第14話 こだわり

 屈強な男たちを子守唄で眠らせたジェインさんは、得意顔であたしを見ている。


「まどろっこしいまねをしてる場合か。ムダに体力を使わせるな」


 せっかくジェインさんが男達を眠らせてくれたのに、ジョシュア様は、魔法を出すのが遅いとごねた。


「まぁ、それも一理あるな。次からはもっと早く、魔法を使ってくれたまえ」


 ユイニャンをさわられかけたエリオット様も、鼻息を荒くしてジェインさんに警告した。


「大丈夫かい? ユイニャン」

「は、はい。ありがとうございます」


 あたしも、ジェインさんにお礼を言わねば。


「あの、また助けてくれて、どうもありがとうございました」

「レディを守るのはわたしの信条なんでね」

「かっこつけてるんじゃない!おまえはミカリンの護衛でやとわれたんだからなっ!」


 ……そうでした。それにしても、ジョシュア様って、なんでこういつもピリピリしてるのかな?


「おまえ、初めての戦闘だな?」


 う? なぜか突然ジョシュア様に話しかけられた。


「はい。そうです、けど?」

「筋は悪くない。あとで稽古をつけてやろう」

「……え?」

「お荷物だと思われたくはないのだろう?そういう太刀筋だったからな」


 ジョシュア様は、あたしの返事も聞かずに歩き出してしまった。睡眠魔法がきいているうちに、ローズヒップティ国の道沿いまで進みたいのだろう。


 あたし達はまた、歩き始めた。


 ……それにしても、レンチを持ったあたしに、剣の稽古をしてくれるって、ジョシュア様って、本当はやさしいのかな? まさか、冗談とかじゃないよねぇ?


 ユイニャンの横には、エリオット様がぴったりよりそっていて、なんとなく話しかけずらい。時折りあたしの方をふり向いてくるから、微笑んでおいたけど、話したいことが一杯あるんだよなぁ。


 そこからまた、だいぶ歩いて、みんなが無口になった頃、ようやくローズヒップティ国の看板が見えた。巨大な道案内の看板の半分を占めていたのが、ローズヒップティ国のお姫様、カナミア様の笑顔の写真だった。


 カナミア様も、写真で見る分にはめちゃくちゃ可愛いんだけど、あの性格を知ってしまったら、素直にそうは思えないな。


 その看板を、さっきからジョシュア様がチラチラと見上げている。ああ、やっぱりジョシュア様は、カナミア様に好意を抱いているんだな、あの性格も含めて……。


 ローズヒップティ国には初めての、あたしとユイニャンは、めずらしそうに辺りを見回した。可愛い服がたくさん並んでいるお店や、不思議なものがありそうな雑貨店なんかの前を通っただけで、ワクワクする。


「よし、ここら辺で今夜の宿を探そう」

「その前に、腹ごしらえをしないか?」


 ジョシュア様の提案に、エリオット様が口を出して、険悪な雰囲気になる。


「宿屋に食堂ぐらいあるだろう」


 たしかに、これはジョシュア様が正しい。


「ぼくはまだ、一度もユイニャンと食事をしたことがないんだ。せめて、初めての食事くらい、キレイな店でさせてもらえないだろうか?」


 エリオット様の言い分もわからないでもない。ただ、あたしは早く休みたい。


「おまえまた、自分勝手なことを言うのか? だいたい、この旅だって、ユイニャンの汚名をはらすためのものじゃないか!」

「そうだけど、これはゆずれないな。ぼくはムードのある店でユイニャンと食事をしたい」

「おまえはただ、いちゃつければそれでいいんだろう!?」

「そういう下品な言葉はさけてくれないか!?」

「あ、あのお……」


 話の中心にいながら、おいてきぼりりされて、さすがにユイニャンがおずおずと名乗り出た。


「どうした?ユイニャン?おまえはいちゃつきながらエリオットと食事をしたいのか!?」

「と、とんでもないですぅ」

「なら、薄汚い宿屋の食堂でも構わないのか?」

「わたしは、宿屋でも構いませんけど?」


 きょとんとした顔で言っちゃったもんだから、エリオット様は、がっくりとうなだれた。


「ほう、ぜいたくをしない、できる女だな。見直したぞ、ユイニャン」

「えと? ありがとうございます、ジョシュア様」

「そうと決まれば、宿屋だ。ジェイン、おまえいい宿を知らないか?」


 そっちで盛り上がっている隙に、あたしはエリオット様に近づいた。


「エリオット様、ユイニャンが鈍い子ですみません。でも、旅の間中ユイニャンとずっと一緒ですし、旅がブジに終わったら、ユイニャンの手料理をごちそうになればいいじゃないですか」


 手料理、と聞いて、エリオット様は飛び上がった。


「ユイニャンの料理はどうなんだい?」

「最高ですっ!」


 よしっ!とエリオット様がガッツポーズをした。


「なんだ? エリオット。おまえやっと、現実に目を向けたのか?」


 せっかく復活したエリオット様に水をさすジョシュア様。


「現実って?」

「この団体で、ムードのあるキレイな店で食事なんかしたら、滑稽そのものじゃないか」

「たしかに……」


 思わずジェインさんがつぶやいてしまうぐらい、滑稽な姿が頭に浮かんだ。なるほど、それでジョシュア様は、宿屋にこだわっていたわけか。そうだよねぇ、旅装束の団体がおしゃれな店って、ないよねぇ……。


 つづく



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます