第65話

 二階建て造りのゾーレの居宅は、組み立てパネル式住宅で、元々は二世帯が上と下で暮らしていたということであった。その為部屋の間取りは、一階と二階は全く一緒だった。

 玄関のドアを開けて入って直ぐにリビングとダイニングがあり、その奥側にトイレとバスと二つの部屋からなっていた。

 ところが通常なら玄関口が反対側に付いている筈なのに、その建物は元々定住者向けに建てられたもので無かった為なのか、同じ向きにあるという特殊な配置になっていた。それが逆に便宜が良いとゾーレが気に入り、セカンドハウスとする目的で購入した、とパトリシアはうろ覚えで覚えていた。


「あれからちっとも変わっていないわねと言いたいところだけど。あらまあ、どうしたことかしら?」


 一階と二階の部分に其々四ヶ所設けられていた縦長の窓の内、一階の窓の部分だけが不自然にベニヤボードが貼り付けてあったのが、そのときパトリシアの目に止まった。

 何かあったのかしら?

 更に良く見ると、建物の外観の表面塗装がほとんど剥げてみすぼらしくなっていた。

 修繕もしないでそのまま放置してあるわ。


「ふ~ん、庭は手入れしてあるみたいだけれど、建物まで手が回っていないようね」


 車内のシートに腰かけたままそう呟くと、両手を一杯に伸ばして背伸びをした。それから書類と書籍と携帯とメイク道具が入る革のショルダーバッグを一つだけ持って車から下車。

 芝の緑が鮮やかな庭を横目で見ながら、建物の玄関に通じている小道を素知らぬ顔で歩いて行った。いよいよだわ。

 すると、建物の陰に青色をした大型ヴァンの車両が一台止められているのが見て取れた。


「あいつは車をコレクションする趣味はなかったはずだから車は複数所有していない筈。それから考えて、たぶんいるみたいね」


 能天気に自ら納得したパトリシアは、いよいよ玄関の鉄製のドアの前に立つと、随分と久しぶりにやって来たこともあって、緊張した面持ちでとんとんとドアを軽くノックした。

 そのとき、きっと中から返事がある筈だからとして、呼びかけはしなかった。

 しかし予想に反してどういうわけか声がしなかった。何も起こらず、部屋の中はシーンとしていた。

 変ね、どうしたのかしら、とパトリシアは小首を傾げて、もう一度ドアをノックした。そして今度は呼び掛けた。


「ねえ、ゾーレ。来てやったわよ、いるんでしょ」


 そう言って、手っ取り早くドアのノブに手を掛け、ゆっくり捻って手前に引いた。

 するとドアは鍵がかかっていなかったと見えてスムーズに開いた。

 さっそく中をのぞくと、室内は真っ暗で。勝手知ったる他人の家というわけか、すぐさま入り戸口の壁際のパネルスイッチを要領よく押して明かりを点けると、壁や天井は以前と同様に白いままだったが、それ以外は模様替えをしたらしく、五年前とは中の様子がすっかり変わっていた。

 部屋の中央に、座り心地がいかにも悪そうな自然の岩石を加工してできたイスとベンチが、同じく石製の長テーブルを挟んで整然と置かれていた。

 窓という窓は、全て内側から板で閉じられていた。

 壁に姿見用の大鏡が唯一掛かっているくらいで、これといった装飾品も調度品も見られなかった。キッチンカウンターにも何も載っておらず。殺風景といって良いくらい片付いてすっきりしていた。

 何とも不思議ね。

 パトリシアはどういうことかさっぱりわからなかったが、以前ゾーレは一階を来客用に使い、二階を自身の住まいにしていたことを思い出し、ここじゃないみたい、たぶん上の階だわと理解して、速やかに部屋から出、二階を目指した。


 パトリシアが二階へつながる階段を上っていくと、やはり中でいるらしく、玄関ドアの隙間からテレビの音声が漏れ出ていた。ふん、いるじゃない。 やはりね。ここみたいね。あいつったら、きっとテレビを見ているんだわ。

 それならちょっと驚かしてやろうと、パトリシアはそっとドアを開けると中を覗き込み、「ゾーレ、入るわよ」と一声呟いて室内へまんまと足を踏み入れた。

 思った通り、中は明かりが点いており。以前一階部分で見かけた年季の入ったソファがそのままの状態で置かれているのが見え。またソファから少し離れた地点に置かれた大型サイズのテレビがつけっぱなしになっていた。だがしかし、肝心のゾーレの姿はどこにもなかった。


「変ね、いないわね。どこへ行ったのかしら」


 部屋の戸口に立ったまま、パトリシアは小首を傾げると、ふとテレビの画面が目に入った。テレビの画面では、席に腰掛けた数人の男女が何かを討論形式で話し合っていた。

 しかしそれは聞こえてくる言葉の端々から何やら政治色の強いものと伺われ。そのようなものに元々興味がなかったパトリシアは直ぐに何も考えずにテレビの映像から目を逸らすと、更に奥の方をうかがった。が、やはり誰もいなかった。

 この分じゃトイレかしら。そう思いつつ、ブラインドが降りていた縦長の窓をちらりと見て視線を戻した瞬間、パトリシアは我が目を疑い、呆然と立ち尽くした。

 それまで誰もいなかった筈のソファの一つに、後ろを向いた小さな人影がはっきりと見えたからだった。

 どこから現れたのか分からなかったが、背中あたりまで達する栗色の髪をした人影は、濃紺のワンピースを着てソファの中央付近にちょこんと腰掛け、じっとテレビを見ていた。まるで人形のような後ろ姿と、きゃしゃな体つきから、どうやら十代未満の女の子と思われ。

 一瞬パトリシアは、 えっ、嘘っ、どういうこと、そんな馬鹿な、それまでいなかったのに、と思ったが、直ぐに自身の目と記憶が正しければ、そのような不思議なことができる女の子はこの世にただ一人だけと思い当たって、口元ににこやかな笑みをたたえると、


「あらっ、コーちゃんじゃない」


 愛想良く呼び掛けながら近寄っていった。すると少女は、黙って首だけをゆっくり動かすと、細おもての小さな顔をパトリシアの方へ向けてきた。

 同じ年代の子供にはそうそう見られないどこか影がある無表情な顔と、何かを悟ったような輝きのない黒い瞳が目の前に現れた。それらの特徴と昔と全然変わっていない面影からまさしくコーであるとパトリシアは確信すると、思いがけない人物がそこにいたことに少し驚きながらも茶目っ気たっぷりに話し掛けた。


「やっぱりコーちゃんよね。お久しぶりね、ねえ元気にしてたぁ。コーちゃん、ゾーレは? ゾーレはどこにいるの?」


「今出掛けているわ」


 小さな体つきに似合わない大人びた声が、虚ろな目をした少女から素っ気なく返って来た。


「あ、そう」


 パトリシアは明るく頷くと、更に気楽に話し掛けた。


「どこへ行ったか分かる?」


「さあ。待っていてくれとだけ言い残してどこかへ行ったわ」


「ああ、そう。ところでコーちゃん、ほんと随分と会わなかったわね。今までどこで何をしていたの? あれからどうなったかフロイスから大体のいきさつを聞いているんだけれど、一人一人の詳しいことは訊いてなくってね」


 久しぶりに会ったことで、パトリシアはいつものごとく話好きな面を表に出すと、好奇な目で訊きたいことを根掘り葉掘り少女に愛想良く尋ねた。

 すると、あどけない容姿に似合わず、少女はにやっと大人のような薄笑いを浮かべて、「ああ、そのこと」と応じると、そのときアナウンサーらしき男性が政治色の強いニュースを読み上げていたテレビの画面をリモコンを使って消すや――

 あれから計画通りに作戦を遂行して、しばらく経過を見るためと称して、六人がバラバラに身を隠すこととなった。

 それで各自が自由気ままにそれぞれ希望するところへ去っていった。ところが、自分だけはどこに身を隠せば良いか分からず決めかねていた。するとゾーレが気を利かして潜伏先やら身元保証人の選定など色々と世話を焼いてくれた。

 それ以外にも、見も知らぬ地でたった一人で暮らすのは大変だからと生活習慣アドバイザーの手筈や、その間何もしないで過ごすのは退屈だろうし、行けば良い社会経験になるからとして学校の手配やら、中身が立派な大人なのに外観が幼い子供である問題について骨を折ってくれた。

 そういう訳で、子供のままで成長が止まる奇病にかかっているということにして外国人向けの語学学校、調理菓子専門学校、芸術系専門学校を経て短期大学の次世代テクノロジーアンド危機管理コースを今春修了したばかりで。今は暇なので気楽に一人旅をしたり、部屋にこもって読書をしたり、何もせずにぼんやりと過ごしている。

 ――そんな話を、それまでパトリシアと余り話をしたことがなかったにもかかわらず、可愛いらしい声で歯切れ良く語っていった。


「ふ~ん、そんなことがあったの」


 パトリシアはにこやかに頷くと、少女の言葉を素直に受け入れた。


 コー。もちろん本名ではない。ロザリオの一員となる前の別の組織、破壊工作や暗殺を専門に行う暗殺機関、ブラッディメア(bloodymare)という名の犯罪集団に所属していた頃、当初はアルファベットと番号の組み合わせで呼ばれていたのを、リーダーを任せることになったことを機に特別に付けられた呼び名ということだった。

 性別はもちろん女子。およそ四フィート(120センチ)の身長、五十パウンド(22.7キログラム)に満たない体重、小さな頭、か細い手足、シンと同じ東洋系の肌と黒いつぶらな瞳、大人しそうな顔と、見かけはどこでもいるような純粋無垢の子供だったが、知能は立派な大人で平均以上の思考能力を持っていた。

 それも真実を知ればもっともなことで、今現在の年齢は、本人も知らないということで不詳だったが、記憶をさかのぼって検証したところでは三十歳を遥かに回っていた。

 またその詳しい経歴は、情報提供者であったフロイスの言葉をそのまま引用すると、――

 六番目にロザリオのメンバーになったのがコーだ。

 その当時私等は五人で活動していた。

 無論私達は単独でも複数でも動けるのが持ち味であり特性であったわけなんだが、こと役割分担するとなると、単独以上で動く方が理にかなっているし、その方がしっくりいくというかスムーズにいくことが分かってね。

 それでもう一人増やして、どんな組み合わせにでもなる数にしようとなって、お前の親父であるナイヒルに五人の要望を伝えて条件に見合う人材探しを依頼して、しばらく待ったんだが、中々決まらないというか、返事がなくってね。

 そんなときだった。偶然にも向こうからおあつらえ向きにやって来てくれたんだ。それがコー達、姿かたちは子供でありながら大人並みの知能を有し、しかもいずれも能力者というブラッドメアの一団だったわけさ。

 といってももちろんただ単に会いに来たわけじゃない。不敵にも私等に挑戦して来たんだがね。

 後になってあいつに問い質したところによると、あいつ等の上部団体で実質的な経営母体であったトウリルとか言った名前のハイテク武装集団を気取る組織がどこからか依頼を請けて抹殺命令を下したので、実行に移したまでということだった。

 あいつによると、その組織はどうやら、世界統一を馬鹿の一つ覚えみたいに本気で目論んでいる身の程知らずのお目出たい糞ったれ国家と裏でつながっていたらしいということで。その証拠に堂々とその国の良く分かる場所に巨大な研究所と地下施設を構え、そこで非人道的な実験を大っぴらに繰り返していたんだ。よそから誘拐してきた幼児やだまして連れて来た若い男女をモルモットにしてな。

 中では人工授精・細胞融合・遺伝子操作を始めとして、様々なホルモン剤やばい薬物を投与したりして、ハイブリッド体やミュータントやクローンを創造したり、超能力を発現したり天才的な頭脳を持つ子供を作り出す実験が公然と行われていたという話だ。

 つまり、コー達ブラッディメアの構成員は全員、そこで造られた作品であったというわけだ。

 今から考えれば、私等は当時から恨まれることは相当やっていたから、別にどこからの依頼だろうとも相手が誰だろうともちっとも驚かなかったけれどね。

 ともかく、どこで私等のことを知ったのか、出会い頭に襲ってきやがったんで、こちらも手加減なしで応じてやったんだ。

 そのときはホーリーが一緒にいて、相手は二十五、六人だったかな。

 最初、全員が子供だったからおかしな奴らだと思ったが、小さな身体で俊敏な動きをするわ、身体のひ弱さをカバーするように全身をサイボーグ化やミュータント化していたり、おかしな能力を使って来るわで、中々手ごわくてね。それでも私等からしたら明らかに格下で相手にならなかった。あっという間に撃退してやったんだ。

 ところがしつこいというか、それからしばらくして、また襲ってきやがったんだ。どこで行き先を調べたのか待ち伏せをしていてね、あのときは二百人ばかりいたかな。今度は手を変えて自爆攻撃を交えて仕掛けて来たよ。

 だが運が悪かったというほかない。そのとき、私以外にロウシュとホーリーとサイレレの三人がその場にいたのだからね。

 あのとき二度もこりずに襲ってくるとは、私等は余程なめられたものだと思ったので、とことんやってやったよ。一匹も残さずに奈落の底へ送ってやった。

 それと並行して、もしそれでもまたしつこく襲ってくるなら、そのときはそのときで徹底的にやってやろうとみんなと話し合って、そいつ等の根城を叩くことに決め、何人かを生け捕りにすることを決めていたんだ。

 するとどうだ、うれしいことに舌の根も乾かぬうちにまたもや来やがったんだ。

 しかも余程相性が良いようで、また私が付き合いをすることになっていた。相手は全部で四十人ほどいたかな。こっちはザンガーと二人だった。そいつ等はどうも精鋭部隊らしく、みんな堂々としていて独特な雰囲気を持っていてね。その中にコーがいて、それがコーとの最初の出会いだった。

 まあそいつ等は手ごわいといえば手ごわかったが、連携を断ち切ってやれば、あとは赤子の手をひねるようなものだったよ。余裕で料理していってしまいさ。

 そのあと、予定通り動けなくして生け捕った五人に根城を吐かせる段になって、その一人が脳をいじられてロボット以下の木偶人形にされていたのが分かり、どうにもならずにそのまま破棄だ。

 また残りの一人の声帯が吹き飛んでいて、これも破棄だ。楽にしてやった。そんな風にして切り捨てていって最後に残った三人の中にコーがいたんだ。

 そのあと、三人から聞き出した情報をもとに、五人でそいつ等のアジトと裏で糸を引いていた組織の根城とを一斉攻撃してやって、私等にたてついたらどうなるか思い知らせてやろうと、ネズミ一匹はい出ることができないように結界を張って逃げられないようにして、建物諸共辺りを火の海にして、何も残らないように全てを灰にしてやったよ。

 そのあと、用済みとなった三人を始末する段になって、小さい割に珍しい能力を使うから殺すのは惜しい、どうだ生かしておいたらと、あのサイレレがどういう風の吹き回しか命乞いをしてきてな。おまけに、何なら指導係を引き受けてやっても良いと言ってきてね。

 加えてホーリーまでもが、ナイヒルに頼んでおいた中々決まらない人材の件を持ち出して、まだ子供で小さいから小回りが利きそうだし、それから見てスパイ活動や偵察要員として十分使える、それにまだまだ伸びしろがあるかも知れないからと言ってサイレレを擁護してきたんだ。   

 私としては、ホーリーの意見も一理あるし、ザンガーとロウシュはどうでも良いという顔をしてたから、本命が決まるまでのストックとして活用するのもありかなと思って賛同したんだ。

 それで三人から人選にあたり、隙を見て自ら自爆を選んだ奴と、顔が潰れて両目がいかれた奴とを除外して、最終的に残ったのが手足が折れて動けなくなっていたコーだったわけだ。

 その後、サイレレに預けて三ケ月ぐらい経ってからかな。何とかものになりそうだと報告を受けてメンバーに加えたんだ。

 その間、私やホーリーもちょくちょく様子を見に行っていたけれど、洗脳がまだ完全に抜け切れていなかったのか、そのたびに反抗的な態度をとるものだから、ちょっと痛い目に遭わせてやっていたんだが、さすがサイレレだ。ああ見えても元をただせば大魔導士の肩書を持ち、五百人余りのシャーマンをたばねていたお偉いさんのことだけあるぜ。私ならたぶんあんなに上手くいかなかっただろうな。きっと途中で投げ出しているよ。


 そういったことから、サイレレという人物はコーにとって命の恩人といっても差し支えないように思われた。

 一方、コーにとってフロイスはどう映ったのかについては、本人でないからそれは分からなかったが、フロイスの前では借りてきた猫のように大人しく、しかも上下関係がない筈の六人の中にあって、あたかも主人と奴隷の関係のように常に従属的で従順であったことから、何かあるのだろうという予想は十分ついた。


 約十五分ほどばかりして、少女からの聞き取りが一段落すると、パトリシアはずっと質問していてばかりでは悪いからと気を利かして、今度は自身の近況を時間を忘れて打ち明けた。

 そして話題が、ロザリオのメンバーをおびき出す企てが密かに進行していたところへ全くの偶然にも首を突っ込み、その企てを仕組んだ人物に見込まれたことが縁で、本物をおびき出す囮となってその会場となっていた陸軍基地に乗り込むと、そのことを知った上で同じく参加したゾーレ達と共に、それぞれ多額の賞金をまんまとせしめてやった場面に及んだ頃には、いつの間にか二人は仲むつまじい雰囲気となっていた。

 そんなとき、玄関のドアが開く音がして、両方の手にレジ袋を持った、がっしりした体格の人物が中に入って来た。

 やっと戻って来たみたいね。

 パトリシアは話を中断すると、ちらっとその人物の方へ振り返った。

 グレー色の髪をサラリーマン風に短く刈り揃えた濃い顔の男で、白いシャツの上からカジュアルな感じのするベージュのジャンパーを羽織っていた。まさしくゾーレだった。


「来ていたか、パトリシア。混んでいたろう」


 そう呼び掛けながら、ゾーレはどことなく涼しい顔でにんまりして歩いて来た。


「どこへ行っていたの」


 普通にそう尋ねたパトリシアに向かって、「ちょっと外へな」とゾーレは素っ気なく応えると、「立ち話もなんだから、まあ座ってくれ」と言うなり、二人の前を素通りして奥のキッチンの方へ消えた。


「ええ」


 パトリシアは適当に返すと、その場でコーの隣へ、言われるまま腰掛けた。

 レジの袋からシリアルと牛乳パックの容器がちらっと見えたことから、ゾーレの言い訳はまんざら嘘ではないように思われた。

 その後一分もしないうちにゾーレは脚を折り畳んだテーブルとイスを手に持って現れた。コンパクトな仕様であることと、持ってきた場所から考えて、普段は小家族のゾーレがダイニング用のテーブルとイスとして使っているものと見受けられ。

 ゾーレは持って来たテーブルとイスを二人が見ている前でさっそく広げて、慣れた様子で据え付けると、再びキッチンの方へ引き返した。

 そして再び戻って来たときには、気を利かしたのかジンジャエールの缶を人数分手に持っていた。

 ゾーレは話し合いの場として即席にセッティングしたテーブルの上にジンジャエールの缶をそれぞれ置くと、


「まあ一杯やってくれ」


 と促し、自身も二人と面と向かい合うようにイスの向きを調整してそこへ腰掛け、自分の分のジンジャエールの缶を開けて、さも気持ち良さそうに一口飲んでテーブルへと置いた。

 ゾーレにつられてパトリシアも同じく続いた。テーブル上に置かれた缶に手を伸ばすと蓋を開け一口飲んだ。

 良く冷えていて、炭酸とジンジャーのほのかな刺激が心地よくのど元を通り過ぎていった。

 そのタイミングを図ったようにゾーレが口を開く。


「さてと、義理の妹と話した記録データと例の日記帳を見せて貰おうか」


 低い落ち着いた声が響き、さっそく要求を突き付けてきた。

 パトリシアは、隣で少女が何のことなのか意味が分からず、きょとんとした表情で二人を見つめる中、分かったと飲みかけの缶をテーブルにゆっくり置くと、


「ああ、そのことね」


 そう応えて、決まりが悪そうに苦笑して言い訳した。


「二人で話したのをきっちり携帯で録音していたんだけれどね、私の声だけが残っていただけで、その娘の音声だけがどういうわけか消えていたの。同じく帰りに証拠として一緒に撮った写真もどういうわけか、その娘の姿だけ写っていなくてね。それで、証拠となる音声も写真もなくって。

 それでここへ持って来たのは私がうろ覚えで覚えていたことを箇条書きで書き記したものなのよ。

 その代わり、日記帳は持って来たわ。中の物証は間違いなく入っているわ」


「あいかわらず、そそっかしい奴だな、お前は」ゾーレは呆れたという顔をすると続けた。


「相手はただ者じゃないんだぞ。それくらいのことは前もって想定しておくべきだったんだ」


「そう言われても、私だってそこまで頭が回らないわよ。だって行ってから聞かされたんだもの。だから……」


「まあ、良い。それじゃあ、お前が書き記したという資料と日記帳を見せて貰おうか」


「ええ、良いわ」


 パトリシアは膝の上に置いたショルダーバッグから、四つに折られた紙片とピンク色をした厚みのある日記帳を取り出すと、テーブルの上へ並べた。


「これなんだけれど……」


「ふ~ん」


 ゾーレは刺すような眼差しで、四つに折られていた紙片を広げて走り書きされたメモのような文字の羅列をしばらくの間眺めた。

 それが済むと、次にB5サイズの大きさで厚みが一インチほどある日記帳に興味の対象を移し、ちらりと表紙を眺めて手に取ったかと思うと、軽く振ってみたり、普通に表紙を開いてぱらぱらとページをめくって中身を確かめたり、書籍の表面全体を両方の手で撫でて見たりと、一通りのことをチェックし始めた。

 パトリシアはちょっと緊張しながらそれを見守った。

 だが結局のところ、ゾーレはからくりを発見することができなかったと見えて、一分ほどしてテーブル上に日記帳を静かに置くと、首を傾げながら言ってきた。


「それじゃあ、日記帳から例の物を取り出して貰おうか」


「ああ、良いわよ」


 パトリシアはほっと息をつくと、にこやかに応じて、日記帳を自分の目の前に引き寄せた。そして「見てて」と言うなり、日記帳を裏返して裏表紙のグリーン色のりんごのイラストが上になるようにして置き、女性に教えられた通りのことを実演して見せた。

 本来の開き方とは異なる方向へ裏表紙を開くや否や、その途端に浅めの空洞が現れ、中に例の品が整然と収められて現れた。


「これか?」興味深そうにゾーレが訊いてきた。


「ええ、そうよ」パトリシアは大まかに説明した。「円筒形状のものは都へ入場するのに必要な許可証で、妹のサインがしてあるわ。そして横の黒い袋に入っているのは靴下と手袋で、全部で三人分あるわ」


「ふ~ん」


 ゾーレは現れた品物に視線を落とすと、先ず黒い袋を選択。手に取り、その中身を貴重品を扱うかのように慎重にテーブル上へ並べると、布製の黒い手袋の片方を手に持ち、パトリシアが紙面に記していたことが果たして本当なのかを検証するために、やや緊張した様子で装着した。

 その瞬間、手袋が発光して部屋全体が白一色の世界と化し、ゾーレから感嘆と驚きが入り混じった声が漏れた。


「おおっ、これは!」


「どう、凄いでしょ」パトリシアはしたり顔で言い添えた。「手を握ったり開いたり形を変えてみると良いわ。面白いことが起こるから」


 パトリシアのアドバイスに、ゾーレは子供のように素直にうんと頷くと、その通りにした。

 しばらくの間、部屋の中が冷たい白色光に照らされたり満たされたりと、幻想的にも映る状景が繰り返され、そのたびになるほどとゾーレは声にならない声を上げた。そうして五分程経った頃、ようやく納得したのか手袋を手から外してもう片方の上に置いた。それと共に部屋は、ようよう元の明るさを取り戻していた。

 それが済むと、今度は靴下を手に持った。だが直ぐに「これはまあ良いか」と一人呟いて元に戻した。そしてパトリシアに向かい、生成色をした細い円筒形を指で指すと、


「書状の中身も見たいんだが、どうやったら見ることができる」と、やや遠慮がちに尋ねて来た。


「ああ、それね」


 パトリシアはあっさり応じると、ソファから身を乗り出し、「ちょっと貸してみて」と自身の傍に裏表紙が開いたままの日記帳を引き寄せると、指先でちょっとつまんで箱から筒を取り出し、「ほおっ、そうやるのか」といった言葉を漏らして感心するゾーレをよそに、これも教えてもらった通り、あたかもサイコロを転がすような仕草で筒をテーブル上に軽く転がすと、いとも簡単に一枚の紙面にして中の内容を見られるようにしてやった。

 するとゾーレは少しの間見入ったが、やがて思い出したのように携帯を取り出すと、写真を撮り始めた。数分して、それが終了すると、そのついでという訳か、今度は日記帳を始めテーブルに載る全ての品の撮影を一つ一つ丁寧に撮り始めた。

 しかも写真撮影は一枚撮ってはその都度写っているかどうか確認する念の入れようで、当然ながらそれ相当の時間がかかり、その間待つ身のパトリシアにとってはイライラ感がつのる以外の何ものでもなかった。

 そりゃね、私がしくじったからって慎重になるのは分かる気がするけれど。

 そういった納得を通り越して、ただじっと見ているというのは退屈というか、じれったいというか、間が持たないというべきか、とうとうこらえきれずにパトリシアは押し黙ったままものも言わずにひたすら品物の写真撮影に没頭するゾーレに向かって話し掛けていた。


「ねえゾーレ」


「何だ」当然のように、素っ気ない返事がゾーレから返って来た。


「ちょっと訊くけど、彼女とは共同生活しているの?」


 彼女とはもちろんパトリシアの親友フロイスのことで。ゾーレは軽く受け流した。


「いいや。飯を食う時以外は別々だ」


「すると下の階がそおってこと?」


「ああ、あいつ専用の部屋だ」


「ふ~ん、そう」


 フロイスったら、一体全体あんなところでどんなふうにして過ごしているのかしら。

 普段では分からない彼女のプライベートに初めて触れた気がしたパトリシアは苦笑いをすると、更に気になった疑問を尋ねた。


「ねえゾーレ」


「何だ」今度もゾーレは顔を上げることなしに応じた。「まだあるのか?」


「ええ実はねえ、ちょっと不思議に思ったんだけれど、なぜコーちゃんがここにいるわけ?」


「ああ、そのことか。全てあいつのせいだ」


「あいつって?」


「あいつと言えばもう分かるだろう。フロイスだ。つまりだな、あいつが連れて来たんだ。しばらくの間留守にするから、その間自分の身代わりに居て貰うと言ってな」


「自分の身代わりって?」


「俺の会社にやって来たとき説明したろう。もう忘れたのか。一応あいつは俺のボディガードをやっていることになっているのさ」


「それでコーちゃんを」


「ああ、そういうことだ。分かったか」


「ええ、なるほどね。そういうことだったの」


「……もうかれこれ十日以上になるかな。どこへ行ったのやら返事も寄こさないのだからな。もうあいつには困ったものさ」


「あっ、そう」


 相槌を打ったものの、そうはいってもパトリシアの心中はある意味複雑だった。

 ここに居るゾーレとコーに迷惑をかけていたとは夢にも思っていなかったからだった。

 フロイスったら、何も話さずにやって来てくれたみたいね。ゾーレもそうだけれど、コーちゃんにはほんと悪いことをしたわ。ここはやっぱり私が頼んだからそうなったと説明しておかないとね。このままじゃ、全部彼女が悪いことになってしまうわ。そう思ったパトリシアは愛想笑いをすると、神妙な物言いで、


「実はね……」


 と言いかけた途端、写真を撮り終えて顔を上げたゾーレから直ぐに返事が返って来た。


「ああ、分かっている。例のあの件のことだろう。あれは俺個人の一存では決められなくてだな。どうしてもきちんと筋を通す必要があるんだ。それを分かって欲しい」


 ゾーレの口振りから、ああ、あのことねとパトリシアは見当をつけると、そこまで出かかっていた言葉を呑み込み、何食わぬ顔で話を合わせた。


「ああ、そう。仕方がないわね。分かったわ。少し待ってあげる」


 あのこととは、今日の朝、上手くいったとメールで報告したついでに打診していたことで。例の陸軍基地で三人の有能な若者を見かけスカウトした。今現在はズードの伝手で度胸をつける研修に行って貰っている。その研修が済み次第、一刻も早く一人前になって貰うために、実地経験が豊富で酸いも甘いのもかみ分けている六人にご教授願いたいと記してあった。

 以前六人が自らのレベルアップと勝負勘を養うためと称して、定期的に秘密演習を共同で行っていたことを知っていたからに他ならず。よって、その窓口になっているゾーレに相談を持ちかけたのだった。


「そうか。それにしても手が早いというかタダでは転ばぬ奴だな、お前は。いつの間にそんな自分専用の親衛隊を作ったんだ」


「ゾーレ。そんな大層なものじゃないわよ。色々と仕事をしていく上で身の危険に晒されることが増えてきてね。とはいっても今まで通りに、他の人達に世話にになるのも長い目でみてどうかと思ってね。そう言った事情で、スカウトしたってわけ」


「そういうことか、なるほど……」ゾーレは小さく頷くと、不意に話題を変えた。


「ところでお前、今、仕事は何をやっている?」


「そうね、色々とやっているわ。やくざ絡みの出張医療とか、債権回収とか臓器売買のお仕事とか……」


「なるほどな。どれもやばい仕事のようだな。それで専任のスタッフをスカウトして雇用しようと考えたわけか?」


「まあ、そういうことになるかしら。あと今後は人材派遣とか不動産投資とかいった部門にも手を出そうかと考えているの」


「ふ~ん」


「それじゃあ、あなたは今何を主にしているの? そう言えばどんな仕事に携わっているのか訊いていなかったわね」


「そう言えば話していなかったか?」


「ええ、昔のことはフロイスから聞いていたんだけど……」


「そうか。それなら話そうか。以前は色々やったが今は通信販売一本でやっている」


「そう」パトリシアは苦笑した。


 本当は詳しいことまでは知らなかったが、ゾーレが手掛けている事業が旨く行っていることは、付き合いのある者達からそれとなく訊いて当の昔に知っていた。切り出したら最後、成功した自慢話が返ってくるのは目に見えているからと、寧ろ訊くのを避けていたというのが正解だった。

 とはいえ、流れから何となく上手いこと誘導された感がしたものの、途中で止めるわけにはいかず。先を続けた。


「じゃ、どんな品物を扱っているの?」


「カラーストーンだ」


「カラーストーンて? もしや宝石のことじゃなかった、ガーネット、ルビー、エメラルド、トパーズ、アクアマリンと云った色がついた石のことでは?」


「ああ、そうだ」


「それじゃあ宝石の通信販売をしているわけ?」


「ああ」


「それって、そんなに売れるものなの」


「通常ならそれほど売れないだろうな。うちのような信用のない小さな会社では尚更だろう」


「じゃあ、どうして儲けているの?」パトリシアはゾーレの顔をまざまざと凝視すると訊いた。


「売れるのには何かカラクリでもあるというの?」


「ああ、あるな」


「ああ、あるなって?」パトリシアは訳が分からなかった。カラクリがあるとあからさまに言うなんてどういうこと。いかがわしいことでもやっているの、と思った。だが当の本人は、彼女の疑念の目を尻目に、至って何でもないように釈明した。


「カラクリといったってどこの企業でも企画という形でやっているじゃないか。何も驚くことはない」


「ああ、そういうこと」


「ああ、そうだ。お前は何と思ったんだ?」


「いや、別に。何でもないわ」


「まあ、良い。ともかく俺の場合、企画力がものを言ったのさ」


 そう言ってゾーレは、リラックスするように、イスの背もたれに深く寄りかかる姿勢に加えて軽く腕組みと足組みとをすると、一介の成功者の顔で宙の一点を見つめながら思い出すように語っていった。


「まっ、こう言ってなんだが、俺もこれまで散々失敗を繰り返して来た。どれもこれも旨い具合にいかなくってな。

 組織を休眠状態にして普段の生活に戻った俺は最初、これから何をして良いものか分からなくて、丸々一週間ぐらいぼおっとしていたな。だが生活するには先ず先立つものが要る、新たにカネが必要だと思い出して、それまで行って来た事業を再開しようとしたんだ。

 ところがよくよく考えてみると、せっかく組織を休眠状態にして行方をくらましているというのに、常識的にみても事業を大ぴろっげに行うわけにはいかないことに気づいて。

 そこで、ここは個人情報の秘匿性が高いネットを通じて、持っていた資金を増やしてやろうと考えついたんだ。とまあ、そこまでは順調だった。だがやってみてそう甘くなかった。

 ネット上では金儲けの情報は腐るほどあるが、確実に金儲けができるかというと、そんな保証は皆目無い。金儲けの情報を流しているほとんどのネタ元は金儲けを餌にこちらのカネを引き込もうとする連中達で、先ず小遣いかせぎ程度から始めようとか一発大儲けしてやろうと考えてやると、必ずと言って良いほど連中のワナにはまる。もしお前もやるつもりなら忠告してやる。あんなものはやめておいたほうが良い。カネだけを騙し取られて痛い目に遭うだけだ。

 あと公営のクジやギャンブルもダメだな。運など期待しないほうが良い。絶対に当たらないし、勝てないから。俺はデイトレーダーの真似事もやったが、二週間も続かずギブアップしたな。所詮、ネットで奨めてくるものにはろくなものはない。

 要は自分で考えることだ。そう思った俺はウエブページをネットサーフィンして見て回ったんだ。

 すると閃いたんだ。建築費とか設備費といった初期投資が比較的いらないなどのことから、ネットショップをやってみようか、とな。

 そうしてすぐに実行に移したんだ。専門どころに頼んでホームページを作って貰い、有名どころのショッピングモールに参加申請して、あとは自動的に立ち上げて、顧客を待てばそれでオーケーだった。

 だがどのような品物を扱うかの段になって悩んだよ。それで素人の俺でもできそうなものがないかと調査して見たんだ。そうするとだな、金製品や宝石類が比較的値崩れせずに高額な値段で取引されているのが目について、それほど場所を取らないでできるからと貴金属の通販をやろうと決めたんだ。

 だがそうはいっても、ごく当たり前のことだが、素人では仕入れや目利きなどの面で明らかにハンデがあり、だまされるに決まっているから、金銀や高価なダイヤモンドの類を扱うのは最初は止めにして、同じ取り扱うものでも低価格なカラーストーンを主にして、それでもまともにやったんじゃ大手や老舗に負けるに決まっていると思ったから、ちょっと機転を利かしてパワーストーンとして販売しようと考えたんだ。これならショップ別に価格を見比べられたって、アイデア次第では勝ち目があると思ってな。

 まあ、こうして営業品目は何とか決ったが、まだ問題があった。仕入れ先だ。複数あった仕入れ先のどの場合にでも、お互いに顔が見えない状態で商談するから、どこが信用できるものやら分からなかった。場合によっては無理な要求をしてきたり、だまそうとしてくることも考えられたからだ。そのため、直接会って商談できるところを選んだのさ。そのときフロイスが、一緒に付いていってやる、石の良し悪しの区別ぐらいはできるからと言ってくれたときは本当に心強かった。

 これで商品は一通り揃えることができるようになった。だがまだ難問があった。既に営業している同業者の問題だ。だがここでも俺は閃いた。同じような売り方をしていては絶対勝ち目はない。ここはよそととは違うやり方をしようと思ったのさ。

 それで考え出した手法は、売る商品の種類を絞ること。最初から多品種の品揃えをすると、資金がそれだけ多く要ることと、もし売れ残れば在庫が増えると考えて種類を一種類から二種類に絞ることにしてだな、あのときは購買層を意識して男女のどちらからでも買って貰えるようにネックレスと指輪の二種類にしたんだ。

 次は価格設定だった。先に営業していたところはどこも価格をほぼ揃えているようで、およそ百から四千ドルぐらいの間が相場のようだった。だが、俺のところはその二、三倍くらいの三百から八千ドルに設定したんだ。価格帯から見れば、俺のところは何かぼったくりのようだがこれには訳があって、一つは値段が高い方が安物より余計に効き目があるように見えるだろうということ。あともう一つは別に経費が掛かるからだった。その経費とは、商品を買ってくれたらタダで付けるおまけに要る金だったんだ。つまり俺がやろうとしたよそとは違う手法とはおまけ商法だった訳さ。

 そのおまけとして俺が目を付けたのは宝石を入れておくジュエルボックスだ。それをコンパクトにしてパワーストーンを専用に入れる器として企画した訳だ。で、先ず材質として革、陶器、金・銀メッキ製品、色ガラスを採用して高級に見せるようにし、形も平凡な四角やハート型以外にペンダント型やキーホルダー型やミニチュアカー・動物・人形のキャラクターをデザイン化したものなどを追加して目立つようにしようと考えたんだ。

 でもまだそれだけではよそと見比べてまだまだ物足りないと思ったので、ボックスの全てに百曲ぐらいの曲を奏でることができる電子オルゴールを標準装備にして、触れると良い香りがしてくるとか音に反応して動いたり暗くなると光るような機能をつけ、またさらに追加特典として好きなタリスマン(護符)をタダでサービスするようなこともやろうと思ったわけだ。

 もちろんストーンの方もそれなりに良いものを使いたかったんだが、仕入れに新規参入のハンデがあって同業者の品物より劣るものしか手に入らなかったので諦めるしかなくって。

 その代わりだが、あいつに頼んでちょっと細工して貰って、ストーンに本物のパワーがこもるようにして貰ったんだ。

 そして成功の秘訣となったのが広告の企画立案だった。どんなに良い製品だろうが、買い手が興味を持ってくれなかったら全く意味が無いからな。これが一番のキモだと思ってポップ広告に手を付けたんだ。

 俺の場合、よそみたいに単に商品の写真に説明と価格を付けるだけの広告じゃなくって、商品を生映像で発信しようと考えたんだ。霊感のある人物が見れば直ぐに違いが分るかなと思ってな。我ながら良いアイデアだと思ったよ。

 最後に、ショップの開店時はどんなことをしたって目立つ必要があると思って、ショップ名の下に、<正真正銘の本物の魔法使いがチョイスしたパワーストーン>と銘打って始めたんだ。

 ま、よそがやれば誇大広告になるだろうが、俺のところはまんざら嘘じゃないからな。まあ良いかと思ったんだ。今でもこのフレーズを使ってやっている。

 だが今もそうだが、<最低一つ持っていないと不幸になる>とか<地獄に落ちないために>とかのような、人の不幸につけ込んだり不安をあおるいかがわしい広告は一切やってない。<体の不調を感じている人に>や<気分転換に>というぐらいだ。あいにくと俺はそこまでしてカネ儲けに走る金の亡者じゃないのでね。

 まあ、そんなこんなで準備に五ヶ月も掛かったから旨く行くのか弱気になったが、別に賞味期限があるものじゃないし気長に売れてくれれば良いと思うと気が楽になって、とうとう開店にこぎつけることができてだな。最初の三ケ月間は鳴かず飛ばずの状態が続いたが、その後は次第に口コミで広がるようになって、扱う品目もピアス、ペンダント、ブレスレットと増やして行き、業界筋の昨年の調査報告によると、俺のところは一般の顧客よりスポーツ関係や音楽・芸能・ギャンブル関係の職業の人達に人気だったようで。その為なのか売り上げがことのほか伸びて売り上げランク別では業界第四位だったそうだ。

 従業員十名そこそこの小規模な個人会社で、しかも創業してから四年も経たないうちに、大手や老舗どころと肩を並べるところまでやって来たんだ。どうだ、凄いだろう。

 まあ、ここまで来るとは幾ら俺でも思ってもみなかった。これも一生懸命について来てくれた年長のスタッフの頑張りのお陰だと思ってる。そして忘れてはならないのは、時代背景的に運が良かったからだと思っている。

 急に景気が悪くなり、株が大きく下落するわ、多くの企業の経営がおかしくなり街が職を失った人々であふれるわ、自殺者と犯罪者が増えるわ、物価が上がり暮らし難くなるわで、将来に不安を抱いた人々が何でも良いからと救いを求めたことによると、俺は考えている。

 それは他人の不幸に乗じて上手く儲けたと言われてもおかしくないが、時代が何度変わったとしても、世間は不条理にも皆総じて、ごく当たり前のように他人の不幸を糧にして回っていると、つれづれに実感し理解するとそれも有りかなと自然に思ってしまう。

 いずれにせよ、社会の変化の流れに上手く乗ることができたことが成功した理由だ」


 そこまで話してゾーレは満足そうに微笑むと、無造作にテーブル上に置いた自身のジンジャエールの缶に手を伸ばし、うまそうに一気に飲んだ。次の瞬間、ゾーレからげっぷが出た。


「へえ~、そう」


 それまで頭を空っぽにして真剣に聞く振りをしていたパトリシアは、それを見て薄く笑うと、同じように傍らのジンジャエールの缶を手に取り、両手を添えて上品に一口飲んだ。そのついでに隣を何気なくちらっと見た。すると、ソファにちょこんと座っていた筈のコーの姿がどこかへ消え失せていた。

 あら、いないわ。どこへ行ったのかしら。そう言えばコーちゃんは神出鬼没だったわねぇ。ま、誰だって人の自慢話は聞く気になれないもの。

 パトリシアは、またいずれ忘れた頃に戻って来るだろうからと気にも留めずに視線を戻すと、問い掛けた。


「それでなんだけれど、妹のことは誰が面談してくれるの?」


「それはだなぁ、ここにある資料全部を俺にしばらく預からせて欲しい。確かめたいことがあるんだ。それが済んでからになると思う」


「それは別に構わないけれど。それで一体何をする気?」


「お前の妹がネピの首領であるかを確かめたくてな。本当にそうであるか実際にロウシュに行って貰って、その裏取りをしたいと思っているんだ」


「まあ、良いけれど。でもゾーレ、なぜそんなことをわざわざするわけ?」


「ちょっと慎重を期したいのさ。間違ってもそうでなかったときは困るのでね」


「それって疑っているということ?」


「ああ」


「どうして?」


「余りにタイミングが良すぎるからだ」


「ねえ、ちょっと。それはどういう意味?」


「それはだなぁ、こちらもロザリオが再活動できるかどうかの命運がかかっているからだ」


 そう告げると、ゾーレは急に背筋を伸ばし、険しい表情になった。その途端に、抑揚のない子供の声がパトリシアの横から響いた。


「ゾーレ、あの話をする気?」


 その声がした方に振り返ると、冷ややかな目をしたコーが、ジンジャエールの缶を両方の手で抱きかかえるようにして持って、いつの間にか座っていた。

 そのときちらりと見えた、可愛らしい両方の手の爪に施された深紅の艶やかなマニキュアが、幼く見える見た目とかなりな違和感があり、パトリシアは思わずにっこりした。

 実は少女の能力とは自等の意志で身体を見えなくすること。とはいっても、透明人間となるわけではなく、実体も気配も消してしまうのだった。

 大親友のフロイスが話してくれたのには、幽霊が物質化して人間の姿を取るのと逆の現象を起こして自らを空気と同化しているのだろうということで。その現象を始めて見たときには非常に驚いたものだったが、今はもう慣れっこで別にどうこうとは思っていなかった。 

 

「ああ、元々こいつに隠し立てすることでもなかったからな。あのときは急にあのことを知ったなら普通の精神状態でいられなくなると心配して説明は避けていたが、何といっても既成の事実だし、今となってはもう時効だから別に話したって良いと思ってな」


「ああ、そう……」


 パトリシアがきょとんとして目をぱちくりさせる中、そのような内輪のやり取りをコーとの間で短く持つと、ゾーレはパトリシアの方へ向き直り口を開いた。


「これから話すことは無理に知る必要もないだろうと、ロザリオのメンバーとごく一部の近親者しか知らされていなかったことなんだが、聞いたって夢かエスエフ話のような感じで現実感がないというか、おとぎ話か神話の世界の話かと思うかも知れない。だがこれはマジで本当の話なんだ。だからそのことを頭に入れて、馬鹿馬鹿しく思わないで聞いてくれ」


 そう前置きすると、至って真面目な調子で語っていった。


「それは遠い昔、この世界がまだできたてのほやほやで生き物が住める状態でなかった頃だ。とある別の世界からこの世界に、高度な文明をもった複数の男女が旅の途中で訪れたことから話が始まる。

 彼等は男六名と女二名の計八名からなり、身長の高低差や細々とした見た目の差はあったものの普通に人の姿をし、喜怒哀楽の感情を持っていたんだ。

 彼等はこの世界に降り立つと、どういう事情があったか知らないが、この世界へ留まる事を決断して、先ず聖書にある天地創造みたいなことをやって、劣悪な環境を改善して生き物が住める状態を作り出すと、やがて生命を誕生させたんだ。

 その過程で、もちろん人類も生まれることとなった。

 そのようにしてへんぴで何もなかった世界をバラエティに富んだ世界に変え、長い年月の間に彼等は自然の流れで家族を持ち子孫を残していった。それはやがて本流である八つの派閥と十二の亜流の派閥へと枝分かれしながら、今現在その総人数は数百名に達するところまで来ているらしい。

 またその間に、自ら生み出した人類に火と言葉を与え、そのついでに知恵を授けて、あともう少しで生存競争に負けて絶滅しそうになっていたのを助けたのを皮切りに、その後に爆発的に増えていった人類の前にたびたび現れては、予言をする形で警告を与えたり、誤った行いに対して罰として災害をもたらしたり、またときとして気まぐれで奇跡のようなものを行って救済をしたりした。

 そのことがやがて神聖な存在、畏怖な存在、救いの存在として人類に認知され始め、崇められるようになり、そうこうする内にいつしか人類を超越した力を持つ者という意味合いの神と言う偶像が出来上がっていったというわけだ、とまあ、そういうところだ。

 ここまでは理解できたか、パトリシア」


「ええ、まあ……」


 冷静な落ち着いた口調で矢継ぎ早に念を押して来たゾーレに、余りにも奇想天外な内容であったこともあり、それほど実感が湧かずにパトリシアは頷いた。だがその顔から自然と笑みが消えていた。


「それで、そのことが妹とどんな関係があるっていうの?」


「慌てるな、これから話すから」


 そう釘を刺したゾーレに、ああそうとパトリシアは半信半疑で耳を傾けた。

 そこへ穏やかな低い声が響いた。


「ええ、そういうわけで、この世界には神と呼ばれる者達が現実に存在することを分かって貰えたところで、今から五年前、下の階で話し合ったとき、あのとき報復する相手と見なしていた連中として、複数の国家の名前と共にホワイトレーベルとゴールドレーベルという特別な組織の名が挙がっていたんだが、憶えているかな?」


「いいえ」


「そうか、そうだろうな」


 ゾーレはにやっと笑みを浮かべて目を細めた。しかしパトリシアには言い返すことはできず、呆気にとられた表情でゾーレを見つめた。あのときあの場面で、聞いたことのない単語が次から次へとみんなから飛び交ったので、何を話しているのかさっぱり分からず。もっぱら頭が混乱したことだけは何となく憶えていた。


「そのことがどんなに大事で凄いことかお前は知らなかったから途中で逃げ出したのだろうが。今から俺が話すことを理解すれば、きっと腰を抜かすことだろう」


 ゾーレがパトリシアの心を読んだかのように言い添えると、尚も続けた。


「これから話すことは他言無用だ。無論心を許した親しい間柄の人間であってもだ。お前の心に留めておくだけにしてくれ。思わず口を滑らせただけでは済まされなくなる。お前も命を狙われたくないだろう。

 それから義理の妹に話すのも厳禁だ。もし妹から妹の取り巻き連中に伝えられたなら、巡り巡って取り巻き連中に消される恐れがあるからだ。

 それを踏まえて良く聞いてくれ。実はホワイトレーベルとゴールドレーベルの二つの組織はな、俺が今話した神の一派が直接もしくは裏でかかわっていた組織だったんだ。つまりだな、神の一派が実質的なオーナーだったってわけさ。

 それを俺達は分かった上で、報復を図り、あわよくば神の一派の首領の首さえ貰い受ける覚悟だったのさ。実際、上手くいかなかったがな。

 もうこれで分かったろう。なぜそのあと身を隠す必要があったかを」


「えっ!? 嘘っ!!」一瞬パトリシアは絶句すると、信じられないと顔を引きつらせて叫んだ。「それはほんとー? あのとき、みんなでそんな大それたことを話し合っていたってこと?」


「まあ、そういうことになるな」ゾーレは落ち着いた声でそう応えると、ニヤッと白い歯を見せた。


「ふ~ん、そう」


 パトリシアはともかく冷静になろうと、深呼吸するかのように大きく息を吸うとゆっくり吐いた。そうして尋ねた。


「それで、そのことと妹とはどんな関係がある訳?」


「ああ、大ありだ。今の世の中は神や悪魔や天使といった言葉がそこら中に溢れて氾濫しているから、お前も免疫ができていて、義理の妹から神の一族の首領をしていると自己紹介されても何とも感じなかったかも知れないが、俺の記憶が間違っていなければ、お前の妹が首領だと主張するネピとはな、正真正銘、八つある直系の正式な神の一派で、しかもネピはこの世の聖霊と聖獣のほとんどを臣下として従えるということから、神の一派の中でもその影響力は群を抜いているという話だ。更に都合が良いことに、俺達が報復をかけた神の一派とは別の方なんだ。

 まっ、そういうことで。実はこうしてわざわざ来て貰ったのは、他でもない、もしものことがあってはいけないと思ってのことだ。どこで誰が聞いているとも限らないのでね。

 もしこの話を万が一にも誰かに聞かれると、俺もお前も命が幾つあっても足りなくなる恐れがあるからなんだ」


 そう言ってゾーレは一呼吸置くと、


「ええ、この情報の出どころは叔父のシュルツから出たもので、間違いなく信頼できると俺は思っている。その話によると、神の一派同志の間には代々受け継がれている掟と言うものがあって、その一つにお互いに仲違いしないと言う項目があるそうなんだ。

 もしそれが本当なら、俺達がお前の妹と交友関係を結ぶことで、神の一派の有力なところを味方に引き入れたことになり、もはや地下に潜る必要もなくなるかも知れないんだ。そしてチームの再活動が現実味を帯びてくるんだ」


「ふ~ん、なるほどね。そういうことだったの」少し硬い表情でパトリシアは分かったと頷くと尋ねた。


「それでそれはいつになったら分かるの?」


「それはまだこれからになると思う。余りに性急だったのでまだロウシュに頼んでもいなくてな。だがこれが終わったら直ぐにでも連絡を入れるつもりでいる」


「あっ、そう」


 含みのある発言をして結論を持ち越したゾーレに、パトリシアは素直に受け入れ、一瞬天を仰いだ。

 あの娘にそんな利用価値があっただなんてちっとも知らなかったわ。それにしてもゾーレったら、何を考えているの。ロザリオを復活させて一体どうするつもりなのかしら。

 そんなことがそのとき思い浮かび、その理由を訊いてみたい気もしたが、余りしつこく尋ねるとうざがれるから結局訊くだけ野暮だわと思い返すと、あえて触れようとはしなかった。


「さあてと……」


 そのあとゾーレは、さらりと話題を変えると、フロイスから出た情報なのだろう新居のことについて、これで話すことは話したというようなすっきりした顔で訊いてきた。

 パトリシアはようやくほっとしたにこやかな笑みを浮かべると、五年以上も放置されていた新古物件の一軒家を買ったいきさつから、建物の見た目や状態、更にはひどく手間が掛かった改修のことなどを逐一話していった。その様子をゾーレはニコニコしながら聞いていた。

 それからお互いの普段の暮らしについて、またたわいもないやり取りが始まり、ようやく二人とも話すこともなくなった頃、話し合いは無事終了。

 その際パトリシアの腕輪タイプの腕時計は午後の六時十分前を指していた。時間から見ておおよそ三時間、話し合いをしていたらしかった。

 そのとき同じように時刻を確認したゾーレは「ここまで来て貰ったついでに一緒に食べにいかないか」と誘ってきた。

「少し早くない?」と応じると、「そうだなー。少し早いかもな。それならそこら辺をしばらくドライブしてから行こうか」と返して来た。

 やって来る車中で食事と云えばウエハースと野菜ジュースだけの簡単なもので済ましていた関係から何か重いものでも食べたい気分だったので、もちろん断る理由などどこにもなく。分かったわと気軽に受け入れ、パトリシアは素朴な疑問を尋ねていた。


「それでどこへ何を食べに行くの?」


「そうだな、俺の顔が利く大衆的なところを二、三知っているんだが、そこの一つでどうだろうな。凄く良いところなんだ」


「それで良いわ。それでそこでのお薦めとか何かあるの?」


 そんな話題をゾーレに向けると、彼はすまして答えた。


「そうだなー、ヘルシーオムレツにチキンのソテー・トマトソース添えにチキンのグリル。トーフのハンバーグにトーフと生野菜のサラダ、ポテトサラダ、特製トマトジュース、ロールキャベツ、カブのスープ、ニンジンのスープにスープカレー・ライス添えとどれもお薦めだ。どれもカロリー計算がきっちりされていて自分で健康管理ができるようになっているんだ」


「あっ、そう。なんだか病人食みたいね」


 ぽつりと感想を漏らしたパトリシアにゾーレが苦笑いすると、


「場所が場所だからな。自然とそうなるんだろ。そこは、たまには若い連中も来てはいるんだが、いつもはほとんど俺と同じ年代の連中か老人達ばかりなんだ」


「えっ、どういうこと?」


「あのな、実はそこは、直ぐ近くにある大きな老人ホームを運営する業者がホームの職員のために開いた食堂なんだ。そのため、値段も低く抑えられていて手頃だし、メニューも栄養価が十分考えられていて健康を気にする俺にはもってこいなんだ。そして何よりうれしいことに、朝の七時から夜の十時まで開いているんだ」


 じょう舌にそう話して、いたずらっ子のように口元をのんきにほころばせたゾーレに、パトリシアは素っ気なく、「あっ、そう」と返した。

 普段のゾーレの暮らし向きが垣間見れた気がしたが、その一方、その心中は、ゾーレのデリカシーのなさにほとほと呆れるばかりだった。

 ほんと、食事に出かける場所が老人ホームの職員用の食堂とはね、恐れ入ったわ。もう少しましなところはないの。

 だがそうはいっても、ゾーレのその無頓着というか無神経さは、逆にゾーレがそれだけ自身に対して気を許している証拠だと言え。それ故に、ほんと、相変わらず変わっているわね。こんなだからずっと相手が見つからないのよと悪態をつくことだけに留めて、それはそれで仕方がないのかと割り切ると、


「了解。そこで良いわ」


 パトリシアは愛想笑いをしてあっさり同意していた。


 それから間もなくして、すっかり陽が傾いた空の下、見るからに高級感が漂う大型ヴァンが、コッテージ風の一軒家の建物を、何事もなく静かに後にした。

 車中ではゾーレがハンドルを握り、後部座席にコーとパトリシアがのんびりと並んで腰掛けていた。見た感じは、どこでもいる親子連れがごく普通に乗っているように見えていた。

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