第5話 カナミア登場!!

 レモンティ国の森を抜けた先にある処刑の滝で、かなり効率の悪い恋人同士を目の前にして、あたしは本気で怒っていた。だって、このままじゃ、親友のユイニャンが傷つくことになっちゃう。


 しかもよ、しかも、ユイニャンは傷つくことがわかっていて、エリオット様の告白を受けた。こんなバカなことってある?!


「ミカリン、わたしなら大丈夫ですから」

「大丈夫じゃないから、今まで返事をためらっていたんでしょ?!」

「そういうわけではなくて……」

「じゃあ、どんなわけよ? きっぱりその口で言ってみなさいっ!!」


 エリオット様の前だって構うもんかっ! あたしはユイニャンに、本気で答えてほしいんだ。それは多分、エリオット様だっておなじ気持ちなはず。


「わたしが、魔女だからです」

「はい? この期におよんで、ためらっていた理由はそれなわけぇ?!」


 くらげ島に住んでいれば、あたしだってそのうち魔女になるかもしれないんだぞ。そんなことのために、王子様からの告白をためらってたって、本気で言ってるよ、ユイニャンは。


「わかってほしい、とまでは言わない。でも、ユイニャンの親友であるミカリンにだけは、ぼく達のことを知っておいてほしいんだ」

「はっきり言います、全然わかりません。 エリオット様は、ユイニャンが魔女じゃなかったら好きにならなかったんですか? ユイニャンが魔法の練習をしていなかったら、好きにならなかったんですか?」


 ヤバい。なんかいろいろ止まらなくなってる。


「それにユイニャン! あんたねぇ、魔女であることは個性でもあるんだから、そこまで卑屈にならないのっ! 逆に、魔女じゃないあたしがみじめじゃないさ」

「ミカリン」

「だからさぁ、できればもっと、堂々とおつきあいしてください」


 言った。言ってしまった。


「ミカリン、ありがとう。ぼくなりに堂々と、ユイニャンとおつきあいするよ」


 いやね、この時点で二人はすでに堂々としてるとしか言い切れないんだけどね。


 エリオット様の交際宣言の後ろで馬車の音がする。イヤな予感がする。馬車の音にエリオット様も気がついた。


「あの馬車、もしかして?」

「エリオット様のお迎えですか?」


 なんの気なしにそう聞いたのは、馬車があきらかにこっちに向かっているからだ。


「ちがう。あれは、カナミアの馬車だ」


 カナミアって、ローズヒップティ国のお姫様か。これはややこしい話しになりそうだな。


 案の定、馬車はこっちに向かって走ってくる。近づいてくると、馬車の装飾がかなり派手なのが見てとれる。さすがはお姫様。ってことは、やっぱりカナミア様はエリオット様に用があるってことね?


「エリオット様、あたし達、これで帰ります。なんだかイヤな予感がして」

「待ってくれ、ミカリン。堂々としろと言ったのは、きみじゃないか」

「そうなんですけど。これはちょっとヤバいって言うか……」


 ぐずぐず言いあっているうちに、馬車がすぐ近くで止まった。ええい、なるようになれ。


 御者ぎょしゃがうやうやしく赤い絨毯を広げた。ああ、これ本気でお姫様が出てきちゃうやつだ。


 あたしはなんとなく、腰にぶら下げていたレザーケースの中のレンチに手を伸ばしかけた。いや、まだレンチはつかまないよ。ただなんとなく、雰囲気でね。


 従者が馬車の扉を開ける。衣ずれの音と、香水の甘い香りがして、ハイヒールの音が聞こえた。あたしとユイニャンは、本能のように、その場でぬかずいた。


 甘い香りが近づいてくる。


「エリオット。こんなところでなにをしているの?」


 第一声は、しっとりと、あまやか。


「カナミア、きみこそこんなところまでなにをしに来たんだ?」

「あぁら? 質問返し? いいわ、答えてあげる。あなたが魔女とデートだって聞いたから、見に来てあげたの。どっちの子? 双方、顔をあげよ」


 あたし達は、言われた通りに顔をあげた。目の前にいたのは、めちゃくちゃドレスの裾が短い、かわいらしいお姫様。


 エリオット様は、ユイニャンの手を取り、助け起こす。


「彼女が、恋人のユイニャン・セイロンだ」

「はぅ、はうあ~」


 へぇ、なかなか堂々と紹介したじゃない。けど、お姫様は不満を顔一杯にあらわしている。


「こんにちは、ユイニャン? あなた、どんな魔法が使えるの?」

「わた、わた、わたしは、その……」

「ユイニャンは魔力をコントロールできないんだ。だから毎日、ここで特訓しているんだ」

「へぇ~? それでいつか、くらげ島を滅ぼそうって魂胆じゃないでしょうね?」

「ユイニャンはそんなことはしない!」

「あぁら、ずいぶんご執心だこと。けど、エリオットあなたわかってる? その娘が言い伝えの魔女かもしれないのよ?」

「そんなこと、わからないじゃないか! だいたい、あの言い伝えだって、本当かどうかもわからない」

「本当よ。だって、あの言い伝えはわたくしのおばあ様の予言ですもの」


 はぁ? 予言? そんな話、今まで聞いたことがないんですけど。


「おばあ様の予言は絶対よっ! そしてわたくしは、その血を受け継ぐ唯一無二の存在! おばあ様を否定するということは、カナミア・ローズヒップティを否定するもおなじこと。ゆえに、魔力をコントロールできない魔女なんかに、エリオットは渡さないわっ!!」


 カナミア様も、堂々と横やり宣言をしてくれた。


 つづく




















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます