第26話 悲しい連鎖
私達へ向けて、沢山の岩の魔物が迫って来ました。
エプリクスが炎を放ち熱した後、カペルキュモスが水を放つことで、岩の魔物は次々と砕かれて行きます。
レド様も斧を振り回し応戦していきます。
『無駄だ』
不気味な魔物から魔力が放出され、砕かれたはずの岩の魔物は元通りになりました。
「何回倒せばいいんだよ……! クソッ!」
大斧を叩きつけ、レド様は叫びました。
倒しても倒しても、岩の魔物は前の時とは違い、すぐに元に戻ってしまいます。
やはり、あの不気味な目玉の魔物をどうにかしなくては……。
「エプリクス、あの目玉の魔物を倒したいのですが、知り合いの方が憑依されているんです! どうにかして彼を救い、魔物だけを倒す方法はありませんか!?」
『ふむ……あれは魔物よりも我々精霊に近いものがあるようだ。何かを媒体として呼びだされた者なのではないか?』
媒体……そう言われて、目玉の魔物の胸にある石を見ました。
今も怪しい模様を浮かべながら、石はその胸で怪しく光っています。
「つまり、あの胸の石を破壊すればヒノさんは助かるのですね!?」
『優しき主よ、あの位置から察するに、既にあの石は憑依した人間の心臓まで浸食しています。中の人間だけを救うことは難しいでしょう』
カペルキュモスから放たれた言葉は、私が期待していた答えとは違うものでした。
ヒノさんはもう助からないというの……?
『『『お前達を殺したら、次は王都の連中だ!! 今こそ、我々の受けた恨みを晴らす時が来たのだ!!!!』』』
目玉の魔物は、人の声が何重にも重なった声で叫びました。
レド様が先程おっしゃった通り、この魔物は……はるか昔、滅ぼされたという先住民族達の魂が重なって生まれた魔物なのですね……。
男性、女性、子供の声……様々に重なったその声からは、怒りと悲しみが混じった感情が魔力と共に伝わって来ました。
「……あの魔物……なんだか可哀想です」
この人達にもそれぞれ日常があったはずです。それが、突然現れた侵略者により崩されてしまったのです。
人間の身勝手さが生んだ悲しい魔物、それがあの魔物の正体なんだ……。
「平和に暮らしていたのに……勝手に侵略され滅ぼされた揚句、このような寂しい場所に封じられて……」
「リズ……お前……」
「……でも……でも、今の彼らの行為は間違っています! これではただの八つ当たりじゃないですか……! 悲しい連鎖はここで断ち切らなくてはいけないんです!」
私は魔物の胸の石を目がけ、弓を引きました。
「カペルキュモス、私は魔法の矢であの石を破壊します! もし成功したら、すぐにヒノさんに回復魔法を!!」
『わかりました。難しいですが、やってみましょう』
「レド様とエプリクスは、すみませんが私のフォローをお願いします!」
「リズ……わかった!」
『任せておけ、主よ。魔物共にお前の邪魔はさせん』
目玉の魔物は、両手を上げて魔法を唱え始めました。
前方に魔法陣が出現し、私達目がけ岩の弾丸を放ってきます。
『水の壁よ!』
カペルキュモスが腕を掲げると、私達の前に水の壁出現しました。
弾丸は次々と壁に弾かれていきます。
エプリクスは、壁を突破してきた大きな弾丸を尻尾で叩き落としていきました。
「ストーンゴーレムも来たぞ!」
レド様は、私に向かって来ていた岩の魔物を斧で横殴りに粉砕しました。
レド様と精霊達のお陰で、私は集中して目玉の魔物を狙うことができます。
風の魔法を詠唱し……この矢に──!
普通に撃った矢では、あの石を破壊することは到底できません。
ですが、中級以上の風の魔法を乗せた矢なら、きっとあの岩を狙って破壊することができるはずです。
「────【デオトルネードアロー】!」
弓から放たれた矢は風の魔法を纏い、轟音を立てながら魔物の胸目がけて進みました。
魔物は手を前にかざし、必死に防ごうとします。
しかし、矢は魔物の手を貫き、ついに胸にある石へと到達しました。
『お、おのれぇええ……!!』
石に浮かび上がった模様から放たれる魔力が、矢の侵入を押し返そうとしています。
そこへ斧を構えたレド様が突進し、力ずくで矢を押しこみました。
『小癪な真似を!!』
魔物の腕が岩を纏い、レド様を襲います。
そこへエプリクスが割り込み、腕を掴むと炎で焼き払いました。
『ヌゥゥ……! き、貴様らぁああ!!』
『これで終わらせる。カペルキュモスよ、回復の準備をしておけ』
エプリクスは矢じりを力いっぱい殴りつけました。
『『『グァァァアアアア!!!!』』』
不気味な魔物が大きな叫び声を上げました。
胸の石は砕け散り、ヒノさんへの憑依が解けていきます。
『すぐに回復を!』
カペルキュモスは光の膜でヒノさんを包みこみました。
「ヒノさん……」
腕は焼け、胸は浸食された痕で抉れている……。
「見ろ、ストーンゴーレム達が……」
岩の魔物達は塵と化して、次々に消えて行きました。
戦いは終わりました……でも……。
『優しき主よ。もっと魔力を……』
「はい……!」
お願い、カペルキュモス……ヒノさんを助けて……!
◆◇◆◇
「……ううん……」
「ヒノさん!」
「あれ……? 俺は確か……」
良かった……ヒノさんが目を覚ましました。
カペルキュモスの回復魔法が間に合い、一命を取り留めることができたようです。
安堵したら、一気に疲れが襲ってきました。
「おう、助かって良かったな。これに懲りたら、もう怪しいクエストに手を出さないことだ」
レド様は腕を組んでご立腹です。
ヒノさんはバツの悪そうな顔をしています。
「お前さんには、帰ったら色々聞かせてもらわねえと」
「……わかったよ」
私達はヒノさんを連れて町へと戻って行きました。
レド様に聞いた話によると、石は元々あの祠に祀られていたものだそうです。
それを何者かが持ち出した……一体誰が……?
「あの石は、連中の魂を鎮める役割を果たしていた。もうその石も無くなっちまったし、魂も消え去った。あの祠も用済みになっちまったな」
「これで、あの魂達は悲しい連鎖から解放されたのでしょうか……」
「さぁな……」
あの石に封じられた魂は、ずっと自分達を殺した侵略者を恨んできたのでしょう。
コルン王国が建国されるよりもはるか昔の話。
彼らは復讐を果たすため、コルン王国に生きる侵略者の子孫達を襲うつもりだったのでしょうか。
「一番最低なのは、その魂を利用しようとした奴だと思うぜ」
「そうですね……」
なんとも言えない気分です。
人間に生まれ変わって、私は色々な体験をしてきました。
前世のアリだった頃も、私の生きる世界は弱肉強食により支配されていましたが、それは生きるためのことで無益な殺生はありませんでした。
侵略された人達のことを思うと、私達のした事は本当に正しかったのでしょうか……。
「レド様……すみません。少し疲れました……」
「そうだな。今日は帰ってゆっくり休め」
「俺も帰っていいですか?」
「お前は駄目だ」
町の明かりが見えてきました。
色々と思うことはありますが、とりあえず今は、ヒノさんを救えたことを喜んでおきましょう。
レド様達と別れて、私は家へと帰りました。
………………
…………
……
ふと、精霊達の眠る指輪と首飾りを眺めていました。
私はいつも彼らに助けられてばかりです。
精霊とはいったい何なのか……なにもわからないまま、私は彼らを使役してきました。
エプリクスは、石に封じられた魂達を精霊に近い存在だと言いました。
もしかしたら精霊達にも、なにか悲しい過去があるのかもしれません……。
明日になれば、ヒノさんの証言で、今回の事件を起こした犯人の調査も進みます。
まだまだやることは残っていますし、今はとにかく眠ることにします。
この何とも言えない悲しい気持ちを少しでも紛らわせるためにも……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます