 エリオット様は、今にもルーさんを殴ろうとして、その手を止めた。


「忘れたの? あたしは占い師なのよ。魔力不安定なこの子が、島を滅ぼす存在になるってことは、ちゃんとわかっていたわよ」

「エリオット、もういい。非常に悔しいことだが、帰って父上と相談しよう」


 ジョシュアさんは、宙に浮いたままのエリオット様の拳を握りしめた。


「ユイニャンは、島を滅ぼしたりしないっ!」

「わかっている。だが、同時に、彼女は魔力をコントロールできない、それも事実だろう?」

「ああ。……ああ」


 エリオット様は今にも泣きそうに見えた。ルーさんがこんなことをするってわかっていたら、館になんか行かなかったのに!?


「……おじ様なら、なんとかしてくれるよな? なんといっても、島で一番魔力があると噂されているのだから」


 エリオット様は、かみつきそうないきおいでジョシュアさんに迫る。


「……わからない。だが、打開策はある、と信じたい」

「そうだな。おじ様がこの旅を提案しなければ、こんなことにはならなかったのだからなっ!」

「本当にすまない、エリオット……」


 あやまったジョシュアさんの頬に、エリオット様の拳がめりこむ。


「……これで、ゆるしてやる」

「ああ、こんなのでよければいくらでもくれてやるさ」


 エリオット様はまだ興奮した様子でユイニャンを抱き上げると、馬車まで連れて行った。


「カイル・アップルティ。反逆罪の疑いがある。共に城まで来てもらおう」

「反逆罪? そうかもしれないわ」


 ルーさんは特に抵抗することなく、ジェインさんに両手を縛られていた。


 つづく






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