第6話 唯我独尊

 普通だったら、なんておばあ様思いの女の子なのかしら、って感心するところだけど、こればっかりはそうはいかない。ローズヒップティのお姫様は、おばあ様の予言を信じている。だけど、その予言って、どこから出てきたのかしら?


 そんな予言のために魔女狩りがおこなわれるようになったなんて、なんだか割にあわない。要するに、やってらんないっ!!


「どうしたの? ジョシュアからの報告によれば、今日、プラグ男爵を壊したのはあなただって聞いたのだけれど」

「あれは、わざとではありません」


 ユイニャンは必死に訴えた。そう、あれはただの事故です。魔法は使ってませんから。


「あぁら? それならどうして男爵が壊れたのかしら? 魔女狩り実行委員会に対する暴挙なんじゃないのっ!?」

「ちがいます。あの時はただ、息ができなくて、それで、お湯から出ただけなんですっ! 本当にわざとではありません!!」


 さすがに見ていられなくなったのか、エリオット様がカナミア様の肩に手を置いた。白い肌にポッと赤みがさす。


「ユイニャンもこう言ってるし。もういいじゃないか」

「よくありませんわ。あなたはね、エリオット。この魔女にすっかり魔法をかけられてしまったのよ!?」

「そうだね」


 エリオット様はなんのためらいもなく、カナミア様の言葉を肯定した。


「ぼくはきっと、ユイニャンに恋という魔法をかけられてしまったのかもしれない」


 あいかわらず、キザ……。その一方で、カナミア様はキィーとハンカチをかみしめている。


「よくもぬけぬけとっ!! ユイニャン・セイロン、あなたエリオットに恋の魔法をかけたのねっ!!」

「いいえ、かけていません」


 いや、そのかけあいはどうなのよ?


「そうだよ、カナミア。ぼくはものの例えとして、恋の魔法をかけられた、と言っただけだ」

「それでもっ!! 言霊ことだまという言葉があるでしょう?! ですからやはり、あなた本当は、魔法をコントロールできないフリをして、魔法をかけたのよ! そうよ、そうにちがいないわ!」


 噂通りのお姫様ね。なんでも自分が正しいと思っちゃうんだから。もうあたし、見てられない。


「おそれながら、カナミア様。ユイニャンにそんな器用なマネはできません」


 カナミア様があたしに向き直った。今にも泣き出しそうな顔してる……。


「あなたは?」

「ミカリン・アールグレイです」

「ではミカリン。あなたに聞くわ。どうしてみんな、ユイニャンの味方なの? 単に計算高くて、なにもできないフリをしているだけではないの? しかも魔女よ」

「だからです。ユイニャンが本当に計算高いなら、とっくの昔に、あたしに魔力をゆずってくれたはず。その結果、あたしが死ぬことになるとしても」


 コントロールできない魔力の受け渡しは禁じられていない。ただし、結果は見えてる。暴走した魔力が相手を殺してしまいかねないからだ。それでも安全・・に魔力を奪うというなら、よほどの魔法使いに補助をしてもらうしかない。この説明でまだわからなかったらお姫様、よっぽど魔女を憎んでいるか、あるいはエリオット様が好きなのかって、両方か。


「それがなに?」


 だけど相手はカナミア様。なんなのそれ、とばかりに胸をそらせる。


「聞いてなかったのか、カナミア。ユイニャンがもし、自分勝手だったら、自分の身を守るためにミカリンの命がどうなろうと、魔力を渡そうとするってことだ」


 カナミア様はうっとりとエリオット様の話を聞いた後、またツンとそっぽを向いた。


「ですから。なぜ、そうしないの?」

「わたしが、臆病だからですっ」


 突然、ユイニャンが叫んだ。カナミア様は一瞬ぼんやりして、それからユイニャンを見てあざ笑った。


「ふん。臆病者の分際で、わたくしのエリオットとおつきあいしようなどと大胆にもほどがあるわ。あなた、やっぱりただのウソツキね」

「ウソなんかついていません! わたしは、臆病だけど、エリオット様を愛しています!」


 すっごく大胆な愛の告白だわ。エリオット様、おもわず口を開けちゃってるよ。


「まあぁ、なんてずうずうしい。 ……明日になれば、また魔女狩り実行委員会があなたの魔力を計測に行くわ! 今度こそ、逃げずに魔力を計測してもらうことねっ!」

「待ってくれ、カナミア。そのことで相談がある。きみはジョセフおじ様のお気に入りだろう? ユイニャンの魔力をおじ様にさしあげたいと、きみから頼んでもらえないか?」


 おおっ! その手があったか!


「イヤよ。そんなことしても、わたくしには、なんの得もありませんもの」


 けど、やっぱり答えはノーか。そうだろうね。ちなみに、ジョセフおじ様っていうのは、ロイヤルミルクティ国の王様のこと。かなりの魔法使いで、なかなかの美形と噂されている。そのジョセフ陛下がカナミア様をかわいがるのはきっと、将来的なことを考慮してのことなんだろうけど。悔しいかな、こればっかりはカナミア様に同感だわ。


「とにかく。明日は覚悟することねっ!」


 カナミア様はユイニャンに人指し指を向けてすごむと、優雅なしぐさで馬車に乗り込んでしまったのだった。


 つづく










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