第24話 怪しげなクエスト

 今日はお野菜が大収穫でした。

 特にジャガイモがたくさん収穫できましたので、今晩はマッシュポテトにしましょう。

 一緒に収穫したトマトも美味しそうです。せっかくですので、一つ食べてみます。

 うん、美味しい!

 お口の中で水分が弾けて、ほのかな甘みが畑仕事の疲れを癒してくれます。


「リズちゃん、これも持って行きなさいな」

「わー、シアさん、ありがとうございます」


 お世話になっている農家のシアさんが、トウモロコシをたくさんくれました。

 お家に帰ったら、早速これも茹でてみましょう。


 十三歳の頃孤児院を出た私は、シアさんのご厚意で住む家と畑を借りる事ができました。

 いま、こうして生活をすることができているのもそのおかげです。

 シアさんには感謝してもしきれません。


「うちの息子も、リズちゃんみたいにしっかり働いてくれるといいんだけどね」

「ヒノさんですか?」

「俺は冒険者になるんだーって……もういい歳だというのにそればっかりでね。ちっとも畑仕事を手伝いやしない」


 シアさんは溜め息をつきました。

 ヒノさんとはこれまでに何度か会ったことがありますが、たまに畑に手伝いに来たかと思うといつの間にか抜け出してしまい、畑の隅の方で木の棒の素振りをしていたりします。


「ヒノさんはギルドには登録されているのですか?」

「一応登録はしているのだけど……いつだったか、コボルト討伐に出掛けて怪我をして帰ってきて以来、ろくにクエストも受けていないみたいだよ」

「あら……」


 コボルトというのは、たしか初級のクエストでよく見る討伐対象の魔物です。

 リトルさんに弓を習っている時、私も何度か遭遇したことがあります。

 動物のような姿をした小さな魔物で、強さもそれほどではありません。

 冒険者になりたての、初心者向けの魔物だと聞いた覚えがあります。


「このままじゃ、うちの農家を継ぐ者が居なくなってしまうよ。リズちゃんさえ良ければ、うちに嫁いで継いでくれると助かるんだけどねえ……」

「ヒノさんとは親子ほど歳が離れていますし、私では釣り合わないと思いますよ? それよりも、畑仕事を手伝ってもらえるように説得するのが一番だと思います」

「うーん……上手く行くかねえ……」


 シアさんと話していると、そこにヒノさんがやって来ました。


「リズちゃん、こんにちは」

「あ、ヒノさん、こんにちは」

「あんた、こんにちはじゃないよ。いったい何時だと思ってるんだい」


 相変わらずのヒノさんに、シアさんはご立腹のようです。

 うーん……私はお邪魔になりそうなので、そろそろお家に帰ろうと思います。


「シアさん、お野菜ありがとうございました。美味しくいただきますね」

「ああ、ごめんよ。リズちゃん、またね」


 私がその場を離れると、シアさんはヒノさんへの説教を再開しました。

 ヒノさんはへらへらと笑って誤魔化しているみたいですけど、やっぱりちゃんと畑仕事を手伝った方がいいと思いますよ。


◆◇◆◇


「……美味しい!」


 マッシュポテトは会心の出来でした。

 塩加減を少し変えてみたのが良かったのかもしれません。

 パン付けてみても美味しく、お野菜のサラダと一緒に食べると絶品でした。

 これは是非、シアさんにもおすそ分けしなくては。


 私は早速、シアさんのお家へ向かいました。


「シアさん、こんばんは」

「あら、リズちゃんどうしたの?」

「今朝収穫したジャガイモでマッシュポテト作りました。美味しくできましたので、よろしければおすそ分けしようと思いまして」

「あらあら。どうもありがとう、リズちゃん」


 あれ? シアさんはお一人のようです。

 ヒノさんはどこかに出掛けてしまったのでしょうか?


「あの子なら、お金になる簡単なクエストを受けてきたって、喜んで出て行ったよ」

「こんな遅くにですか?」

「夜じゃないと駄目なクエストらしいんだよ。なんでも、石をあるところに置いてくるだけのクエストなんだってさ。これをこなせば俺もいっぱしの冒険者の仲間入りだーって」

「石を置いてくるクエスト? 夜は魔物も活発になっていて危ないのですよ」


 先日、私も狩りのお仕事を受けにギルドに顔を出していますけど、そのようなクエストを見た記憶がありません。

 もしかするとその後に掲示されたクエストかもしれませんけど、ヒノさんは初心者のクエストも失敗されたと聞いていますし……失礼ですけど、そんなヒノさんにギルド側が危険な夜のクエストを受注させるとは思えません。


「私、ちょっとギルドへ行ってきます」

「あ、リズちゃん?」

「シアさんは、家でヒノさんの帰りを待っていてください」


 ……何だか嫌な予感がします。

 果たしてギルドでそのようなクエストがあったか確認して、もし無ければヒノさんの安否が心配です。

 正規のクエストだったとしても、話を聞く限りではヒノさんは一人で出掛けたようですし、場所を聞いて後を追った方が良さそうです。

 ギルドに向かう前に一度家へ戻り、弓矢の準備をしました。

 もしかしたら、魔物と戦うことになるかもしれません。


◇◆◇◆


「あらリズさん、こんばんは」

「こんばんは。あの、クエストの事でお聞きしたい事がありまして」


 受付の方に、クエストの受注を調べてもらいます。

 掲示板の方も確認しましたが、ヒノさんの受けた内容のクエストはありませんでした。

 受注者が決まると、掲示から外されてしまうこともありますので、これはその確認です。


「石を置いてくるクエスト……ここ最近から見ても、そんなクエストはありませんね」

「そうですか……じゃあヒノさんはいったい……?」

「よお、リズ。こんな遅くに珍しいな、どうした?」

「ああ、レド様」


 ギルドには、食堂でお食事を済ませたレド様がいました。

 そうだ、もしかしたらレド様なら何か知っているかも……石のクエストのことを聞いてみます。


「石を置いてくるクエスト? なんだそりゃ、聞いたことねえな」

「そうですか……ヒノさんという知り合いの方なんですけど、こんな夜遅くに出掛けるなんて心配で……」

「なんだかきな臭い話だな……。手慣れた冒険者でも、あまり夜間のクエストは受けたりしないんだが……その石はどこに置いてくるって聞いたのか?」

「それが……わからないんです」


 やはり、ヒノさんの受けたクエストは正規のものではないようです。

 もしかして、誰かに騙されているのではないでしょうか。


「どちらにしても、場所がわからないと何ともできないな」

「はい……」

「俺、そのクエスト知ってるぜ」


 突然、お酒を飲んでいた冒険者の方が私達に話しかけてきました。


「町を歩いてたらフードを被った怪しい男が現れてさ、そいつが依頼してきたクエストがあったんだけど、そのクエストのことじゃないかな?」

「その話、詳しく聞かせてくれ」

「たしか、その男の持っていた変な模様の入った石を町はずれの祠に置いてくるっていう内容だったと思う。時間が夜限定だし、そんな変な奴からのクエストなんて怪しすぎるだろ。だから俺は断ったんだ」

「祠って、もしかして西の山にある祠か?」

「ああ、そこだ。でもあそこって、なにか良く無いものを祀った祠じゃ無かったか? 絶対何か怪しいクエストだよな」

「あそこは……まさか、そのクエスト……こりゃやばいぞ、リズ!」

「え、ええ……?」


 西の山にある祠……西の山と言えば、リオン盗賊団のアジトがあった方角だと思います。

 冒険者の方の話を聞く限り、ヒノさんはそのフードの男に騙されているのではないでしょうか。

 それに、レド様のいう“やばい”って、どういうこと……?


「私、そこの祠に行ってきます」

「ちょっと待てリズ、俺も付いて行ってやる」

「おう姉ちゃん、俺も行こうか?」

「酔っ払いはいいから来るな」


 フードの男の目的はわかりませんが、もしそれでヒノさんに何かあったら……シアさんに悲しい思いをさせたくありません。

 変な模様の石というのも、何か引っ掛かるものがあります。


 私はレド様と一緒に、その祠があるという場所へと向かいました。

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