Take-48 映画『恐怖の報酬〈完全版〉(Sorcerer)』(1977──完全版は2018)は面白かったのか?

 わしゃのねぐらには『エレベーター』なる文明機器がついている。


 おしげもなく、これみよがしに、金剛力士像のように「オラどっちに乗りたいんだよ。あ?」と言わんばかりに、左右にで~んと、立ちはだかっている。


 好む好まざるに関わらず、こいつとだけは毎日顔を合わせることになるわけで、もはや嫁のような気分にすらなってくる。時には味方、時には敵、恋人だったこともあったかな?って気にもなってくる。そして時にはアントニオ猪木のように思えてもくる。


「どうだぁーっ、コノヤロー! 歩かなくてもおまえが上に行けるのはオレのおかげなんダーッ! 迷わず乗れよ、乗ればわかるさ。元気ですか~っ! ハッハッハ、元気があればなんでもできる。だったら階段使えっ! バカヤローッ! 上るぞーっ! イ~チ、ニ~、3階ですかーっ?!」


イヤ、6階なんですけど……


 と、今にもそんなことを言ってきそうである。


 この『エレベーター』であるが、乗っていると時々「閉めちゃいますよ人間」に遭遇することがあるのだが、皆様は出会ったことがおありだろうか? 


 まだチマタには出回ってない都市伝説であるから御存知ではない人もいるかもしれにゃい。


 そう、それは信じるも信じないもあなた次第なお話……。これを読んでしまうと遭遇率がぐっとあがってしまうかもしれませんので、自己責任でお読みくださいませ。


 そう、それは今から数年前。もう初夏だというのにまだ肌寒かった夜のこと。あれは、ちょうどわしゃがこのエッセイを始めた頃でしたかね、友人と飲んでて遅くなった時でした。いつものように帰宅したわしゃはエントランスを抜け、エレベーターに乗り6階のボタンを押したのであります。その時、ヒタ、ヒタ、ヒタ……と、どこからともなく一人の老婆が現れたのであります。


「乗り……ます……」


 老婆は、蚊の鳴くような声でそう呟くと、スッとエレベーターの中に音もなく入ってきました。老婆は私の下の階──5階のボタンを押しました。エレベーター内は──電気が切れかかってるのか──ちかっ、ちかっ……と点滅し、そのたびに老婆の横顔を妖しく照らし出しておりました。


 やだなー、怖いなー。


 私はそう思いました。室内は二人きり。老婆の押した5階へ到達するまで、やけに時間が長く感じたことは、きっと御想像いただけることでしょう。


 ようやく5階へ着き、ドアが開くと、私はホッと胸を撫で下ろしましたね。老婆は降りる際にこちらを一度振り返り、にやぁりと、意味深な笑みを見せました。その時、


 ぞくぞくっ! なんだか背中に冷たい水を垂らされた気持ちになったんです。 


 まるでマネキン人形のような老婆のその細い腕がカクカクカクと動いたかと思うと、想像すらしていなかったことを──老婆は始めたのです。


 ヒッ……ヒ……ヒ…………


 カチカチカチカチカチカチカチーッ!


 そう。


 老婆は『閉』のボタンを5、6回連打しながら、エレベーターを降りていったのでありました。


 いません?


『閉』のボタンを押しながら降りてく人。


 でもあなたの腕がセンサーに引っ掛かってるから閉まんないのよ! あなたの腕だけこっちに入ってて『閉』ボタンをカチカチ押したって閉まるの遅くなるだけだから! そのままなんにもせずスッと降りてくれた方が早く閉まるから!


 まあ、気持ちはすっごくわかるんすけどね。なのでもしも「私もやっちゃってる」という方がいましたらごめんなさい。


 ああ、いい人なんだなこの人ってのはわかるんですけど。


 エレベーターに乗ってるとこれが一番よくわからんというか、謎の行動というか、いっつも思うんですよね。

 (;゜∇゜)


 先日、芸人の山田ルイ53世さんが「エレベーターで隅に立って『開く』のボタンを押してあげてる人が、なんかこれみよがしで、やだ」と書いてたのを読みましたが、これもまさに親切心の逆効果というやつなんですかね。


 さて、マクラはこれくらいにしておき、皆様、クリスマスは楽しくお過ごしになられましたでしょうか? 


 私めペイザンヌは前回クリスマス禁止令を出されてしまいましたので、く~らい部屋~でひと~り~ローソクをつ~けたまま~、福神漬けのモロヘイヤ和えを食しながら「くーっ、悪魔的だぁ~!」と藤原竜也なみに唸りつつ『八甲田山』を観賞しておりました。



 くっそー、来年こそはシヤワセになってやる!

 (# ゜Д゜)


 てなわけで、今回は『八甲田山』、じゃねーや、『恐怖の報酬(『Sorcerer』)〈完全版〉』。


 流れからして、今回は『スターウォーズ』の完結編あたりだと思ってた方もいるかもしれませんが、そこはひねくれ猫。裏をかいてみました。フッフッフ。


 Twitterの方(Tatan8Tathu──ペイザンヌで登録しております。お気軽に♪(°▽°))ではちらちら呟いておりましたが『スター・ウォーズ』の方ももちろん、満を持して初日に観てまいりましたので、いずれはこのエッセイに取り上げるつもりであります。しばしお待ちを。

m(__)m




 さて、『恐怖の報酬〈完全版〉』。こちら1977年の作品でありますが30分ほどカットされてたシーンを元に戻しての〈完全版〉として今年2019年、再公開。リメイクとしては日本でも異例のヒットとなったといいます。


 監督は『エクソシスト(1973)』『フレンチ・コネクション(1971)』など映画史に残る大作を撮りました、まさに大御所、ウィリアム・フリードキン監督。長いのでドキンちゃんと呼ぶことにしましょう。


 今回の『恐怖の報酬』も冒頭が『エクソシスト』のような、まるでガチホラーでも始まるんちゃうかなみたいな、そんなタイトルバックから始まりました。


 始まってしばらく経っても「んぁ……コレほんとに『恐怖の報酬』だよね、間違って借りてきてないよね?」と本気で思うようなそんな展開がしばらく続きます。


 ドキンちゃん自身、この映画には「1カットたりとも無駄なシーンはない!」と豪語していたので、今回の〈完全版〉の公開は感無量のものでしょう。


 わしゃはこのリメイク版(完全版ではない方)、以前、観たよーな、観たことないよーな、なんかハッキリ覚えてないんですよね~。

( ̄▽ ̄;)



 そう、周知の通り、このドキンちゃん版『恐怖の報酬』はリメイク作品であり、オリジナルは巨匠アンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督が撮ったモノクロの『恐怖の報酬(Le Salaire de la peur)』(1953・仏)。名作中の名作。オールタイムベストの常連です。


 邦題は同じですが原題の意味は違っております。ドキンちゃん版の原題は「Sorcerer」。「魔術師」の意味ですやね。

 つまり今回のこれは「リメイクされた映画の──完全版」ということであります。



 とはいえ──油田で火災事故が起こり、それを爆風で消火するために4人の男たちがニトロを現地までトラックで運ぶ──という、本筋は同じであり、まあ誰もが一度は耳にしたことがあるストーリーなんじゃないかなと。


 オリジナル版もなんというか、ずいぶんと昔に見ただけで、アクションに入る前がやたら長いな~と思った記憶が。今回このエッセイを書くにあたり、もう一度観たかったのですが、それもままならずでした、申し訳ありません。

 m(__)m


 昔っから思ってたんですが「ニトロで消火する」ってなんか不思議な感じがしますよね。


 まあ、ちょっと垂らしたりすると爆発するってのは有名ですが、爆発なんかしたりするとよけい火の手が強まったりしないんですかね? ガソリンとかじゃないから引火したりしないってことなのかな? 理系じゃないのでよくわかりません。

( ̄▽ ̄;)


 このニトログリセリン、狭心症などの薬にもなってますよね。この薬は「飲む」のではなく、舌の下に置くようにしのばせるそうですな。それは爆発するのを防ぐため……ではもちろんなく、舌の下(駄洒落ではない)から成分を浸透させるためなんだそうですね。


 この爆薬というか発破が、薬となるとは……。それに気づいたのもたまたま偶然の発見だったそうです。


 その昔、火薬工場で働いている狭心症の人がおりまして、休み明けの月曜になると必ず苦しくなるらしいんですな。仕事中は至って元気なのに。はて、これはどういうことじゃらほい? ってことで調べてみたところ──原料であるニトログリセリンの粉塵が工場内に舞い、露出した皮膚や粘膜からある成分が吸収されて狭心症が抑えられていたものの、週末に休みをとることで粉塵にふれることもなく薬がきれて、月曜日に力仕事を始めることで狭心痛が起こった──と推理されたわけです。



 そんな出来事があり、やがて、ニトロが心臓の血管を拡張させ、心臓の負担を抑える効果があるということがわかったわけらしいですな。へぇ~。


『ブルーマンデー』という言葉もこの一件によって使われるようになった言葉だそうです。まあ、現在では「はぁ……仕事に行くの、かったり~な~」とか、そんな意味に使われるのが常となってますけど(笑)


 ちなみになぜ爆薬のニトロにそんな効果があるのか、原因はさっぱりわからなかったらしく、それが解明されたのはついぞ最近のことらしいですね。その方はノーベル賞をとっております。


 ジャンプの漫画、『僕のヒーローアカデミア』にもニトロの(ような)汗を出すというキャラがいましたが、よくよく考えてみると危なっかしくてしょうがありませんわな、アレも。

 えーと、爆発五郎でしたっけ?(爆豪勝己です…)



 この「ちょっとでも刺激が加わると爆発しちゃう」ってのがこの映画のサスペンスを生んでいるわけでありまして。


 そもそも──ええ、わしゃのビルに備え付けられたエレベーターも然りですが──『車』というものは速く走るためのものであります。A地点からB地点まで早く移動するため、もしくは物資を早く楽に運ぶために──発明されたといっても過言ではないわけです。A地点B地点という言葉で「ザ・ぼんち」を思い出してしまう人はほっとくとして、それがニトロを積むことにより「速く走れない」というカセを持ってしまうわけですな。


 なのでトラックはノロノロとノロノロとジャングルの中を進んでいくわけです。けっこう崖っぷちスレスレのようなポイントもあり、うわ、こっれ映画館の大画面で見たらめっちゃバクバクすんだろな……みたいな場面も。


 この行く手を次々と遮るトラップ感といいますか……時間が~迫る気は焦る~と、ついついアスレチック・ランドゲームを思い出してしまう人はほっとくとして、これはもうオリジナルを遥かに越えてるんじゃないかと思いましたね。



 んで、この逆をついたのが御存知キアヌ・リーブスのメジャー出世作『スピード(1994)』。


 こちらは、ある一定の速度までスピードが下がってしまうと爆発する──という逆転の発送をついてますよね~。まさに「うまいパクり」というかアレンジってやつの見本じゃないかなと(根本は同じなんだけどそのまったく逆の思いつき、というか)。


 この『恐怖の報酬』の見所中の見所でありますが、ニトロを積んだ2台のトラックなんですがね、コレが途中からほんっとに密林を練り歩く獣に見えてくるんですよ。いやホントだから!


 そして、スビルバーグのデビュー作『激突!(1971)』。あの、逃げても逃げても追いかけてくる巨大タンクローリーもそんな風に見えましたが、これはそれよりも凄かったすね。雨で濡れた表面のヌルヌル感というか、木々を掻き分けながらのっしのっしと進むその姿には、タイヤじゃなく四本の脚が見えてきそうなくらい。

(; ゜Д゜)


 そしてなんといっても見どころは、ポスターにもなっております、ボロボロの──今にも落ちそうな吊り橋の上をトラックが渡っていくところ。


 CGのない時代、コレ本当にどうやって撮ったんだよ?! ていう。緊迫感がね、もう、凄いったらありゃしないんすよ。

(;゜∇゜)マジカヨ……


 ただ、ラストシーン。

 オリジナル版では、仕事を終え、一人だけ生き残った主人公が有頂天になって蛇行運転していると、ちょっとした不注意からあっさり事故って死んでしまう──といういかにも皮肉なものでして。それまであれほど慎重に運転して、せっかく生き残ったのに……という、オリジナル版のラストの方が僕は好きだったかもしれませんね。あのシーンを見るために二時間半見てきたといっても過言ではないくらい。



 もちろん、こちら、リメイク版のラストも違う意味でいいんすよね~。4人の死因が、それぞれ彼らが「ようやく逃げ延びたはずのもの」に起因するものだった──というのが実にイイ。タイトル通りまさに恐怖の『報酬』を頂戴するわけです。


 そんな因果応報といいますか、運命の皮肉ってやつがリメイク版にもたっぷり詰まっておりますのでそこは御心配なく。


 映画を見慣れてない方など、じゃっかん前半が取っ付きにくいかもしれませんが、後半は万人がぐいぐい惹き付けられると思います。まあ、もちろんそれは、前半を照らし合わせたうえでの面白さだということに見終わったあと気づくのではありますが。



 主演は『フレンチ・コネクション』でジーン・ハックマンと共にフリードキン監督とタッグを組みましたロイ・シャイダー。『JAWS(1975)』のブロディ署長でも有名ですね。今回はめっちゃ泥臭い演技を見せてくれました。

( ̄▽ ̄)♪



 さて、皆様おわかりのように、今回の冒頭は稲川淳二の怪談風に書いたわけですが、稲川淳二さんというとわしゃ的には怪談よりも「リアクション芸人」だった頃の方が馴染みが深いんですよね~。なので彼が『俺たちひょうきん族』や『スーパージョッキー』などでよくオチに使ってたあの言葉で、今回はシメてみようかと思います。



『皆さん。いかがですか。楽しんでいただけましたでしょうか?──』



 なんだか都心ではすっかり暖冬みたいな気候になっておりますね。皆様、ゆっくりと年の瀬をお過ごしくださいませ。年内にもう一本、書けるかな~と思っておりましたが、もはや間に合いそうにないので、ひとまずは、


「よいお年を♪」

 ヽ( ̄▽ ̄)ノ




【本作からの枝分かれ映画、勝手に三選】


★『ヘル・ファイター』(1968)


……本文でも書いたが『恐怖の報酬』では、ニトロを現地に届けるまでで、それを使って消火する作業は映されてなかった。


 一方、こちらの映画はそのニトロを使った消火をする者たちを中心に描かれている。わしゃのように「どうやって行われてるのだろう?」と疑問に思ってる方は必見。爆発シーンもなかなかリアルで迫力があります。


 テレビドラマ『ローハイド』などにも参加していたアンドリュー・V・マクラグレン監督。主演はジョン・ウェインにキャサリン・ロス。



★『NITRO ─ニトロ─ 』(2010)


 フラれて別れた彼女が頭のおかしい老人に誘拐された! なんだかよくわからないけど全身にニトロを塗られてしまった彼女を主人公が救うというヘンなアルゼンチン発のホラー・サスペンス。


 ちょっとでも刺激を与えたり体温が上がってしまうと爆発する『恐怖の報酬』の人間バージョン。うん、ホントにヘンな映画だよね。


 ソリッド・シチュエーション・ホラーでは定番のアルバトロスが製作でありますが、まあ賛否両論ですやね。他の方のブログなんか読むとそこそこ評価されてたり、またはケチョンケチョンにけなされてたりします(笑)真意はその目で確かめてください。

( ̄▽ ̄;)



★『ハンテッド』(2003)


……本作の監督、ドキンちゃんの作品からもひとつ。


 かつて軍で教官を務めた男と、戦争で深い傷を負い殺人鬼と化した彼の教え子との戦いを描いたサバイバルものである。 劇中で、自然の中に残された小さな痕跡から野生動物をトラッキング(追跡)する技術が扱われており、注目を集めました。


 追うは『追跡者』トミー・リー・宇宙人・ジョーンズ・BOSS、追われるはベニチオ・デル・トロという名優同士のガチ対決。


 かつての師弟同士の知能戦、技能戦ってのが、めっちゃそそりましたわ。そういうシチュエーションってなんか好きなんだよなぁ。

(;゜∇゜)


 ナイフを使った接近戦──コレがまた、スピーディーでね、けーっこう見所があるんですよ。カンフーみたいでカッコいい。僕は面白かったなぁ。あんまりメジャーじゃないけど隠れた名作やと思ってますね。こちらも『恐怖の報酬』と同じく、観て、決して損はしない映画だと思ってます♪




 さて、こちらのエッセイ、『小説家になろう』の方でも掲載をしているわけですが、以前も言いましたとおり、あちらでは画像付きで紹介をしてます。その分、カクヨム版よりもイメージがしやすいと思いますので、ぜひ、どんなもんかな~? くらいでも構いませんので一度とぞいてみてやってくださいませ♪


https://ncode.syosetu.com/n1932db/

こちらから↑


 そして願わくばでよいので、ブックマークの方などしていただければ、ペイザンヌは飛び上がって踊り出します。



 本年はたいへんお世話になりました。2020年もよろしくお願いいたします。皆様にとってよい年になりますよう──

m(__)m


     ── ペイザンヌ ──

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