第2話 コーダー婦人

 コーダー婦人はプラグ男爵を連れて、家の中に入ってくる。従者達も土足だ。


 もう!? ちょっとは遠慮してよ。こう見えても、乙女の部屋なんだからさぁ。


「ここにもいない。こっちにも。……あなた、魔女をどこかに隠したでござんしょ!」

「隠してなんていませんよ?」

「ぷぷぷぷぷぷ。ぷー!」

「あら?プラグ男爵が、お風呂が怪しいって言ってるわぁ」

「ちょっと待って!? ここ、あたしが住んでるんですよ!? 魔女狩りだかなんだか知らないけど、本当のところ、乙女のお風呂場が見たいだけなんじゃないの!? この、スケベ!」


 まったく!!


「そうおっしゃるなぁら、あたくしと男爵だけでうかがいますわ。みなの者、外で待機なさい」

「ぷぷぷぷぷぷ。ぷー!」


 そうこうしている間に、男爵が風呂場に向かってる。……ユイニャン、本気で車庫にいるよねぇ?


「まぁったく、水は苦手ですのにぃ」

「土足で入ってきて、その口ぶりったらないわ。王子様に頼んで、でもっと質のいい言語ソフトに交換してもらったらどう?」


 なにしろあたしは16才。その乙女の寝室に土足で入られた上に、従者達に部屋をジロジロ眺め回されたんで、気が立っていた。ロボット相手に悪態をつくってもんよ。


「ぷぷぷぷぷぷ。ぷー! ぷー! ぷー!」


 なんてお気楽に考えているうちに、なにやらプラグ男爵が浴槽で首を回し始めた。


「おっほほっ。どうやら浴槽の中に、魔女がいるようですわね。さぁ、出ていらっしゃい‼」


 コーダー婦人は人間のように右手の人指し指をびしっと浴槽に向けた。……無反応。けど、浴槽ぴったりに張ったお湯の中から、ゴボゴボと不審な音がし始める。


 あたしは異常に沸き立つ湯気の中で、目を見張った。なにかがあきらかにお湯の中にいる!?


 ……ってことは、もしかしなくてもユイニャン?


「ぷぷぷぷぷぷ。ぷー! ぷー! ぷー! ぷー!」


 プラグ男爵は激しく首を回し続ける。もう逃げられないっ。 こんなことならユイニャンに、魔法でもっといろんなことをしてもらうんだった。って、ちっがあ~うっ!!


「ぷぷぷぷぷぷ……」

「さぁ、出ていらっしゃい」

「……ぷっはぁ~~~‼」


 あろうことか、ユイニャンは、お湯をまき散らして顔を出した。あ~、もうびしょぬれだよぉ。


 ……ん? ってことは……?


「ぷしゅー。ぷっしゅー……」

「くしゅん! へっくしゅん! 男爵。プラグ男爵。しっかりなさいまし。っくしゅん」


 な、な、なんと! 二体をつないでいたコンセントがショートして、焼ききれてしまったのだ! これにより、プラグ男爵はかなりの重症をおってしまった模様。なにしろさっきからぷしゅー、ぷしゅーと不穏な音をたてているから。


「あら?あらあらあらあらあららららら?」


 今度はコーダー婦人の様子がおかしくなった。その場でぐるぐると回り始めたのだ。


 その一方で、お湯から顔を出したユイニャンは、苦しそうに肩で息をしている。顔なんてもうゆでダコみたいに真っ赤だよぉ。


「どうやら、あたくしは自由に動くことができるようになったのですね」


 コーダー婦人は焼ききれたコンセントを持ってしみじみ言った。


「では、プラグ男爵。このお嬢さんの魔女測定をお願いしますわ」

「ぷ……ぷしゅー、ぷしゅー、ぷ……」

「あらあら。プラグ男爵が故障したわ」


 そう言うと、コーダー婦人はエプロンの中から小型の機械を取り出した。


「しかたありません。少々アナログな方法ですが、こちらの測定器を使うことにしましょう」


 ユイニャンは、頭から湯気を出して緊張している。一体どうしてお湯の中にいたんだろう!?


 ああ、万事休す!


「え~と、どれどれ?」


 コーダー婦人は古めかしい機械でユイニャンを測定している。どうやらこの機械も、湯気の影響を受けているとみて、時々耳障りなノイズ音が響く。測定器の針は、右に行ったり、左にふりきれたり、せわしく動く。


「ダメね。お湯の中にいるあなた。あなたね、だいぶ魔力が不安定ね。でも、今のところ、害はなさそうだから、今日のところはこれで帰るとしましょう」

「……はあ?」


 ユイニャンはびしょぬれなまま、ぽかんとお湯につかっている。


「ただし、プラグ男爵が直り次第、また測定に来ます。それでは、ごめんあさぁ~せぇ~」


 自分の役目を終えたコーダー婦人は、自力で動けなくなったプラグ男爵を軽々とかついで出て行った。


 どうやら、セーフってことらしい。


 浴室に残されたあたしとユイニャンは、ポカンとしてから、くしゃみをした。


 つづく

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