第20話 におい

「とりあえず、アイシアが向かった方向に行ってみるか」

「そんなの、あなた達にわかるの?」


 ジョシュアさんの言葉に、カナミア様が怪訝そうな顔をした。


 すると、それまで上機嫌で腰をくねらせていたジェインさんが、まじめな顔になって、一歩進み出た。


「なにか、アイシアさんの所有物って、ありますかねぇ?」

「所有物? このドレスはアイシアの手縫いよ。それが、どうしたの?」

「……」


 いつもはハキハキとしたジェインさんが、突然言葉につまっている。どうしたんだろう?


「なぁに? 気味悪いわね」

「……まったく、しょうがないな。そんなドレスを着ているから、さすがのジェインも頼みづらいんだっ!」

「……どういうこと?」


 カナミア様に見つめられて、ジェインさんはモジモジする。


「……かがしてやれ」

「はぁっ!?」

「だから、アイシアが縫った場所をジェインにかがしてやるんだ」

「いやよ! ヘンタイ!」

「だが、こいつの嗅覚は犬並みだ。おまえだって、アイシアに会いたいのだろう?」

「それは、そうだけど……」


 困ったことに、カナミア様のドレスは超ミニスカートで、胸元もかなりざっくり開いている。袖は、かろうじて二の腕に巻かれる形だが、ぴったりとして、ほんの2センチほどの幅しかない。においをかぐんなら、袖しかないだろうけれど、お互い気まずいことは、まずまちがいない。


 あたしの視線に気づいたカナミア様が、袖の部分を気にし始めた。


「……まったく!本当にこんなのでアイシアの居場所がわかるんでしょうねぇ!?」

「自信はあります。なんなら、館へはよらずに、直接彼女を探し出すことも可能ですが、先程のお話の通りなら、魔力を奪いながら移動している可能性があり、現在どのくらいの魔力があるのか推測できますし、魔力を奪われた者から話を聞くこともできます」


 できます! と、断言しちゃった以上は、できるのだろう。


「……わかったわよ。わたくしにさわらないでよ」


 カナミア様は、観念したように袖を裏返した。


「大丈夫、絶対にさわりませんから。失礼します。……ふんふん。ふんふんふん……」


 これは、なんともシュールな絵面。女装姿のジェインさんが、顔をそむけるカナミア様の袖の裏をぴったり五センチのところまで、顔を近づけ、においをかいでいる。


「認証致しました。ご協力、ありがとうございます」

「本当にわかったのっ!?」


 カナミア様じゃなくたって、びっくりだよ。


「こいつの鼻はすごいんだ。一度かいだら忘れないんだから」

「ジョシュア様ってば、もっとほめてくださいよぉ!」


 せっかく感心していたのに、ジェインさんが腰をくねらし始めて、みんなであきれる。そんなに女装が気に入ったとは。


 ……しかも、多分、ほめてない。


「これで、いつでも出発できますよ、ジョシュア様」


 うふっと、しなを作ってジェインさんが言った時だった。


「ちょっと、小腹がすいたな」


 いよいよ出発、という場面で、エリオット様がお腹をさすった。


「おまえ!? 朝、きちんと食べてきただろうに」

「しかたないではないか。腹は減るためにあるのだから」

「昼までがまんしろ」

「嫌だね、腹が減っては動けない」

「まぁ、まぁ、まぁ、まぁ……」


 言い争うエリオット様とジョシュアさんの間に、ジェインさんが割って入った。


「こういう時のための魔法ですから」


 なんて、のんきに宣言すると、よく晴れた空に向かってジェインさんが叫んだ。


「たこ焼き六パック! テイクアウトで!!」


 すると、あたしたちの前にたこ焼きが現れた。


「さぁさぁ、どうぞ。庶民のソウルフードをご賞味ください。熱々ですから、お気をつけてお召し上がりください」


 そう言うと、ジェインさんは、つまようじでたこ焼きを突き刺し、ふーふーしながら食べて見せた。かつおぶしのいいにおいが鼻をつく。


「なるほど、うまそうだな。ひとつ、食べてみようか」


 小腹がすいたとなげいていたエリオット様も、ジェインさんにならってたこ焼きを頬張る。


「うむ、うまい」


 美形の人がたこ焼きを頬張る姿は、やっぱり美しい。……なんて思いながら、あたし達もたこ焼きをぱくつく。外側がカリッとしていて、内側がとろっとふわっとしていて、たこが大きい‼ うん、やっぱりたこ焼きはうまい。


 初めてのたこ焼きを、戸惑いながら口にするカナミア様の姿も、こういう時は本当に可愛らしい。ジョシュア様は、普通に食べているから、こういうのを食べなれているのかな?


 それにしても、魔法って、こんな使い方もあるんだな。ユイニャンも、魔力が安定したら、こういう魔法が使えるようになるのかな?


「魔法でこんなこともできるんだな?」


 たこ焼きをぺろりとたいらげてしまったエリオット様は、感心した様子で言った。


「デリバリーは高度な魔法使いにしか使えません。しかも、年間契約とカード払いが基本ですから」

「なにを得意気に答えてるんだ、ジェイン。そのカードはこのブラックカードで支払われていることを忘れるなよ」


 ジョシュア様に指摘されて、ジェインさんはしなを作ってとぼけて見せた。


「あら、嫌だ。そうだったかしら!?」

「このカードを勝手に使うのが、おまえの悪い癖だよな」


 そんな話を聞いちゃったら、たこ焼きの最後の一個はよく味わって食べなきゃいけないわ。


 つづく



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