第21話 あしどり

 アイシアさんという魔女が、今にも最強の魔法使いになっているかもしれないのに、あたし達はのんきにたこ焼きを食べていた。


 女装姿のジェインさんが、アイシアさんのにおいをかぎつけたことで、すっかり安心してしまったせいもある。だからって、その後にお茶まで飲んだのはやりすぎだと思うけど。


「それじゃ、アイシアを見つけたら連絡をちょうだい。なんとか改心させなくちゃ」


 たこ焼きをすっかり気に入ったカナミア様は、アイシアさんを改心さようと自信満々だ。


「承知した。かけあってやろう」


 ジョシュアさんの口ぶりだと、カナミア様の説得は微妙らしい。そりゃまぁ、だまされて魔力を奪われてから国を出るまでの間に、カナミア様に相談しようと思えばできたはず。そうしなかったのは、それだけ決意が固いってことになる。


「本当に頼むわね。ドレスのにおいをかがせてあげた恩は返してちょうだいよっ」

「ああ。……では、そろそろ出発するぞ。各自、ゴミは片付けたな?」


 ジョシュアさんのかけ声で、あたし達はあわただしく身なりを整えた。とりわけ、女装姿のままで旅を続けるジェインさんは、入念に鏡で身づくろいしている。


「それじゃあまたねぇ~! 気をつけて行くのよ!?」


 カナミア様の別れの言葉を背に受けて、あたし達はジェインさんを先頭に歩き始めた。ジェインさんは、たこ焼きを食べた後なのに、アイシアさんのにおいを覚えてる。本気ですごいな。しかも、可憐な女性が花をつむようにフラフラと歩く姿は、まさに乙女だよ。


「驚いたなぁ、ジョシュア。きみの道化はすごい特技をたくさん持っているんだな!?」


 相変わらずユイニャンと肩を並べて歩いているエリオット様が、感心しきってふり向いた。


「まぁな。ただの女好きの道化者だが、時には役にたっている」

「またわたしをほめてくださるのですか!?」


 ほめられたにおいまでかぎつけたジェインさんは、目をキラキラさせてジョシュアさんにつめよる。


「おまえは、ほめるとすぐ調子に乗るっ」


 と、普通ならここで、ジョシュアさんのげんこつが飛ぶところだけど、女装をしている分、なんとなく躊躇するジョシュアさん。


「……役にたってるよ」


 ぼそりとジョシュアさん。


 その瞬間、ジェインさんが、動きを止めた。葉陰から人の気配がする。


 魔女狩りかっ!? そう思ってレンチを抜いた。


 ジェインさんはそのまま、葉陰へと走って行く。……あれ? 武器持ってなかったよねぇ……?


「ジェイン待て!」

「いいえ、待ちません!!」


 可憐なドレス姿で全力で走るジェインさんに気づいたのか、葉陰が激しくゆれる。……どうやら、魔女狩りじゃないみたい?


 ジェインさんはそのまま葉陰へ飛び込み、なにやら言い争っている。


「ひ、ひぃぃぃ……っ!? また魔女が出た!」


 葉陰にはひとりの男がいた。あっさりとジェインさんにつかまったそいつは、情けない声をあげる。


また・・、ということは。あなたからアイシアさんのにおいがします。あなた、赤毛のかわいこちゃんに、魔力を奪い取られたでしょう?」

「ひぃぃぃ。おれはもう、これ以上魔力を奪われたかねぇーんだ。ちきしよーめっ‼」


 とらわれた男は支離滅裂だったけれど、アイシアさんに魔力を奪われたことにまちがいはなさそうだった。


「それで? どれくらいの魔力を奪われた!? 正直に答えろ」


 ジェインさんに後ろ手でしめあげられたあげく、喉仏にジョシュアさんの剣を突き立てられて、男は目を白黒させた。


「わからねぇ。かなりの魔力を持っていかれちまった。今じゃ、たばこに火をつける力さえ残ってねぇ。本当だ」


 男は顔をひきつらせながらそう答えた。


「それにしてもまぬけだな。未成年者に誘惑されて、魔力を奪われる、なんて」


 汚いものを吐き捨てるようにジョシュアさんが言った。


「あの?どういう意味ですか?」


 どういう意味かわからなくて、あたしは聞いた。ジョシュアさんは息を吐き出し、やれやれと肩をあげる。


「通常、任意で魔力を渡す場合はほぼ手渡しだが、突然魔力を奪うとなれば、頭突きをするしかない。よって、この者から話を聞くといい。ジェイン」

「はっ!」


返事をしたジェインさんは、持っていた端末機になにかを打ち込んだ。ジェインさんによって後ろ手に縛られたこの男は、城の衛兵に捕獲され、事情聴衆されるらしい。


 ジョシュアさんの説明で、なんとか理解できたけど、頭突きって。痛そうだな。


◆◆◆


 ローズヒップティ国の山沿いに、レモンティ国の森まで歩くこと三時間。ここに来るまでの道すがら、アイシアさんに魔力を奪われた男はおよそ四人。今頃、魔力の一定水準なんて軽く飛び越しているはずだ。


「それにしても、ここまで魔女狩りに会わないってのは、少し不気味だな」


 あたし達はみんな、そのことを不思議に思っていた。もし、魔女狩りに出会ったアイシアさんが全滅させてきたのだとしたら?


 ……その辺にそれらしいのが転がっていないから、それはないか。それにしても、導かれているような錯覚にとらわれ、気味が悪くなった。


 つづく







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