第19話 アイシア

「アイシアという者があやしいのか。ならば、修道院に行くのは無駄足なようだな」


 修道院に行くのが無駄足なら、ジェインさんの女装はなんだったのだろう……。まぁ、本人が気に入ってるみたいだから、別にいいか……。


「この国にはもう、アイシアはいないのか?」

「ええ。魔力をだましとられてから、国を出たと、家来は言っているわ。できればそのままつかまえてほしかったのだけれど、傷心の女の子にそこまで強制できなかったの」


 そこまで聞くと、ジョシュアさんは深く考え込んだ。


「だが、アイシアという者は、魔力をだましとられたのだろう?現在一定水準以下の魔力しかないのなら、追う必要はないのではないか?」

「そこなんだけど。あの子、執念深いところがあるの。これを機に、魔法使いをだまして魔力を奪い、おじ様に攻撃をしかけてもおかしくないわ」


 ここまではあくまで仮定の話だけど、カナミア様の言うことが本当なら、そのアイシアって人が最強の魔女になってしまうかもしれない。


 それにしても、男にだまされて魔力を奪われておきながら、今度は魔法使いから魔力を奪うとは……。いやはや、これも本当なら、すごい執念だわ。


「それが本当なら、かなり危険だな。やはり、アイシアという者を探し出すべきか」

「特徴はさっき教えた通りよ」


 さて、とカナミア様はジェインさんの方を向いた。


「せっかく女装させたけど、元に戻しましょうか」

「いいえ。せっかくのご好意ですが、案外たのしいので、もうしばらくこの姿のままでいます」

「さすがは道化者ね」


 カナミア様の申し出を断って、しかも女装がたのしいってなると、ジェインさんって本当にかなりの道化者なんだな。びっくり。


「それで? アイシアが行きそうな場所の心当たりはあるのか?」


 ジェインさんが女装を気に入ったことに唖然としていたカナミア様が、ジョシュアさんに話をふられて我に返る。


「行きそうな場所? 普通は実家だろうけど。あの子、変わってるから」


 今ごろ、次々と魔法使いから魔力を奪っている予感がして、かなり怖い。


「実家はどこだ?」

「レモンティ国の森にルー・ルーの占いの館っていうのがあるの。その、ルー・ルーって魔法使いが義理の親よ。本名はカイル・アップルティ。アイシアは、養子なのよ」

「ルー・ルーの館、ですか?」


 聞きおぼえのある名前に、あたしとユイニャンは顔を見あわせた。


「知っているのかい、ユイニャン」


 エリオット様は甘い声でささやく。……ささやく必要なんてないのに。


「はい。ね、ミカリン?」

「はい。たしか半年ほど前に、ユイニャンの魔力を安定させるにはどうすればいいのか、聞きに行ったんです」

「だけど。まだ安定してないってことは、その占い師、ダメってことね」


 やっぱり、どこか勝ちほこった表情で、カナミア様が間髪入れずに食いついてきた。


「ダメというか、うちは占いが売りだから、魔法の相談はできませんって、断られちゃったんですよ。でも、一生懸命練習してみたら、とアドバイスをいただいて」


 うんうん、と涙ながらに聞き入ってるエリオット様だけど、完全にユイニャンの方を向いちゃっているよ。


「それでユイニャンは、毎日魔法の練習をしていたのだね」

「はい。でも、結局安定してなくて……」


 今にもユイニャンの手を握り、はげましそうな勢いのエリオット様を押しのけて、ジョシュアさんが話しに加わってくる。


「では、ミカリンはその館を知っているんだな? 案内を頼もう」

「いいですけど、あたし、方向音痴だからなぁ」

「それに、ちょいとばかり複雑な道みたいですよ」


 女装姿を気に入ったジェインさんは、なまめかしく腰をくねらせ、小型端末の地図をジョシュアさん達に見せている。


「しかも、ここからだと微妙に遠いな。しかたない、歩くか」

「あら。アイシアを探しに実家に行くだけなんだから、馬車で送るわよ⁉」

「いや。せっかくの誘いをすまないが、うまくすると、アイシアに魔力を奪われた魔法使いに出会える可能性にかけたい」


 ああ、やっぱり、ラクはできないってことか。歩きってことは、また魔女狩りに遭遇する確率が高いよね。あたしはなにげにレンチに手をかざした。


「なんだ、ミカリン。もう戦闘体勢に入ったのか?」

「だって、ジョシュアさん。レモンティの森にたどりつくまでの間に、また魔女狩りに襲われるかもしれないじゃない」


 そう言ったあたしをカナミナ様が怪訝な表情で見つめる。あたし、変なこと言ったかな?


 そんなあたしに、ジョシュアさんがおおらかに笑いかけてくる。


「それは感心だな。まぁ、よっぽどでなければ、またジェインの子守唄があるがな」


 そうだ、ジェインさんの子守唄の存在をすっかり忘れていた……。


 つづく













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