第12話 レンチ

「お呼びでございますか? 陛下」

「ジェイン、そなたも強力な魔力を持つ魔女探しに同行してほしい」


 ジョセフ国王陛下は、ちょっとそこまで買い物に行ってくれ、と言わんばかりの軽い調子でジェイン様に言われた。


「はい、喜んで」


 ジェイン様も案外軽く引き受けた。


「お待ち下さい、陛下。ジェインは単なる道化者。しかも、シャノンの魔法教師ではありませんか」


 すぐに不満を口にしたジョシュア様。ってことは、ええと、ジェイン様は道化者かいっ!?


「だが、この中でまともに魔法を扱えるのはジェインしかおらんだろう? しかも、ジョシュアは幼少の頃からジェインと剣の稽古にはげんでいたではないか」

「ですが、父上、こやつの道化は芝居ではなく、本気ですよ?」

「そんな者がひとりぐらいいてもよかろう? シャノンには、新しい教師を探せばいいこと。小さいことでぐずぐず言うな」


 陛下に言い負かされて、ジョシュア様は頬を硬直させた。それから陛下は、あたしに向き合った。いろんな意味で胸が高鳴る。


「そなたは? ユイニャンの友人か?」

「はい。一緒に暮らしているミカリン・アールグレイと申します」


 あたしは緊張しつつ、深々と頭を下げた。


「おもてをあげよ。そなたは魔女でもないが、捜索に同行してほしい」

「ですが、わたしは……」

「昨夜、魔女狩りに襲われたそうだな?」

「はい。ユイニャンと一緒にいるところを襲われました。そこで、ジェイン様に助けられました」

「ジェインごときに様をつけることはない。こやつはただの女好きな道化者だからな」


 そうだったんだ?親切な紳士かと思ったよ。ただの女好きかい。


「その時に、このレンチを落としたな?」

「はい。そのレンチはあたし……、わたくしのものです」


 よかったぁ~! レンチ、拾ってくれてたんだぁ。


「これで戦おうとしなかったのは、なぜだ?」

「それは……。相手を傷つけてしまうのが、怖かったからです。レンチは重いし、もしあたったら、殺してしまう可能性があるからです」

「それにより、ユイニャンの身に危険が及んでもか?」

「はい、それでも、怖かったのです」

「では、このレンチにわたしが魔法をかけてやろう。軽くして、殺傷能力を抑えた。それに、柄の部分を少し長めに伸ばしておこう。これでどうだ?」


 ジェインさんは、陛下からレンチを受け取り、あたしのところに持ってきてくれた。受け取った瞬間、軽いのがはっきりとわかった。しかも、柄の部分が長くなって、すごく持ちやすい。


「もちろん、普通のレンチとしても使える。どうだ?それで襲いくる敵と、戦うことはできるか?」


 レンチは軽い。だけど、あたしに戦えるのかしら?


「それでも、怖いです」

「無理もない。戦闘教育を受けていないのだからな。では、ジェインがそなたを守ろう。それならどうだ? 捜索に同行してくれるか?」


 怖い、でも、ユイニャンの汚名をはらしたい。だけど、あたしになにができるだろう?


「そなたも不安なのだな、ミカリン。しかし、それならユイニャンはもっと不安だぞ?なにしろ自分の存在が、魔女狩りを呼ぶわけだからな」


 陛下に言われて、はっと息を飲んだ。そうだ、いくらエリオット様が守ってくれるからって、狙われるのはユイニャンだ。あたしがいれば、ユイニャンのおとりになれるかもしれない……。


「……承知しました。わたしもお供いたします」

「そうか。そなたは勇敢だな、ミカリン。もちろんエリオットも同行してくれるのだろう?」

「もちろんでございます。この命に代えても、ユイニャンも、ミカリンも守ります」

「よかろう。レモンティ国へはわたしが後ほど報告をしておく。勇敢なエリオットは、わたしの頼みを聞いてくれた、とな。ユイニャンのことはまだ、隠しておいた方がよかろう」

「そうしてくださると助かります。両親には、時期が来たら話すつもりでいますから」


 エリオット様の返事に、陛下はにこやかに微笑まれた。なんか、噂とちがって、やさしいわぁ。


「おにいちゃま、またおしごと?」


 鈴の音が鳴るような声で、シャノン様が言われた。ほんっとにシャノン様可愛らしいわ。


「ああ。シャノン、いい子で待っているんだぞ」

「うん。はやくかえってきてね! おにいちゃま!」


 兄と妹の微笑ましいやり取りを聞いてから、陛下がふいに厳しい表情を浮かべた。


「本来ならば、魔女狩り実行委員会に依頼すべきところを、みなにたのんだのには理由がある。ひとつは、昨日の測定でプラグ男爵が壊れてしまったこと。あれは、ジョシュアが制作したものだったな?」

「はい。まさか、計測中に壊れるとは予測しておりませんでした」


 うう、耳が痛いです。すみませんでした。


「湯気や水ごときで壊れるようでは、設計が甘かったのだろう」


 ジョシュア様はくやしそうに唇をかんだ。陛下はふっと微笑まれた。


「それでは復唱する。そなた達には、言い伝えとされる強力な力を持つ魔女を探し出し、この城へ連れて来てほしい。その際、双方共に生きていること。健闘を祈る」


 ……こうして、あたしたちは、最強の魔女を探す旅に出ることになったのだった。


 つづく










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