酒は付き合う
いちご狩りを終えて帰る車内。帰りに、サービスエリアに寄ることにした。
岳がレンタカーを借りてくれて有能さをアピールする一方、俺は里佳ちゃんの隣で地図を見ながら頷いている。
もちろん、地図の見方など知らない。ただ会話が続かないので、ただ地図を眺めている。当然、理佳ちゃんがつまらなさそうにするかと思いきや、可愛い顔でジーッとこっちを見つめられていて視線のやり場が全くなく、ただ地図を見つめている。
「……地図、面白い?」
無邪気な笑顔を浮かべて里佳ちゃんの顔が近づく。
「う、うん面白いよー。へ、へぇ。ここが犬山城かぁ……」
さっきから、彼女とこんなに近い空間にいることが信じられない。駅前から現れた時、天使が舞い降りたかと思った。ジャージすら、彼女にかかれば羽衣のようなものだ。もちろん、そんな恥ずかしい台詞を口走った瞬間、俺の恋は終わる。
「修君、ごめんね。私、メールをあんまり返す習慣がなくて」
「ぜ、全然いいよ。全然そんなの」
本当は少し腹が立っていた。あれから、ちょこちょこメールしていたが返信には三日ほど間が空く。一週間来なくて、胃に穴が開きそうなこともあった。しかし、こうして謝られると、今までのことがどうでもよく感じてしまうから不思議だ。
「ほんとーに、遅いでしょ返信。よくもまあ嫌いにならずについていけてるよ修君は」
真奈ちゃんが俺をフォローしてくれてる。
なんていい子なんだ。岳、この子を泣かせたら承知しないぞ。
「エへへ、私マイペースなんだ。ごめんね」
「そ、それはなんとなく知ってる」
今まで話していて、また彼女が他の人に話している様子見ていて、それはかなり伝わってきた。多分、『こんな子と付き合ったら苦労するんだろうなー』とため息をつきながらも、『こんな子に振り回されてみたい』とМ願望丸出しの想いがよぎった時、必死にそれを打ち消した。
「まあ、友達としてはそんなに悪くない子……いや、悪いか……まあ、気長につきあったげて」
真奈ちゃんの物言いは、『男友達』としてという風に聞こえた。やはり、恋愛対象としては除外されているのだろうか。
「ねえ、修君っていちご美味しかった?」
里佳ちゃんが突然会話をなで斬りにして尋ねてきた。
「えっ? うん、めちゃくちゃ美味しかったよ」
最後、食いすぎで何度も吐きそうになったけど。
「岳君は?」
「んー、甘いもの自体あんまり食べないけど、甘い物の中では好きな方かな」
「だって! 真奈」
「……あんたなんか嫌いよ」
ええええええええっ! 今の会話で何が起こったのー!?
相変わらず、女の子同士の会話はよくわからない。まあ、当人同士が楽しければいいのだろうし、親友同士の間合いと言うのもあるのだろうが。
近くのサービスエリアに入ってお土産物屋に来た。
里佳ちゃんと真奈ちゃんは、食べ物のお土産の方へ行き家族へのお土産を悩んでいる一方、岳は熱心に可愛らしいストラップを眺めていた。恐らく、真奈ちゃんへのプレゼントでも考えているのだろうか。
「なあ、岳。俺……告白しようと思うんだけど」
「……はぁ゛!?」
その言葉を聞いた途端、恐ろしいほどドスの利いた声を出した。
「変かな。曲がりなりにも、一度はデートしたんだし、告白のタイミングとしてはいいんじゃないかって」
「いや、早いよ! 早すぎだって! 絶対すんなよお前どっかおかしいぞ大丈夫か!?」
「俺は本気だ」
そう言うと、岳は額を掌で押さえた。
「……そーか、おかしいんだったなお前は。修、考えてもみろよ。お前は、里佳ちゃんのどこが好きになったんだ?」
「そりゃ、やさ――「外見だろっ!」
……そう言われては身も蓋もない。
「いや、いいんだよ。恋愛ドラマだってだいたい好きになるのは外見からだ。だいたい男女の仲ってのはそんなもんだ」
「じゃあ、いいじゃねぇか。何が問題だよ」
「問題は、修。お前の外見だよ」
……そう言われては身も蓋もない。
「あんな綺麗な子がお前の外見で好きになるわけないだろう。いや、別にお前が悪い訳じゃない。大抵の人はそうなんだって。アレと釣り合う外見って本当にいないんだ。ここまではわかるか?」
まるで、幼稚園児を諭すかのように岳は俺に語りかける。
「う……うん」
「じゃあ、お前はどうするか? 辛抱強く中身を知ってもらうしか手はないわけだ。幸い、あの子は変わってる。お前みたいに超絶ダサい奴でも、一緒にデートに行ってくれるほど変っている。これが、どれだけ変わっているかと言うとフリーザとブルマがデートするぐらい変っている」
そんなにー! 俺、フリーザなのー!?
「いいか、修。お前は中身も外見もまともだ。対女性に対してはまったくおかしいが、まあそれは慣れの問題だ。見たところ彼女との相性もいい。だから、ゆっくりと友達になるんだ。ゆっくりお前のいいところを知ってもらって、駄目ならそれでいいんじゃないか」
「……」
友の助言をありがたく頂戴しつつも、この気持ちが制御できずに困っている。
「なぁ、岳。俺、高校二年生の時好きな子いたろ?」
「あ? ああ。俺に打ち明けて2秒でフラれた奴な」
そう、岳に自転車で「あの子って付き合ってる子いるのかな?」って聞いて「ああいるよ」と言われて勝手にフラれたあの忌まわしい事件のことだ。
「あれから、ずっとモヤモヤしてて……結局、高校三年の卒業式までずっと好きで……なんなら、里佳ちゃんと出会うまでずっと好きだったかもしれない」
「ああ、確かそうだったよな。凄い気持ち悪いラブレター書いてたもんなお前。出さなくてよかったよアレ。出してたらヘタすりゃ捕まるぞアレ」
親友の冷静なツッコミに涙も出ない。
「多分、俺がずっと忘れられなかったのは、きっと何もしなかったからだと思うんだ」
少しだけ……少しだけだが言いたいことが捕まえられてきた。
「……」
「なぁ岳。親友として聞くよ。俺がさぁ、里佳ちゃんと友達を続けたとして最終的に付き合える可能性は何パーセントだと思う? お世辞抜きで言ってくれ」
「……マイナス……二〇〇〇パーセント。むしろ、ストーカー規制法で訴えられる可能性の方が高い」
本当にハッキリ言う親友に涙も出ない。
「だろう? でも……今ならさ、俺は忘れられるかもしれない。本当に、ギリギリなんだ。ギリギリ忘れられるレベル。ギリギリで告白できるレベル。これ以上好きになっちゃったらさ。もう、忘れられなくなっちゃうし、告白する勇気も持つ自信がないんだよ」
冷やかしで告白する訳じゃない……でも、自分でも無理だってことがわかる。だって、俺には中身だってろくなもんじゃないのだから。彼女がいくら俺の中身を見てくれたって、いや、その方がむしろ、俺はつらい。
「……確かに、そうかもしれないな。お前みたいなのは、一度告白して思いきりフラれるのがいいかもしれないな」
岳が少し哀しそうにつぶやいた。
「ごめんな……せっかくいろいろセッティングしてくれたのに……」
「まあ、それは全然。むしろ、お前を口実にしたところあるしな。まあ、帰りの車内とかはやめてくれ。気まずくなるのは、お前も本意じゃないだろう? まあ、少なくとも解散してからにしてくれ」
ぶっきらぼうに背中を見せる岳。
「サンキューな……」
「……酒は……付き合う」
そう言い捨てて親友は真奈ちゃんの方に歩いて行った。
絶対にフラれる戦いが、ここに始まった。
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