ありがとう

【妻のターン】


 ご飯を食べて、リビングでテレビを見ていると、あるドキュメンタリー番組がやっていた。夫はこういうのが結構好きだ。私はもっぱらお笑いが好きなので、よくチャンネルの取り合いになる(大抵は私が勝つのだが)。今日は野球中継しかやっておらず、見たいものも特になかったので、「しょうがないなぁ、今回は譲ってあげる」と言って夫の見たい番組を見ることになった。


 大家族の番組で、『わいは不器用な大阪人や』が口癖のビッグダディ。正直、この関西人はどうかと思うが、その子どもたちや妻などは本当に素晴らしい


『ありがとう、それは幸せにつながる魔法の言葉……』


 そんな言葉で番組は締めくくられて、つい魅入ってしまった。


「いいドキュメンタリーだったね、修ちゃん」


 チャンネルを変えながら夫に笑いかけた。


「ああ。まあ、普段の行動が当たり前過ぎて『ありがとう』なんて言わないからな。俺たちももっと日々の生活の中で使って言ってもいいよな」


 ちょっと涙ぐんでいる我が夫。どこで、どの場面で感動したかは私には解さないが。


「そうよね……ねえ、修ちゃん。私に出会ってくれてありがとう」


 そう夫の肩に頭を預けた。


「ばっ……バカお前この野郎……俺の方こそありがと」


 少し気恥ずかしそうに、私の頭を撫でる。


「エヘヘヘ……あっ、週に一回ハーゲンダッツ買ってきてくれてありがとう」


「よせって、そんな事言ったらいつも温かいごはん作って待っててくれてるだろう? ありがとう」


「エへへへ……あっ、でも今日はハーゲンダッツ買ってこなかったよね?」


「……」


「……」


「……ちょっと今から買ってくる」


 そう言って夫は立ち上がって外へ出る支度を始めた。


「ありがとう!」


                 ・・・


 30分後、夫が帰宅。


「ほらっ、チョコレート味」


「わぁー、ありがとう……じゃあ、次お風呂掃除ね」


「ええっ! いやまあ、やるけどさ」


「ありがとう!」


                 ・・・


「お風呂湧いたぞー」


 20分後、夫の声が響いた。


「ありがとー! でさー、消費税の関係でおこづかい減らしてもいい?」


「……ええええっ! い、今!?」


「うん、今」


「そりゃあ……お前が管理してるんだから、そう思うんならしょうがないけど」


「ありがとー!」


「……ちがくねっ!? さっきから『ありがとう』の使い方ちがくねっ!?」


 ああ、神様。こんな可愛い夫をくださってありがとうございます。


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