第23話 理由
ルーさんを信じることにしたあたし達は、ルーさんを先頭にして歩き始めた。
「本当だ。この辺は地図がはっきり映らない」
ジェインさんは端末機をのぞいてから、ルーさんの山のような後ろ姿を見た。
「そうでしょう? だから、ここに住んでいるの」
ルーさんは自慢げに言葉を返した。
「だが、占い師なのだろう? 客がたどり着けないんじゃないか?」
あたしも、ジョシュアさんとおなじことを考えてた。
「お客様はきちんと導いてあげるわよ。あんた達みたいにね」
「なんのことだ? おれたちはおまえに導かれて、たどり着いたわけじゃないぞ」
「そう思いたければ、それでいいわよ。まったく、短気でわがままなんだから。人の言うことなんて、聞いちゃいないのよ」
先導する、と言っておきながら、突然歩くのがおっくうになってきたのか、ルーさんが突然愚痴を言い始めた。
「そう、ぼやくな。アイシア・アップルティは見つけしだい拘束するからな」
「やぁだ、拘束なんて、いやらしい」
「いやらしくないっ。カイル・アップルティ、侮辱罪で逮捕するぞ」
「イケメンに逮捕されるのはありがたいけど。王子様には興味はありません」
のらりくらりとジョシュアさんをかわすルーさんは、どこかたのしそうだ。
ところで、ルーさんって、あたしとユイニャンのことを覚えてるのかな? でも、今は余計なことを話さない方がいいのかもしれない。結局、あたし達は客じゃなかったんだから。
ユイニャンの魔力を安定させるには、どうすればいいですか? なんて、占い師に聞くことじゃなかった。だけど、あの頃のあたしは、ユイニャンが魔女になって、しかも不安定な魔力がいつ暴発するかわからない不安で、頼れる人なんていなかった。それでつい、学校で噂になっていたルー・ルーの館をおとずれたのだった。
あれから毎日のように、処刑の滝で魔法の練習をしていたユイニャン。すべては、魔力を安定させたい一心からのことだった。だって、魔力が安定すれば、魔女狩り実行委員会が来た時に、魔力を渡せばすむことだもの。
だけど、不安定な魔力をゆずり渡すことは、双方にとって命の危険がともなう。だから困ってるんだよなぁ。
小高い丘を登った先に、処刑の滝が見えてきた。
「あれがアイシア・アップルティか。ジェイン、すぐに馬車の手配をしろ。城に連行する」
「はっ。ただちに手配いたします」
ルーさんのおっきい背中の先に、やせ形で赤毛のかわいい女の子の姿が見えた。アイシアさんは、あたし達の姿を認めると、観念したように微笑んだ。
「連れて来たわよ、アイシア」
「ありがとう、ママ」
アイシアさんは滝を背に、あたし達の顔を見た。
と同時に、あたし達の腕につけてある、一定水準以上の魔女に反応するセンサーが、一斉に鳴り始めた。
「アイシア・アップルティだな。一定水準以上の魔女として、ロイヤルミルクティの城まで来てもらう」
「あら、素敵なお誘い。でも、断る権利はないんでしょう?」
「もちろんだ。その前に聞かせてくれ。なぜわざわざつかまるようなマネをした? 魔法使いを襲わなければ、とらわれることもなかったろうに」
「そうかしら?」
アイシアさんは、クスクスと笑う。
「あたしが魔法使いを襲わなくても、あなた達はあたしをつかまえに来たんじゃない? カナミア様にもそそのかされたんでしょ?」
「それもあるが……。おまえ、カナミアと話をするか?」
ジョシュアさんは、カナミア様との約束を思い出したのか、アイシアさんに聞いた。
「話すことはなにもないわ。どうせ、新しいドレスのことでも聞きたいんでしょう」
「おまえは、この島を滅ぼそうとたくらんでいるのか?」
「いいえ。そのつもりもないわ。ただ少し、あなた達をもてあそんでるだけ」
「はぁっ!? なんだよ、それは……」
「それより」
たじろぐジョシュアさんを無視して、アイシアさんはジェインさんをにらんだ。
「うまく化けたつもりでしょうけど、あなた、以前あたしをだまして魔力を奪おうとしたでしょう? 名前は、そう、ジェイン」
そんな過去があったのか、と、あきれるあたしたちの前で、ジェインさんはしどろもどろになって、ドレスを脱いだ。……よかった。中はちゃんといつもの旅装束だ。
「あの頃のあなたは、魔力の数値がかなり高かったから、少しばかりゆずってもらおうかな、と思っただけです」
「だったら口でそう言えばすむことでしょう? 出会っていきなり頭突きしようとしたのよ、この人!」
「……反省しています」
ジェインさんは素直に頭を下げた。
「ジェインのことは、このおれがあやまる。しかし、そういうおまえも、初対面の魔法使いから魔力を奪い取っただろうが」
「そうね。気持ちの悪いおっさんばっかりだったわ。中には魔女狩りもいた。……知りたい? なんであたしがこんなバカなマネをしたのか?」
そりゃ、知りたいよ。せっかくここまで来たんだもん。だけど、アイシアさんの答えを聞く前に、ロイヤルミルクティ国の馬車が到着した。当然、水をさされた形になったアイシアさんは不機嫌にそっぽを向いた。……やだ、この人、カナミア様ばりに気が強いんじゃないっ!?
つづく
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