第18話 女装?

 カナミア様の話を聞いたあたし達は、どうしたものかと考えた。なにしろ、魔女を見分けられるのは、男であるジェインさんだけだ。目の前ではカナミア様が勝ちほこった微笑をたたえている。


「残念だったわね。女装でもしない限り、修道院には入れないわよ」


 そうだよね。しかも、うまく化けなきゃバレちゃうもんね。中性的なジェインさんはとにかく、体格のいいエリオット様やジョシュアさんはすぐバレちゃうよね。


「カナミア、おまえ、なんて言った?」

「なによ、ジョシュア。まさか、本当に女装するつもりじゃないわよね?」


 カナミア様の言葉に、ジョシュアさんがにやりと笑った。


「おれが、女装したってすぐバレるだろう」

「じゃあエリオットが女装するの?」

「それもありえない。バレないように女装ができて、なおかつ、魔女を見抜けるのなんて、ジェインしかいないだろう」


 カナミア様が非難の声をあげる。


「わたくしの手にかかれば、エリオットだって立派な淑女に変身させて見せるわ」

「ぼくが女装しても、気持ち悪いだけだろ」


 そうじゃない、と、カナミア様は首をふったけど、エリオット様の横にいるユイニャンを見て、あきらめたようにため息をついた。


「わかったわ。ジェインを女装させればいいのね。わたくしの腕の見せどころだわ」


 なぜだか強気にまくしたてたカナミア様が指を鳴らすと、どこからともなくたくさんの人が集まってきた。しかもみんな、アーティストっぽく、手には衣装やらメイク道具やらが握られている。


「さぁ! 始めてちょうだい!」


 カナミア様が強気で手をうち鳴らすと、ジェインさんの周りに人だかりができた。


「うわっ。……ちょっと、ええっ!?」


 人垣の中から、ジェインさんの悲鳴みたいな声が聞こえてくる。


 やがて、ぱらぱらと人垣が崩れていくと、ジェインさんがいたはずの場所にものすごい美少女があらわれた。


「これは、さすがはカナミアだな」

「ほめてくれてありがとう、ジョシュア」

「え~と、だれ?」


 状況が飲み込めていないエリオット様は、素直にそうたずねた。美少女は、あたし達に惜しみない笑顔を向ける。


「ジョーでぇすっ!」


 そう名乗ったけど、声はジェインさんのままだ。すると、ジョーさんイコール、ジェインさんってわけか。なるほど、これなら声を出さない限り、女装だってバレないかもしれない。


「あれ? ジェインは?」


 とぼけているのか、本気なのか、エリオット様は周囲を見回して、ジェインさんを探している。


 ……結構、本気っぽい。


「エリオットったら、どこまで本気なの? この、ジョーって名乗っているのが、ジェインよ。つまり、わたくし達が総力をあげて、ジェインを女装させたってわけ。感想は?」


 カナミア様の説明を受けたエリオット様は、大げさに驚いた。


「ウソだろ? なんでジェインはいなくなったんだ?」

「ちがう。むずかしく考えるな、エリオット」


 的はずれなエリオット様の肩を、ジョシュア様がポンポンと軽く叩いた。


「とにかく。これで修道院に潜入できるようになったわ。わたくしに感謝なさい」


 指示は出してたけど、特になにもしてないカナミア様が、胸をそらせて、高らかに笑った。


「まぁ、感謝はするさ。ありがとうな」


 ジョシュア様は顔をひきつらせてお礼を言った。


「どういたしまして。それより、あなた達、修道院の場所は知っているの?」

「それならば、これで調べればすむでしょう?」


 ジョーさんになったジェインさんは、得意気に端末機を見せた。


「電子機械なんて、修道院に持ちこめるわけないじゃない。まぁ、ギリギリで、あなた達の腕に巻いたその腕輪ぐらいかしら?」


 カナミア様は、あたし達の腕にはめられた魔女探査装置を指差した。


「だけど、本当に修道院に探している魔女がいるのかしら? わたくしの家来からの情報では、そんなに力のある魔女はいなかったって言うけど」

「行ったのか!? 探したのだな!?」

「あたりまえじゃない、ジョシュア。だっておじ様の命令だもの。きっと、身に覚えのある魔女は修道院と言わず、どこかへ隠れてしまっているはずよ」

「くそう! 情報が流れたのが先か」


 ジョシュアさんは悔しそうに手の平をあわせた。


「もうひとつ、気になる話があるの。わたくしの家来が秘密裏でマークしていた魔女が、先日男にだまされて魔力を奪われてしまったの」

「はぁ? 魔力を奪われた? 情けない話だな。で、その者は今、どこに?」


 あたしもジョシュア様とおなじで、情けなく感じた。


 カナミア様は腕組みをする。


「それが突然いなくなっちゃって。魔力を奪った男に聞いても、わからない、の一点張りよ」

「だが、その者を追跡する必要はありそうだな。名はなんという?」

「アイシア・アップルティよ。年は十七才。身長は百六十センチ、やせ形で赤毛のベリーショート。色白で瞳の色は茶色」

「まるでそのアイシアという者が

怪しい、とでも言う口ぶりだな」

「そう。しっかりしてそうに見えるのに、情にもろい一面がある。わたくしのドレスは、彼女にまかせていたのよ。なんだってお見通しのはずだったのに、魔女だとは見抜けなかった。悔しいわ」


 そう言うと、カナミア様は本当に悔しそうに唇をかんだ。


「……そうなると、修道院には行かないんですかねぇ?」


 完璧な女装をさせられたジェインさんは、さみしそうにつぶやいた。


 つづく












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