雑誌について

モードの帝王。さて誰でしょう?

 第2回コンテストが想像以上に修羅場だったのでずいぶん長期間こちらを放置していてすみませんでした……!


 ということで、大変にお待たせいたしました。

 ひさしぶりに書店員エッセイ、更新です。



 前回までの予告通り、私の雑誌担当時代についてのお話でございます。


 ライトノベルの内容とは少し外れてしまいますけれど、小説やコミックだけを見ているだけではわからない世界もあるのだということで、どうか「異世界」をのぞいてみるような感じでお読みいただけますとさいわいです。


 

 以前お話した内容ではありますが久しぶりになりますし振り返りの意味でもお話いたしましょう。

 

 私はふたつの書店で、雑誌、文庫とそれぞれ違う担当を持った経験がございます。


 こうして書店員としての経験を通してライトノベル中心のエッセイを書いているのですけれど、実は雑誌担当時代のほうがはるかに長かったりします。

 

 まずは社員さんと共同、という形を取ったあと、その方が異動になったあとは雑誌全体を見るようになりました。


 とはいえ、雑誌担当していた頃の店舗はそれなりに広かったので一人では準備しきれず、多くの方に手伝ってもらいながらではありましたけれど……


 現在右肩下がりで売上が落ちていっている分野とはいえ、雑誌はコミックとともに書店売上のかなりの部分を占めています。そんなところを任せてもらっていたなんて、今考えればありがたく、恐れ多いような話です。



 さて、私が雑誌担当をするようになったあたりから、特に女性ファッション誌ではある変化がみられるようになりました。


 それは、今は当たり前となっている、付録商戦です。


 女性の読者さんですと、ファッション誌ってよくブランドとコラボしたバッグとか小物・化粧品などが入ったダンボールが付録として挟まっててこんもりした状態で積まれているのを書店で目にしたこともあるのではないでしょうか?


 これは私の記憶が確かならば、ラノベ読みの皆様ですと『このライトノベルがすごい!』で毎度おなじみの宝島社さんが仕掛けたムーブメントであったはずです。


 まず若い方向けの女性ファッション誌というのは、週刊の『アンアン』(マガジンハウス)を除けば

 

 『JJ』(光文社)『ViVi』(講談社)『CanCam』(小学館)


という「御三家」が圧倒的に強く、売上でも他誌を大きく引き離していました。



 そこで後発の宝島社さんは『InRed』『Sweet』などの雑誌に、大手ファッションブランドとコラボレーションした商品を「付加価値」としてつける商法で対抗しようとしたのです。


 要はチョコレートウエハースにシールという付加価値を与えた、ビックリマンチョコのような商法ですね。

 

 KADOKAWAの大塚英志さんが付加価値というお話をなさる時によく引き合いに出す商品なんですけど、今の子わかりますかね……?


 まあそれは本題ではないのでさっさと進みましょう。


 宝島社さんは、ある超有名ブランドとタッグを組み、ブランドのバッグを付録としてつけた『ムック』(定期的に出すタイプではない雑誌)を大々的に売り出します。 

 あ、ムックといってもあの赤い謎の生物じゃありませんぞ~。

 ……ゴホン。失礼しました。


 『キャス・キッドソン』とコラボレーションした商品がヒットしたのをきっかけとして、宝島社さんは中くらいの箱にブランド物を梱包した商品を売り出していたのですが、競合他社もブランドものをこぞって付けるようになったのはあるブランドムックの大ヒットがきっかけでした。


 黒い箱に黄金のロゴが大きく目を引くデザイン。

 

 それがタイトルで出した『モードの帝王』こと『イヴ・サンローラン』のブランドバック付き雑誌でした。


 ファッションバッグが低価格で、しかも書店という比較的どこでもあるようなところで買える――というのは世の女性にとって当時、本当に革命的でした。

 熱狂はすさまじく、当時飛ぶように売れたものです。


 私のいたような中規模のお店でも確か3桁は売り上げたのではないでしょうか?

 

 ひとつの雑誌でそこまで売れることは、通常ですとまあ、まずありえませんね。いや、実のところ例外もあったのですがそれはまた次回。

 

 その後も『ANNA SUI』など有名ブランドのコラボを成功させ「書店でブランドものを買う」という新たな流れを生み出すことに成功した宝島社さんはファッション誌の分野で大躍進を果たすのです。

 これ以降他誌も追随するようになり、有名ブランドの取り合いといった様相を呈するようになったのです。

  


 と、このように多くのファッションブランドの名前を冠した付録がついたりするおかげで、書店員してるとファッションブランドの名前はやたら覚えてしまう(笑)

 

 ファッションブランドに強くなりますよ!

 お前が着ているのはユニクロなのにね……って余計なお世話です!(泣)


 

 なおそうして御三家に割って入った宝島社さんのファッション誌ですが、付加価値に依存するあまり売上が安定しないという致命的な弱点も抱えていました。


 その月についているブランドものによって売上が大きく左右されるようになったのです。付加価値そのものが雑誌本体の価値を上回る、ビックリマン現象です。


 ある月では70~80部売り上げたと思えば、ある月ではひどい時には10ちょいしか売れない。信じられないような話ですが、本当にありました。


 そのファッション誌における革命的変化の只中を、私が売り場を担当するようになってごく最初に経験することとなったのです。いやはや最初のうちはどのブランドが売れるのかわからず苦戦したものです……(笑) 


 詳しい女性従業員方からアドバイスを頂きながら少しずつ覚えていったら、次第になんとなく「あ、これはいけるな」「うーん、これはイマイチそう」とか、感覚でわかるようになっていきました。

 

 気分はもう完全に乙女でしたね。


 

 一定期間の買い替え前提にはなりますが。


 バッグはそのような付録で済ませてしまうのも、実は普段生活していく上で有効な技です。ぜひとも書店でマイバッグ。街行く女性が持っているバッグとかよく見れば「あ、あの付録じゃん」というような意外な発見ができますよ。


 なお男性誌でも『smart』(宝島社)や『MEN'S NON-NO』(集英社)などがよく付録を付けていますので男性諸君も覚えて帰るのだ。

  


 ちなみにこの付録商戦はオタク業界とも密接にリンクしているのは、みなさんもなんとなくおわかりになるはず。


 雑誌に付録を付けて売る、というスタイルをファッション誌で確立したのが宝島社さんならば、オタクグッズを付けて売るというスタイルを確立したのは? 


 そう、ほかでもないKADOKAWAさんです。


 ただでさえ分厚い『少年エース』誌などにフィギュアとかつけるものですから、書店で積む時はかなりの厚さに……(笑)


 私が書店員をしていた頃『コミックアライブ』誌の付録に『のんのんびより』のフィギュア型スマホスタンドが付属していたのを、オタクのお客様とそれで盛り上がったからよく覚えています。

 

 れんちょんスマホ支えるのん!

 


 ――さて。


 いかがでしたか? 

 

 これまでと違って小説分野から大きく外れた内容に舵を切ったのでみなさまが面白く感じていただけるか少し不安ではありますけれど……


 ファッション誌を扱った話は、もうちょっとだけ続くのじゃ。


 どうか次回もお付き合いいただけますとさいわいです。それでは、運営さまサイドの女性陣からツッコミが入らない限りはまたお会いしましょう。

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