お金

【妻のターン】


 テレビを見ていると、衝撃的なニュースが飛び込んできた。


「な……なんてこったい」


「どうした、里佳?」


 私の焦燥とは裏腹に、怠惰に能天気にソファーに寝転びながら尋ねる夫。


「コ、コンチェッカーの仮想通貨IMUが500億円盗まれたって」


「仮想通貨? ああ、あのビットコインみたいなやつか」


「……」


「それがどう――っ……お前まさか……」


「うん。やってるよ仮想通貨」


「なに――――――――――!?」


 リビング中に修ちゃんの声が響いた。


「ど、どうしたの?」


「どうしたのじゃねぇよ! えっ、お前仮想通貨やってんの?」


「うん」


「なに家庭の金でギャンブルしてんだよ!」


「ギャンブルって……積極的運用と言って欲しいワ!」


「アホか!」


 ふぅ……やはり夫は頭が固い。


「まあ、聞いてよ。修ちゃん。私は仮想通貨を遊びでやってるわけじゃないよ。人民元、ドル、豪州ドル、ユーロ……」


 私は、家にあるお金を並べ立てる。


「な……なんでこんなに各国の通貨が」


「いつか、日本の経済が破たんして円の価値が暴落した時のためだよ!」


 そう、日本という国がダメになった時、紙幣の価値が大きく変動する。その時、生き残るのは……ワレワレ橋場家ナノダ。


「……むぅ」


 夫が戸惑っている。


「もちろん仮想通貨もリスク回避の手段の一つ。全体の資産の1割にも満たないよ。特に増やす目的ではなかったけど、ほらこれ見て―」


「……めっちゃ多い!」


 フフフのフー。


 5倍くらいにはなってるのよねー。


「ええ、私、今回のコインチェッカーの件も予想してたよ。セキュリティの件に甘さがあるとも思ってたから、あそこの取引所は私は使ってない」


 現にコインチェッカーが出勤を停止した時、逆にチャンスだと思って、今の瞬間他の仮想通貨の比率を増やしている。仮想通貨は変動が激しいのでこまめにチェックするのがコツなのである。


「な、なにを言ってるかよくわからないが大丈夫なんだな!?」


「私に全て任せてください」


 ドンっ! と胸に手を叩いた。


「死ぬほど不安なんだが……」


 自他ともに認めるアナログ主人が訳もわからずにハラハラしている。


「修ちゃんの自転車通勤の1万6000円も、お義父さんのレンタカー代も決して無駄にしていません。私が、家庭のガーディアンとして必死に守っていきますから」


「……それは心強いな」


「ゆき――修ちゃんは黙って私に万札を持って来なさい」


「お前……完全に俺を諭吉呼ばわりしようとしただろう?」







 ギクリ。

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