第7話 レモンティの森で

 ローズヒップティ国のお姫様、カナミア様を乗せた馬車は、なにごともなかったように来た道を戻って行った。


 さっきまで浮わついていたユイニャンとエリオット様も、現実を前にして、表情が固くなっている。


 あたしは、さっき話に出た予言のことを、エリオット様に聞くことにした。


「エリオット様、さっきの予言の話をくわしく聞かせてもらってもいいですか?」

「うん? ああ。あまり公にはできないけど、カナミアのおばあ様は予言者だったんだ」

「予言者? それって、魔法と関係あることですか?」

「そうだね、かなりの魔力があったらしいのだけれど、その力を自ら恐れて、かわいがっていたジョセフおじ様に力を渡してしまった。魔力のほとんどを渡してしまったものの、おばあ様には予言の力が残った。そして、亡くなる直前の予言が、強力な力を持つ魔女がくらげ島を滅ぼしてしまう、というものだった。もちろん、なんの根拠もない。ただ、おばあ様の予言は、これまですべてあたってきた。そのこともあって、魔女狩りがおこなわれるようになったんだ。おばあ様の死に際にはジョセフおじ様もいらしたから、それでロイヤルミルクティ国が中心になって魔女狩りが始まったのだと思う。すっかりカヤの外だと思っていたわがレモンティ国でさえ、気づけばこの滝を処刑場として利用されてるありさまさ」


 なるほど、レモンティ国としたら、貧乏クジを引かされたわけか。


「失礼ながら、エリオット様はこのことを陛下からうかがったのですか?」

「いいや。ジョセフおじ様から聞いた話さ。あの方の前だと、みんな萎縮してしまうんだ。もちろん、このぼくも、彼を前にしたら、なにも抗議できなかった」


 そんなに高圧的な王様なんだ? あたし達からすれば、カナミア様だけで精一杯なんだけど。


「だから、おじ様と対等に口がきけるカナミアなら、と思ったんだが、甘すぎたな」

「カナミア様は、どうしてああまで魔女を憎んでいるんですか?」

「憎んでいるんじゃない」


 そこで一端言葉を切ったエリオット様は、ため息をついて続ける。


「恐れているのさ。いつか、自分も魔女になってしまうんじゃないかと。ジョシュアには幼い妹がいる。名はシャノン。たった6才だというのに、魔女として生まれてきたせいで、これまで一度も城の外に出たことがない。自由に城内を歩き回ってはいるが、必ず供の者が一緒だ。あれでは幽閉されているもおなじ。それを知っているから、カナミアは魔女になるのを恐れているんだろう」


 ジョシュア様に妹がいるなんて初めて知った。王宮のことは、庶民にはあまり知らされていないからなぁ。


「宮廷内の魔女は、みんな、そんな扱いなんですか?」

「いいや、うちは自由にさせている。もっとも、近親者には魔女がいないのだけれど」

「そうだったのですね」


 魔女狩りの不安は、お姫様も一緒ってわけか。


「明日はぼくも、早めに訪ねて行くよ。だからユイニャン、どうか気を落とさないで」

「はい、エリオット様。どうもありがとううございます。でも、あの……」

「どうしたんだい? ユイニャン?」


 そうだよ、言いよどむ場面じゃないよ!あれだけ派手に告白したんだから。


「……エリオット様、それにミカリン。明日、もしわたしの計測結果がよくなかったら、ごめんなさいっ」

「その時は、ぼくの権力を使わせてもらうよ。きみを処刑させたりなんかしない!」

「そうよ! いざとなったら、あたしに魔力をくれればいいんだし」

「でも、そんなことしたらミカリンが……」


 悲しい予感しかしないあたし達の空気を浄化するように、エリオット様がユイニャンの肩に手を置いた。


「魔女狩り実行委員会だって、無能じゃないだろ。それなりの対策はしてくれるはずだと、信じよう?」

「……はい。ありがとうございます」

「さぁ、せっかくのデートだけど、今日はこれで帰ろう。明日にそなえて、二人を送るよ」


 エリオット様は、きっともっとユイニャンに言いたいことがあるはずなのに、それ以上は言わなかった。


 こんなにやさしい王子様が恋人だって理由で、ユイニャンはカナミア様にうとまれてる。お互いにそれだけの価値はあるってことだよね?


 でも、それはそれとして、不安なんだろうな、ユイニャン。正直なところ、あたしも不安でたまらないよ。


 それなのに、エリオット様は堂々としていてかっこいいな。さっきはあたし、もっと堂々としていてください、なんて言っちゃったけど、これ以上堂々とできないくらいだよ。ああ、あやまりたいな。


 レモンティの森は、夕暮れに近づいていて、あたしもユイニャンもおっかなびっくり歩いてる。どっちかが転びそうになると、エリオット様が自然と手をさしのべてくれた。足元がぬかるんでいるのは、ゆうべの雨のせいかな? こんなに地盤がゆるい道を通って、ユイニャンは毎日滝へ向かってたんだ。あたしが車を修理している間に、どこかに行ってるとは思っていたけど、まさか魔法の練習をしていたなんて、知らなかったよ。だからこそ、明日はがんばらなくちゃね。


 つづく







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