妻実家
【夫のターン】
冬休みに実家に行くのは他の家庭と一緒だが、少し事情は異なっている。妻は夫の実家に行きたがり、夫の俺は妻の実家に行きたがる。
そして、ここは妻の実家である。
「相変わらずでかい家だなぁ」
マイホームの倍以上ある敷地を眺めながら、思わずため息が出てしまう。
「でっかいだけよ」
そう言いながら、妻がインターホンを鳴らす。
「はーい、あら里佳、いらっしゃい」
義母の里恵さんがモニターに映し出された。
「エヘヘ、開けてー」
「……あんたって子は、もう少しまともな挨拶できないのかねぇ」
そうため息をつきながらインターホンが消え、下まで義母さんが来てくれる。
「こんにちは。義母さん。すいません、お世話になります」
「こんにちは、おばあちゃん!」
「こんにちは、修さん、凛ちゃーん。偉いねぇ、ちゃんと挨拶できて。お父さん似だねぇ」
そう言って孫をナデナデ。
「お邪魔します」「へへへー、お邪魔しまーす」
「どうぞどうぞ」
義母さんは凜と俺をこころよく迎えてくれる。
「お母さん、私お腹すいちゃっ――」
ガチャ
里佳の前で扉を閉めようとする義母さん。
「ちょ―――――――v!」
慌てて足に扉を挟む妻。
「こ、この足どかしなさいよ。バッカじゃないの! あんた、バッカじゃないの!挨拶くらいまともにできない子は家には入れません!」
「お、お母さん。い、いえお母たま。そこをなんとか。そこをなんとか。平に、平にー」
「去れ! 修さんと凛ちゃんだけ置いて去るがいい! 凛ちゃんー、ばーばだよー。すぐにこいつ追い出すからちょっと待っててね」
「ぐぐぐっ………それが実の母親のセリフか! 信じられない」
「あー手まで入れやがった。育て方を誤った。どうやったらあんたみたいな子が育つのか、逆に奇跡よ、逆奇跡」
「正真正銘あんたの娘よ。あんたの育てた結果の私。素直に現実をうーけーいーれー、開いたぁ! 修ちゃん、凛ちゃん、じゃあ後でね」
そう言って、妻は自分の部屋に最短距離で特攻をかける。ドアを鋭く開けて閉めて買ってきた鍵を瞬時にセット。
ドンドンドン!
「バカ娘! 開けなさいバカ娘!」
「開けるかバーカ!」
「全然実家に寄り付かないで久しぶりに帰ってきたと思ったら、まともな挨拶すらろくにできないで………ちょっとはマシな母親やってるかと思ったらあんたって子は」
「オホホ、どっかの誰かさん似だからじゃないですかぁ」
「クッ、ああ言えばこう言う。あんたの屁理屈はお父さん似ね。ああ、恐ろしい。鬼の子よ、鬼の子。凛ちゃんに悪影響及ぼさないように隔離しなきゃ」
「ああそうです。私は鬼の子です。親の鬼は誰ですかねぇ? 親の鬼の顔が見たいわ――」
……放っておこう。
リビングでは義父さんがソファで待っていた。
「おっ、修くん、凛ちゃん。ようこそ」
「義父さん。すいません、今日はお世話になります」
「お世話になります」
俺のお辞儀とともに、娘も一緒にお辞儀する。
「よくできました。もう、ちゃんと挨拶できるんだなぁ。偉い偉い」
「エへへ……」
嬉しそうな娘を少し誇らしく思う。
*
「開けなさいバーカ!」
「開けるかバーカ!」
*
「そうだ、里恵がお年玉用意してるんだった。凛ちゃんにもあげないとなぁ。修くんにもあるよ」
「い、いえ義父さん。もう、僕の年にお年玉っていうのは……」
「なにを言っているんだ。僕はずっと息子が欲しくってね。年寄りの自己満足に付き合ってくれると嬉しいんだが」
「は、はい。では、遠慮なく」
義父さんはおっとりしていて、優しくて気がきいて……さすがはあの義母さんの夫だけある。
*
「あんたなんて娘じゃない!」
「こっちだって産んでくれって頼んだ覚えないわよ!」
*
「……いやあ、やってるね」
「やってますね」
「修君……ほんと――――――――――に、苦労かけてすまないねー」
「いえ、義父さんこそ」
「……」
「……」
もはや、この母娘の言い争いは毎年の恒例行事と言っていい。
「「はぁ……」」
互いに顔を見合わせ、思わずため息が出た。
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