第46話 利己的因子は生き延びる?



 自分勝手な人は何処の社会にも存在する。勝手さが度を超せばグループから無視されるなどのいわゆる「痛い目」に遭わされることもあるだろうが、グループの結束が弱かったり少人数だったりすれば、その勝手さは押しの強さとして通用する。ただ、皆が自分勝手に振る舞えばプロジェクトなども全体として上手く進まないのは誰もがよく知るところだ。

 実を言うと自分勝手という言葉は、「抜け駆け」と同義になることが多いように感じている。それは他者と協調しない行動であるのだが、不思議なことに少数者が抜け駆けする理由は少数だからこそメリットを受けうることも関係しているのだと思う。

 良い意味で言うなら皆が互いに牽制し合って物事が膠着した時にそのしがらみを断ち切ることであるが、多くの場合は悪い意味で用いられる。そう、皆が調和や協調を目指している時に一人だけ楽をしたりメリットを享受しようとすることである。


 いきなり極端な例を出すが、極限状態において利己的に振る舞うのと協調を図るのはどちらの方が有利であろうか。道徳的な戒めを含めて昔話などでは利己的に振る舞うものが罰を受けるようなものが多いが、わざわざそんな戒めを話に加えると言うこと自体が利己的に振る舞った方が得をするという傍証のようにも思えてくる。

 もっとも、それは一人勝ちなのである。あるいは少数で富を独占することであり、しかもその方法は皆が納得できるものではない。正々堂々と争った上での富の独占は認める気持ちが大きくなるものではあるが、不公正な(と感じられる)それは新たな不公正さを呼び起こす。目には目を歯には歯をと似ているが、言い換えれば良心をかなぐり捨てることでもある。


 利己が社会的に許容されるのは、社会が乱れている時である。下克上というのは身分社会が当たり前であった時代の究極の利己的行動であるが、それが許されるのは戦国時代という動乱が舞台として存在した。逆に言えば、平穏な時代には利己的行動は社会における暗黙の了解により著しく規制される。

 若者達が社会に反発する一つには、社会におけるこの暗黙の了解があるのではないだろうか。現状の体制を打ち破ろうとするのも、一種利己的な行動として映りやすい。政治家によるそれは社会のためにと言う大義名分も成り立つであろうが、個人レベルでのそれは我が儘と呼ばれ利己的行動と映る。単なる反抗であれば「抜け駆け」とまでは言えないかも知れないが、現状の体制のくびきから一人逃れようとする行動だと考えればそうとも言い切れない。

 それでも尾崎豊が未だに賞賛されるように、多くの賛同者を得ることができればそれは利己的と言い切れなくなる。利己的とはあくまで「抜け駆け」なのであって、皆が行動すればそれは抜け駆けでも何でもなく社会全体の動きとなり得るからだ。


 一般的に利己的な行動は、社会から睨まれないようにずるがしこく為されることが多い。それは、社会から反抗分子だとレッテルを貼られれば利己的に生きづらくなってしまうが故である。犯罪も一種極端な利己的行動であるが、それを犯すものは逮捕され裁かれる。その上で、社会の多くの人は裁かれない犯罪者に嘆くのだ。

 そして利己的行動が多くの賛同者を得た時には、体制側からは利己的とのレッテルを貼られたとしても、大きな動きとしてそれは既に利己的ではない。


 利己的行動は、安定した社会においては密かに根を張る物の広がりは得られず、仮に得るようなことがあればそれは既に利己的ではない。ただ、利己的行動が多発するような時代を迎えたとすれば、社会全体が安定期から動乱期への移行をしていることを意味するのかも知れない。

 その上で、おそらく動乱期には利己的行動の方が生き延びる確率が上昇するだろう。安定した社会に必要とされる資質と、動乱期に必要な資質が同じだとは考えにくい。利己的行動とは動乱期を生き延びるためには不可欠な要素であり、安定期には不必要な存在と思われがちでかつ社会に不安を呼び起こす要素ではあるとしても、それを完全に除去することは人類という種の存続を考えた場合には必ずしも適切ではないと思う。その排除は人類の多様性と可能性を摘み取る行為となりかねない。


 社会において利己的としか思えない人が少なからず存在するのは事実である。それは今の安定した社会においては不必要でかつ社会の安定を乱す存在かも知れない。ただ、現在のみの視点で考えるのは偏狭に過ぎる。


「人間社会の汎用性を取れば、不安定要素の存在をリスクのみならず可能性としても捉える必要があるのではないか。」

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