ついつい


【妻のターン】


 午前8時。バタバタする音ともに、夫が慌てふためいて、リビングに降りてきた。


「やばいやばいやばい、結婚式遅れちゃう……」


 急いでスラックスをはいて、ワイシャツを選び出す。


 ああ、もうネボスケなんだから


「目覚まし時計は鳴らなかったの?」


「……なぜか鳴らなかった」


 ジーっと、疑い深げにこちらを見てくる夫。


「ふーん」


「お前、なんか知らないか?」


「知らないよ」


「……本当だろうな?」


「シラナイヨ」


「なんでカタコトなんだよ! テメー、まさか……くっ、あとで覚えてろよ」


 私に構ってる暇はないと思ったのか、いそいそと支度をし出す。


             ・・・


「テメー! また額に『肉』っていれやがったなぁ!」


 つ、ついつい。


             ・・・


「里佳、俺のネクタイ知らない?」


「えー、そこの机にかけてない?」


「あっ、あった。ありが――」


 ガシャガシャガシャーン!


            ・・・


 お皿とコップが全部ぶっ倒れた。


「なんで……テーブルクロスとネクタイが繋がってんだよ!」


 つ、ついつい。


            ・・・


「修ちゃん、ハンカチ持った?」


「持った」


「ご祝儀は?」


「持った。後は、ええっとええっと……」


「後輩社員の今後の幸せを願う気持ちは?」


「あるよ!」


「あっ……あと、はい!」


「パンダのぬいぐるみなんているかー!」


「そうよね……はい!」


「ああそうそう、プーさんね――じゃねぇよ! 種類の問題じゃない!」


 豪快なノリツッコミを見せてくれる夫が私が大好きだ。


「朝ご飯食べてかないの?」


「お前のせいでそんな暇ないんだよ!」


「あるよ!」


「お、お前……脳みそ腐ってんのか? 今、何時だと思ってるんだ!?」


「8時だよ!」


「そう8時45分……ん?」


 夫にはてなマークが浮かぶ。


「ふっふっふっ……早くしておきました」


 こんなこともあろうかと。夫が寝坊するのに備えて、45分時計を早くしておいたのだ。これで、修ちゃんもゆっくりと朝ご飯が食べれるし、私もゆっくりと構ってくれ――










 結局、一時間説教を喰らい、修ちゃんは遅刻した。




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