寂しい


【夫のターン】


 妻も娘もいないということで、久しぶりに仕事終わりで大学からの同級生である岳と酒を飲む。


「くぅー! やっぱ、ビールだよなぁ。こんなおいしいもんないぞ」


 岳はそう言いながら、口の泡を吹く。相変わらずの酒好きで、妻の真奈ちゃんからかなりお酒を制限されているらしいので、一層美味しそうに飲む。


 まあ、しかしこいつの言うことも、最近は理解できるようになってきた。昔はなんでこんなまずい飲み物で商売が成立してるのかわからなかったが、今では飲み会に行ったら必ずビールを頼むようになってしまった。


 普段は会社の飲み会以外、あまり外で酒を飲まない。トラウマというわけではないのだが、大学の時にワイン+ポカリを交ぜたものを一気飲みして、急性アル中で救急車に運ばれた。気がついたら点滴を打っていて、ベッドの前に親がいたのは、思い出したくもない黒歴史の一つだ。


「でも、寂しいんじゃないか?」


「ああ。やっぱね」


「おっ、結構素直じゃないか」


「世界一可愛い娘を持つ身としては、むしろ断腸の想いだわ」


 やっぱり、凛ちゃんはパパと暮らして欲しかった。でも、幼稚園の送り向かいもできないし、残業で一人にさせてしまうことが多くなっちゃうから、仕方なく、限りなく、泣く泣く、あきらめた。


「妻の方は?」


「寂しいどころか遠隔のがイライラする」


 というか、あいつは俺に恨みでもあるのか。そうじゃなきゃ、もはやあのウザさは説明できない。


「可愛いじゃないか。それが、彼女の甘え、なんだよ」


「……どうでもいいけど、そのキャラやめた方がいいぞ。死ぬほど鼻につくから」


 岳はすでに焼酎ロックに切り替えており、グラスの氷をカラカラ鳴らしながら、遠い目をして、『フッ』と笑みを浮かべている。長年の付き合いでわかったことだが、どうやら酔っぱらうと、こんな感じになるらしい。


             ・・・


 岳と別れて、酔っぱらいながら夜道を歩くと、満月が凄く綺麗だった。


「うっわー、いい夜だなぁ」


 思わずそうつぶやく。


「くーだらねーとつーぶやいてー♪ 覚めた顔して――」


 思わず歌ってしまう。


「……」


 当然ながら、答えはない。


 いつもなら、凛ちゃんに月夜のウサギの話をして、理佳がそれを脚色して、で俺が怒って……


「ははっ、やっぱり寂しいじゃないか」


 悔しいけど。


 認めたくないけど。


 パシャ。


『今夜は綺麗な満月です。一人で見ると、やっぱり少し寂しいから一緒に見たいお前と凜ちゃんに送ります。愛してるよ』


 そんなメールをつけて送信。













 翌日、キザすぎて、はわわわわっってなった。



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