第9話 魔女の受難

 これで終わりだ、と絶望の淵に立たされたあたし達の耳に、ゴン!とよく響く鈍い音がした。


「おれ様、いかさま、ジェイン様。呼ばれてないのに、ジャジャジャジャーン!」


 さっきまでユイニャンをつかんでいた醜いおっさんがいた場所に、黒髪のイケメンが立っていた。


「無防備な乙女にふれるとは、このジェイン様が見逃せませんぜ!」

「なんだぁ!このやろーめ!おれ達の獲物を横取りしようってのか?」

「そんなつもりはありません。ただ、イヤがる女の子に乱暴するところなんて、見てられませんから」


 男たちの矛先はジェイン様(だれ?)に向かった。だれだか知らないけど、あたし達を助けてくれるらしい!


「その程度で、このジェイン様にかなうと思ってるのですか!?」


 ジェイン様は剣を手に、次々と男達をたおしてゆく。剣はレンチより強しね。感心している間に道ができた。


「さぁ、今のうちに行くんです!」


 ジェイン様に言われて、アクセルをふかし、走り始めた。


「ありがとうございました!」


 って言ったけど、聞こえたかな? 本当、だれだか知らないけど、助かったぁ。また似たようなのに出くわさないうちに、さっさと帰ろう。


「ごめんね、ユイニャン。大丈夫だった?」

「うあ、はい」


 元気がないな。夜のドライブは大失敗だったよ。


「あのぉ、ミカリン。わたしのせいで、怖い思いをさせてごめんなさい」

「あんたねぇ、あやまるのはあたしの方だよ。ごめんね、本当に。さっきの人、強かったね」

「はいっ! 親切に助けてくださいました」

「だけど、なぁんか一瞬、イヤなものが見えなかった?」

「イヤなもの、ですか?」


 ユイニャンは心底不思議そうな顔をした。闇の中、強いライトで照らされた剣の柄に、ロイヤルミルクティ国の紋章が見えたような気がしたんだけど?


「いや、なんでもない。きっと、気のせいだよ」

「気のせい、ですか?」

「うん、そう、多分気のせい」


 もし、本当にロイヤルミルクティ国の人なら、ユイニャンを見逃さないはずだし、うん、気のせいだ。今ここで、ユイニャンを不安にさせてもしょうがないしね。とにかく、早く帰ろう。


 ◆◆◆


 帰りつくなり、大事なレンチがないことに気がついた。きっとあの時、落としてしまったんた。悔しいな。使い込んでて、手になじんでる大事な相棒だったのに。


「ミカリン?どうかしました?」


 あたしが顔をしかめていたら、すぐにユイニャンに見つかった。


「なんでもない」

「でも、とても深刻なお顔をしているのに」

「いいの! それよりお風呂に入りたいんだけど」


 湯船はすっかりさめてしまっている。追い焚きをするよりも、ここはユイニャンの力に頼った方がよさそう。


「ああ、さめてしまいましまもんね」


 それとなく、二人で風呂場へと近づく。


「そうなんだよね。昼間のどたばたで入り損ねちゃったからね」

「追い焚きをしましょう」


 正論を提案したユイニャンを尻目に、あたしは意地の悪い方法を思いついた。


「ねぇ、ユイニャン。エリオット様に告白した時、はずかしくなかった?」

「ええっ? そのっ……。はぁうっ」


 ボンッて破裂音が浴槽から聞こえた。


「おっ、ちょうどいいお湯かげんになってる。ありがと、ユイニャン」

「だ、だましたのですね!?」

「だましてないよ。ちょっと利用させてもらっただけ。さぁ、せっかくのお湯がさめちゃわないうちに、さっさと入ろう!」


 ごねるユイニャンを尻目に、あたしは服を脱ぎ始めた……。


 ◆◆◆


 次の朝はいつもより早目に目が覚めた。なにしろ、ユイニャンの魔力測定がある。夕べのいざこざが影響してなきやいいんだけど、さて、どうなることやら。


「おはよう、ユイニャン。調子はどう?」

「おはようございます、ミカリン。さぁ、あまり自信はないです」


 そうだよね、そういう子だよね、あなたは。だからって、もっとこう、気合い入れて今のうちに魔法を使っておくとかさ。……ムリか。


 朝食や身仕度なんかも、ちゃちゃっとやっちゃって、のんきにお茶なんか飲み始めたころ、インターホンが鳴った。この時間だとエリオット様かな、と思ったら、本当にエリオット様だった。


「おはよう、ユイニャン。そしてミカリン」

「「おはようございます、エリオット様」」


 あたしとユイニャンはほぼ同時にあいさつをした。それにしてもエリオット様。朝からこの爽やかぶりは卑怯だわ。


「不安でたまらないだろうね、ユイニャン。夕べはよく眠れたかい?」

「お気遣いありがとうございます。おかげさまで、ゆっくり休むことができました」


 それはある意味、すごいことだよ、ユイニャン。夕べの魔女狩りにあって、今日の計測が不安で、眠れなかったんじゃないかって、あたしは本気で心配したんだから。ああ、でも、エリオット様に心配かけまいと、強がってるのかもしれない。


「ゆうべ、ミカリンがドライブに誘ってくれたんです。それで、きれいな星空を見ました」

「へえぇ。すごいじゃないか、ミカリン。魔女狩りに襲われたりしなかったかい?」

「……えと、襲われました。が、どこかの親切な方が助けてくださいました」


 ……ああ、はい。ごめんなさい。エリオット様ににらまれたよ。


「その、親切な者の名前はわかるかい? ぼくからも礼をのべたい」

「えっと、たしかいかさまとか?」

「ユイニャンそれ、ちがう。ジェイン様って名乗ってらっしゃいました」

「……ジェイン?」


 その人がロイヤルミルクティ国で名の知れたな立場の人なら、エリオット様も知ってるかも知れない。だけど、この表情からだと読みとれないわ。


 つづく












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