第10話 ロイヤルミルクティ国の王子様

 考え事をしているうちに、またしてもインターホンが鳴った。今度こそ、魔女狩り実行委員会にちがいない。あたしがドアを開けようとしたら、エリオット様に止められた。


「ぼくが出よう」


 ここはエリオット様にまかせて、あたしたちはその後ろで待機。


 ドアが開いた。だけど、コーダー婦人とプラグ男爵の姿はなく、代わりに立っていたのはものすごい美少年だった。


「やぁ、ジョシュア。やはりきみが来たか」


 エリオット様は、彼が来ることを予測していたみたい。え? ジョシュア様? って、ロイヤルミルクティ国の王子様?


「お早いことだな、エリオット。おまえがいることは予測していた。昨日、カナミアが訴えてきたからな。それで?制御不能な魔女はどっちだ?」


 ジョシュア様って、イケメンなのに、感じが悪い。あたし達のこと、遠慮なく見るしさ。


「ユイニャンは制御不能なわけじゃない。魔力をコントロールできないだけだ」

「おなじことだろ? ユイニャン・セイロン、前へ」

「は、はいぃ」


 かわいそうに、名前を呼ばれたユイニャンは、縮みあがりそうなくらい固くなって名乗り出た。


「もうひとりは、だれだ?」

「ミカリン・アールグレイです・・


 感じ悪く聞かれたから、よそゆきの答え方をしてやったわ。


「ではそのミカリン・アールグレイ。双方ともに、これよりロイヤルミルクティ城に案内する」

「待ってくれ、ジョシュア。なぜここで測定しない?」


 ちらりとジョシュア様がユイニャンを見た。


「国王からの命令だ。昨日コーダー婦人とプラグ男爵を壊した魔女を見たい、とのことだ。それに、頼みたいことがあるそうだ」

「頼みたいこと、とはなんだ?」

「さぁな。陛下の気まぐれにはついていけんからな。なんならおまえも来るか、エリオット。どうせ公務もそっちのけで、魔女にうつつを抜かしているのだろう?」


 ぐうぅっとエリオット様が言葉につまった。ずっとユイニャンの後を追いかけていただけに、言い返せないですよね、エリオット様。


「と、いうわけだ」


 こっちの言い分も聞かないで、ジョシュア様は勝手に話をしめくくった。


「ここは素直に従う方がよさそうだな」


 エリオット様は、やれやれと頭をふった。いろいろと聞きたいこともあるけれど、ジョシュア様のしかめっ面を見ていたら、とてもじゃないけど聞けるわけがない。


「承知いたしました。今、戸締まりをするので、少しだけお待ちください」


 なにごとかわからず、おろおろするユイニャンをエリオット様に預けて、戸締まりをする。


「早くしろ。おれは待つのが嫌いだ」


 うぬぅ。性格の悪い王子様だ。こんなボロ屋だけど、あたしには大切な思い出がたくさんあるんだからっ。よしっ!


「終わりました。行きましょう」


 あたしが言うと、ジョシュア様は早々と馬車へ向かった。おいっ! もう、しょうがないなぁ。あたしの横では、ユイニャンがエリオット様といちゃついている。どうやら、魔女測定のためにお城に呼ばれたことが怖くてたまらないらしい。


 ……気持ちはわかるけど、魔女でもないあたしまで呼ばれてるんだぞ?しかも、エリオット様まで巻き込んでいるわけよ?


 エリオット様と話をしているうちに、決心がついたのか、ユイニャンの表情は明るくなってきた。しかし……。


「なにをぐずぐずしている?」


 馬車に乗りかけたジョシュア様がこっちを向いて怒鳴り散らした。


 と、その隙に馬車を見ちゃおうっと。……やっぱり、ジェイン様って人が持ってた剣の柄にあった紋章とおなじ刻印が、馬車にもほどこされている。あの人、何者なんだろう。


 あたしたちはうながされるまま馬車に乗った。ユイニャンと正面で座りたい、というエリオット様の提案で、あたしはぶっちょう面のジョシュア様の前に座ることになった。


「ここまで来て、私情をはさむとは、たいした度胸だな、エリオット」

「なんとでも言うがいいさ。ぼくはいつだって、ユイニャンのことを守ってあげたいんだ」


 険悪な雰囲気のまま、馬車は走り始める。


「お前のうかつな言動が、自分の国を混乱させているとは思わないのか?」

「彼女に出会った時から覚悟していたさ。きみこそ、長年わずらっていたカナミアへの思いをとげればいい。みなに喜ばれるぞ」

「そんな軽口はやめろ。おれはおまえとちがって気が短いんだ」


 ああ、せっかく初めて馬車に乗ったのに。王子様同士の口論を聞かされるはめになるなんて。しかたがないから、あたしが、横に座っているユイニャンの手を握った。冷たくて、震えている。それなのに王子様達はまだ言い争っている。


「気が短いのなら、早々に告白してしまえばいいのだ。このぼくのように」


 昨日、ユイニャンから熱烈な愛の告白をされたエリオット様は、得意気だ。


「おれはそこまで短絡的ではない。おまえは魔女と交際することを、国から禁止されていないのか?」

「禁止されていようと構うものか。ぼくはユイニャンを愛しているのだから」

「めんどうな男だな、おまえは」

「きみほどめんどうではないつもりだが?」


 ……でもなんか、これはこれで目の保養になるかもっ!


 窓の外は景色が変わって、レモンティ国からロイヤルミルクティ国に入った。実は、ロイヤルミルクティ国に来るのは久しぶりなんだよねっ。うわぁ、めずらしいものばっかりだぁ……。やっぱり都会は絵になるなぁ。


 なんて、野暮なことを考えていたら、ユイニャンに手を握り返された。あ、あはっ。大変。ユイニャン、緊張しすぎて顔色が悪いわ。


 つづく















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