そして、旅立ちの時……

第13話 旅立ち

「へぇ、これがうわさのブラックカードかぁ」


 あたしは白い目でにらまれるのも構わずに、叫んでいた。なにしろ、ロイヤルミルクティ国の国王陛下直々に、最強の魔女を探すように命じられた。必用な物はこれでまかなえ、とおっしゃった陛下がジョシュア様に渡したのは、限度額なしのブラックカードだった。あたしだけじゃなく、エリオット様の目が輝いたのだって、見逃してないんだから。


「なぁ、ジョシュア。ぼくときみは友達だろう?そのカードを少しだけ見せてくれないか?」

「断る。おまえに渡したら、ユイニャンの指輪を買うために使われそうだからな」


 ジョシュア様の言葉が的を得ていたのか、エリオット様はチッと舌打ちする。


「ケチケチするなよ? 突然狩り出されて、なんの用意もしてないだろう?」

「もう十分なぐらいの装備を用意してもらってあるだろう?」


 そうなのだ。あたし達は、いずれ来るであろう魔法戦闘に備えて、高価な装備を厳重に用意してもらったのだった。しかも、ユイニャンは、魔女狩りに狙われないように、魔力を抑える装備までしてもらった。この上、エリオット様から指輪でも贈られた日には、カナミア様に襲撃でもされかねない。


「それで?あたし達はまず、どこへ向かうんですか?」


 ユイニャン以外の全員に配られた腕輪には、一定水準以上の魔力を感知するセンサーがついている。センサーの反応を見るためには、馬車は使えない。つまり、徒歩だ。


「とりあえず、ローズヒップティ国まで行ってみようと思う」


 カードはもちろん、決定権もジョシュア様にあるらしく、ほこらしげにそう断言した。ここからローズヒップティまでは、結構な距離があるんですけども。


「おい、自分がカナミアに会いたいから、決めたわけじゃないよな?」


 エリオット様が不満そうに言った。なんにしても、この一団をカナミア様が見たら、また皮肉を言われてしまいそうだし、いずれにしろ探し出されてしまうだろうし、どっちにしても厄介だ。


「そんな不純な動機で行動を決めるのはおまえだけだ。魔女は器用だと聞いたことがある。だから、芸術性にとんだローズヒップティ国になら、最強の魔女がいるかもしれないだろう?」

「なるほど。なら、それでよい。ユイニャン、疲れたら遠慮なく言ってくれたまえ」

「は、はいぃ」


 突然話をふられて驚いたユイニャンを見て、ジョシュア様があきれたように口を開く。


「おまえら、本気でつきあってるのか?」


 ◆◆◆


 あたしは、なんとなく横並びに歩いてくれているジェインさんに、昨夜のお礼を言うことにした。


「あの、ジェインさん。昨日は助けてくれて、どうもありがとうございました」

「ん? ああ。ブジでよかったです」


 あれ? なんか、空振りした気分。


「ムダだぞ? ジェインは道化だからな」

「ひっどぉ~い、ジョシュア様。わたしは一応、魔法が使えるんですからねっ!」


 戦力としては心強い。けど、夕べは剣だけだったような。


「一般人相手に魔法は使いませんよ」


 ジェインさんは、そう言うと、片目をつむってウィンクして見せた。不思議なことに、心がときめいた。美形って、卑怯だ。


 あたしたちは、冗談を言いあいながら、とくに緊張感もなく歩き続けた。冗談も口から出なくなった頃、魔女狩りと思わしき盗賊に囲まれた。


「おい、どっちかの女は魔女だろう?センサーが反応してるぜぇ!」


 中心にいる男が、下品にののしった。あたしはさっそくレンチを取り出して身構える。王子様達も、剣を抜いて構える。


「よし!真ん中にいるのが魔女だ!」

「やっちまえ!」


「ううっ」


 小さくユイニャンがうめいた。男たちが一斉に飛びかかってくる。ジョセフ様にかけてもらった魔法の威力か、今度はあたしもレンチをふるえた。その間にも、王子様達がひとり、またひとりと切りつけていく。そこにはなんのためらいもない。


 あたしも必死にレンチをふり回しながら、みんなの真ん中で震えているユイニャンのことを思った。好きで魔女になったわけではないのに、魔女狩りの的にされてしまうユイニャン。こんな時、気がきいた魔女なら、魔力で敵を追い払うことだってできるのに。


「彼女が一体、なにをしたというんだ!?」


 思いあまって、エリオット様が叫んだ。ここはまだ、ロイヤルミルクティ国沿いの森林。他にも、魔女狩りがいないとも限らない。うぬぬぬ……いきなりピンチぃ~‼


 そしてこの時初めてジョシュア様が二刀流だということに気がついた。うぁあ! よそ見してたら襲われたぁ~!


「おっと! ミカリンの相手は俺様、ジェイン様がお相手する!」


 そこをジェインさんが助けてくれた。あたしも負けじとレンチをふるう。


「ひぁああうっ?!」


 森林にユイニャンの叫び声が響いた。男のひとりがユイニャンの手をつかんでいる。別の男を相手にしていたエリオット様は、我に帰って男を本気で切りつけた。


「汚れた手で、彼女にふれるなっ!」


 すかさずユイニャンを奪い返すエリオット様。うわ、みんなかっこいい。


「おい! ジェイン、いつまで遊んでいるつもりだ」


 二刀流のジョシュア様が鬼の形相でジェインさんに怒鳴った。ジェインさんは、やれやれと肩をすくませる。


「魔法は、魔法使い相手じゃないと使わないポリシーがあるんですがね。しかたないな」


 ぼそっとぼやくと、なぜかジェインさんは子守唄を歌い始めた。すると、屈強な男たちがバタバタとたおれていく。


「これが、魔法です、お嬢様方」


 ジェインさんは、得意気にポーズをつけた。


 つづく

















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