時代小説という『安定感』

 年末ですね。大掃除などにお忙しい方々も多いのではないでしょうか。

 本年は大変お世話になりました。来年もまたよろしくお願い申し上げます。


 今回は、これまでなかなか機会のなかった、ライトノベルや一般文芸とはまた別の方向で安定した市場を形成している分野でありますところの『時代小説』についてお送りいたします。

 


 昔は江戸時代の日本などを舞台とした『鬼平犯科帳』や『遠山の金さん』『水戸黄門』などの歴史ドラマ、いわゆる『時代劇』がゴールデンタイムに放送されていましたよね。

 20代以上の世代ですと再放送で少なくとも一度くらいは目にしていたのではないでしょうか。


 10代くらいの世代にはピンとこないかもしれませんが、1話完結の、勧善懲悪を基本とした、気軽に見ることのできるシリーズが数多く放送されていたのですよ。

 いやあこういう言い方はなんというか老害チックですなあ……(苦笑)


 ゴホン。

 ともあれ、要は今年の『真田丸』のような、いわゆる大河ドラマでしか歴史ドラマを目にする機会がない、といった方々も多いと思いますけど、かつては非常にありふれたジャンルとして、高い年齢層の方をを中心に多くの方に親しまれていたということ。


 ――いや実のところ、今でも時代劇専門チャンネルや衛星放送などを中心に手堅く人気のジャンルであり、新作も数多く放送されているのですけどね。私たちが普段目にすることがないだけで。書店で勤めていると実はそういった、ある種の「意外な事実」が垣間見えたりしてとてもおもしろく感じてもいましたが、それは本題ではありませんので割愛させていただくとしまして。


 ともかく、そういった昔からの土壌があって時代劇を好むご年配の方が多い、という背景を念頭に置いていただいた上で、これからの更新をお読みくださいますとありがたいです。


 

 ここで突然ですがみなさんはオリコンなどの書籍売り上げランキングをご覧になったことはありますでしょうか?


 ここでは文庫の話をさせていただきたいと思いますけれど、たとえば『ソードアート・オンライン』などのライトノベルが上位を占めることもけして珍しくなくなっている昨今において、実は時代小説のシリーズ作がかなり高い位置にランクインしていることもまた珍しくないことに気が付きませんでしょうか?

 時代小説というのは、実はものすごく安定した売り上げを叩き出してくれる、書店にとっては超優良コンテンツだったりするのです。


 

 それにはいくつかの事情があります。


 まずはいきなり文庫として出るということ。通常の一般文芸小説ですと、まずは四六判なりハードカバーとして発売されてから、人気が出たら文庫化される、という人気作の法則があるのですが、時代小説のシリーズの場合多くが最初から書き下ろし文庫としてリリースされることが多いのです。


 時代小説シリーズは10巻以上続くものが珍しいことではなく、中には50巻位上続く大長編もあります。多くの巻数を揃えるための負担を少しでも減らそうという狙いがあるものと思われます。


 またこれが安定した収益を見込める第2の理由です。

 時代小説がお好きな方はシリーズを通してだいたい完結まで安定して買ってくださいます。つまりシリーズとして巻数を増やしても一定以上の収入を見込めるということです。


 事実、雑誌などがメインで書籍やマンガの定期購読って案外ないものなんですけど、時代小説だけは例外で、多くの方が取り置きを希望されていました。

 なので、いつも時代小説の発売時には気をつけてチェックしないと、朝早く来られた常連さんに「これ売り場に出てたよ。取り置き忘れてない?」と言われてしまうという事態になったり。実際これ数回あったんですよね。中にはシリーズまるごと完結まで気づかず、お客様からの電話連絡で気がついた、なんてことも……。あの時は焦った焦った……申し訳ないことをいたしました。


 また書店としても、毎日洪水のごとく発売されては入れ替えていかなくてはいけない本棚で、何が売れるのかわかりません。何を残したらいいのだろうかと、毎日悩み抜くわけです。しかし、そうした中でこれだけは置いておけば大丈夫というものがあれば安心できます。既刊を揃える難しさはありますけどね。


 シリーズ化しているということは、まとめ買いしてくださるかもしれないということでもあり、事実ライトノベルをまとめ買いなさる方々がおられるのと同じくらい、いえそれ以上の頻度で、時代小説のまとめ買い、またはまとめてのご注文が多かったように思います。



 時代小説は置いておけば売れます。町の書店なら、なおさらです。


 私のいる大阪なんて、電車に乗って梅田くんだりまで出てしまえば、大型書店が軒を連ねています。言ってしまえば、そこへ行けば本なんて揃えられるんだし全部そこで買えばいいじゃん、というふうにお考えの方もいらっしゃるのではないかと思います。


 ただ、それは残念ながら若くて元気に動ける方の論理です。


 お年を召した方々ですと、そもそもご自宅から本屋まで歩いてこられるだけで相当な労力です。遠くの駅前の店だとか、大型店なんて足が悪くてよう行けんわ、とおっしゃる方も数多くおられました。

 そういった方々にとって、私のいたような町の小さな書店はまだまだ必要だったし、そういった方々が時代小説のターゲットでした。


 これが時代小説が売れる3つめの理由ですね。

 彼らは本――特に小説を買うという習慣が今の子よりも非常に強く根付いている世代です。私たち生産年齢人口が占める世代より圧倒的に活字本の文化に慣れ親しんでいます。


 文庫担当になる際前任の方と店長さんから、「世間のベストセラーとこことでは売れるものが違うよ」と繰り返し教えられました。

 そして、若い子が好きそうな若い人同士の恋愛なんて、もうそんなのでときめくような年齢じゃないし読めんわとおっしゃる方も多かったように思います。

 

 無理してベストセラーの流行を追ったりするよりも、町の本屋さんでなければ来られない、といった方々のための商品を充実させておく。おそらくは町の小さな書店さんほど、ここは見過ごせないポイントだと思います。


 彼らは書店にとって大口の利用者であり、また文庫売り上げを支えてくださる存在なのですが、けっこうほかの書店さんを回っていると、時代小説って意外なほど探すのが難しかったり、取り扱い自体が少なかったりします。これってけっこうなお客さまとのミスマッチだよなあ、とよく思ったりしていたものです。


 いや私自身よく品切れ起こしていましたし、エラいこと言える立場じゃありませんけど……

 


 そして4つめの理由。


 実はこれがもっとも重要なところだと思うんですけど、時代小説を専門に書いておられる方って、ほぼ例外なく、非常に筆が早い。

 

 2ヶ月~3ヶ月に1回のペースを崩さずにリリースできる作家先生が非常に多い。というか、それが完全に当たり前になっている。

 またこれは次回詳しくお話しますが、中には別シリーズと交互に毎月何かしらの作品を書き上げる方もいらっしゃるほど。週刊マンガの連載作家さん並の安定感です。 

 コンスタントに質の高い物語を書き続けることができる。これが思いのほかに難しいのです。それをさも当たり前のようにこなしている時代小説の作家さんはまさしく「職業作家」。編集さんの立場で考えても、非常にありがたい存在であるはずです。



 それはつまり、だいたい「あ、発売からこれだけ経ったから、じゃあこの人の新刊は来月に出るな」と予測を立てやすいので、お客様としても買うものをあらかじめ決めておきやすいですし、書店側としても売り上げの予測が立てやすい。

 それがヒットの予測が非常に難しい水ものである「本」を取り扱うにあたっての「安定感」につながっていたように思い起こされるのです。


 

 ……導入の部分で予想よりもはるかに長くなってしまいました。


 これでだいたい1時間。小説でもこれだけパパパッと書けたらなあ……(笑)と自虐的になりつつ、具体的な作家先生や出版社さんにつきましては次回に持ち越しとさせていただきたいと思います。


 実際これどのくらいの方々が読んでくださるのだろう……と内心ビクビクしつつ、また次回の更新にお会いいたしましょう。

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