お遊戯会

【夫のターン】


 幼稚園のお遊戯会。里佳は体調が悪いということでお休み。少し、心配だったが


「凛のがんばってる姿、撮ってきて」と背中を叩かれて送り出された。


 今、俺は妻のために、全力カメラマンだ。


「あっ橋場さん、こんにちはー」「こんにちはー。ご無沙汰してます」

「里佳さんの夫さんですよねー。いつもお世話になっております」「いえ、こちらこそ。妻がお世話になりまして」「こんにちはー。あなたの奥さん面白いですよね」「い、いえいえそんな」


 ……なんか、めちゃくちゃ声かけられるのは気のせいだろうか。


 その時、


「おっす、修」


 と声をかけてきたのは、親友である岳だった。


「おお、お前も一人か」


「真奈も8か月だからな。まあ、大事とって俺が来た」


「そうだ、おめでとう! 二人目か」


「サンキュー、次は凜ちゃんみたいに娘がいいなー」


「娘は……大変だぞ」


「や、やめろよ。そんなにしみじみ言うんじゃねぇよ」


 思わず苦労がにじみ出てしまったか。


「でも、剛君っていい子だよなー。あの子見てると男の子もほしくなってきたな」


 いわゆる凜と剛君は幼馴染だ。


 真奈さんの教育が行き届いているのか、すごくまっすぐに育っている印象だ。


「いやいや。まあ性格はいい子に育ってくれてるけど、アホでなあ。凜ちゃんって、はっきり言って天才だぞ?」


「……天才って大げさな」


 悪魔(妻)からある意味英才教育を受けているのは間違いないが。


「だってあんなにペラペラ言葉話せるかね。まだ、幼稚園なのに」


「確かに……言葉はすごいな」


 他の子たちと比べて娘はとびぬけて話せている。それは、まぎれもない事実だ。


 そんな雑談をしていると、


「じゃ、みんなー。おとうさん、おかあさんについて好きなこと発表してくださーい。やりたい人ー」


 と保育士さんが元気に子どもたちに声掛けをする。


「「はいはいはいはいはい!」」


 みんな、元気! 日本の将来は、明るい。


「じゃあ、剛くんから」


「はい! 僕はおとーさんと、おかーさんがぁ大好きでーす!」


「はい、よくできました。ハナマルです」


 か、可愛い。やっぱり、子どもはこうじゃないといかんよなぁ。


「おっ……お前、なに涙ぐんでんだよ」


「……へへっ」


 いいなぁ……でも、確かにうちの娘の方がかなり話せるけどな。


「はい、じゃぁ次は凛ちゃん」


 い、いよいよか。これが、再生ボタン……じゃない!? えっ、嘘。なんで……里佳に教えられた通りちゃんと……


 ハラリ


『わはははは、騙されたな。これ、説明書だから、これ見てやってね』


 ……そーか、お前のためにやってるのに、他ならぬお前が邪魔するんだな。


 やばいやばい……アホ妻のせいで記念すべき娘の動画が……


「はい! パパとママはよく、にゃんにゃんします!」


 ……ふー、間に合っ……!?


「にゃ……にゃんにゃん?」


 保育士さんは戸惑っている。


「はい! よく、夜、二人でにゃんにゃんします!」


            ・・・








 凜ちゃ――――――――――――ん! なに言ってるの――――――――――――――――――!?


「ブフッ……」


 ほ、保育士さん……笑ってないで止めてくれよ。


「パパはにゃんにゃんが好きみたいです。で、ママは……ごほっごほっ……あっ、凜はまだにゃんにゃんやっちゃダメみたいです」


 そこで止めちゃダメ―――――――! 話題変えたら『ママは?』って感じになっちゃうから―――――――!


 みんなの……視線が痛い。


「凜も早くパパとママのようににゃんにゃんできるようになりたいです!」


 ダメだ――――――――――! 絶対にダメだぞ――――――――!


 凜ちゃん……もう、座りなさい。一言も話さずに座りなさい。


「……」


 ほっ、通じたみたいだ。


「……凜ちゃん、もう終わり?」


 保育士さん……なにを、もっと引き出そうとしてるんですか。


「でも……パパとママ、にゃんにゃんしなくなっちゃった」


 こら―――――――――――っ!?


「ママになんでしないの? って聞いたら、『そういう時期なの』って。先生! それ、どういう意味?」


 お悩み相談室になった―――――――――――!?


「そ、それはパパに聞いてみれば?」


 保育士さん――――――――! とにかく、中断してくれ―――――!


「パパ……なんで?」


 聞かれた――――――――!


 説明しなくては……なんとか……なんとか……


「その……まず、みなさん、誤解して欲しくないのは、にゃんにゃんはプロレスごっこでして――」


                ・・・


 嘘くさ――――――い! 自分で言っておいて、なんか信ぴょう性ゼロ――――――――――――――!


「ゴ、ゴホン。とにかく、する。凜、答えは『する』。安心してくれ」


「うん!」


 なにかに満足したのか、娘は、座った。


「……っはははは、腹痛いっ。て、天才だわっ。やっぱ、お前の娘、天才だわ」

 岳がお腹を抱えながら、俺の背中をバンバンたたく。


 正直、だれか、殺してくれないだろうか。


 その後、主婦の方々から精力剤を計5本頂き、心に満身創痍の傷を抱えながら、帰宅。


「おかえりー」


 満面の笑みで迎える妻。


「ただいま……」


「動画とれたー?」


 ……娘は、えらいモンスターに育っているぞ。


「きょ、今日は見ない方がいいと思う」


 さすがに、風邪の身ではつらかろう。


「ママ―、ただいまー」


 そういって凜が里佳に抱き着く。


「ちゃんとできたー?」


「うん。練習通り、できたー」



            ・・・







 練習通り!?


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