第37話 高齢者の愛



 高齢化社会まっただ中にある日本にとっては、高齢者問題は社会の中心的議題の一つである。

 実際、国民の金融資産の1/3以上は高齢者が保有していることから消費の動向も高齢者が握っているし、選挙における投票行動も高齢者の影響が随分高い。

 その結果、未来を見据えたいところではあっても現実には高齢者の意見を無視できないのが日本でもある。

 年金問題=高齢者問題と考えれば、結局のところ高齢者問題とは高齢者の収入をいかに確保するか(すなわち、高齢者の生存権をいかに保護するか)ということでもある。


 さて、人生をQOL(Quality of Life)で考えるとすれば、生存権のみが保証されたからと言って十分ではない。生き甲斐たる何らかが存在しなければならない。もちろん、生き甲斐そのものはその人の環境に応じて本人が見付けるべきものではあるが、それを求めたとき明らかに不当な要件でそれが阻害されてはならない。

 仮に、それが高齢者同士の性の問題であってもである。


 私達のイメージでは、高齢者同士の恋愛関係を否定するわけではないものの、若者と比較して重要視しない感覚が存在する。年老いてからの異性関係をあまり「恋愛」とは呼ばないとは思わないだろうか?少なくとも、独り身の同人同士が一緒にいるのを、「茶飲み友達」などと表するのはそこに社会倫理的な規制が働いているからではないかと思う。


 高齢者の性を語る上で避けて通れないものとして「更年期障害がある」。

 その影響は女性の場合において特に顕著であり、単純な性的欲求の減退に留まらず精神的なイライラや、それが嵩じて体調を壊したり精神的な病気になりやすくなったりするという

 。一般に性ホルモンの分泌が減少することで引き起こされているとされるが、それが早ければ40代後半からおおむね50代にかけて生じ、女性ではおよそ80%の人が何らかの影響を自覚しており、20〜30%の女性が更年期障害と診断されていると言われている。

 この時期の不安定な状況については、QOLの観点よりホルモン療法が既に取り組まれているが、老人の性を語る上ではこの時期以降のことを想定してみたい。


 女性の場合は、更年期以降には基本的に妊娠することはない(実際の妊娠可能時期はもっと前に終了する)。だから、本能的な性欲は減退するものと考えられのだが、実際には性欲は更年期以降も継続すると言われている。もちろん、男性の場合には生殖機能は更年期以降も継続し、当然ながらこちらも性欲は体力が許す限り無くなるわけではない。

 すなわち、老人が性を意識しないかと聞かれればそれは「否」ということが真実であろう。ただ、常識や倫理に縛られる結果、それが活性化しがたいというのが現実ではないだろうか。

 近年では、独居老人や老人ホームに入る人も多いため、家族の目を気にしなくても良い環境が整っていると考えたならば、老人の性というものはもっともっとクローズアップされてもおかしくないと私は思う。

 これは特異な例かもしれないが、更年期以降の女性にとっては妊娠を気にせずに性行為をできるということを喜びと捉える人もいるそうである。

 もちろん、これまでの様々な縛りからの解放という心理的なものが影響していることもあるだろう。そもそもバイアグラなどのED治療剤などは、目的とは別に高齢者の機能充実のために利用されているケースも少なくない。不満なのは体力面だと言うことであろう。


 1993年の調査でありやや古いものではあるが、こんな結果が出ている。

   老人のセックス調査:http://blog.canpan.info/sasakawa/archive/2210

 70代前半でも、男性で25%程度、女性で12%程度は月に1〜2回のセックスを行っているとある。

 これを多いと見るか少ないと見るかは考え方次第であろうが、今後も元気のない若者以上に活躍する場面もあるかもしれない。


 さて、性という面だけで高齢者の愛を捉えるのはやや偏っている。

 愛情とは性欲のみで成立するものではないため、心の通じ合う人がそばにいるという精神的な愛情のウエイトは、肉体的能力の衰えに伴い若者の場合よりは高まると想像できる。どちらかと言えばアクティブな恋愛を育むと言うよりは、伴侶を持っているという安心感に近いと想像する。

 ヒヤリングなどの調査を行ったわけではないので、あくまで私の意見は推測に過ぎない。

 ただ、年齢を経ると共に肉体や気力の衰えを感じていたとすれば、新たな深い関係を一から作り出す努力よりは、緩くても壊れにくい関係を大切にするようにも思う。だから、恋愛と言いながらも恋愛未満の緩やかな関係が多く存在するのではないだろうか?

 もちろんバイタリティのある高齢者は、男女関係を巡って骨肉の争いをすることもあろうだろう。ただ、それが全てではないと私は思う。


 どちらにしても、高齢者の愛。あまり語られることのないそれが、高齢化の進展する日本においては決して軽んじられる問題ではないと思うし、場合によっては大きなビジネスチャンスを生み出すことであるかもしれない。


「人は、生まれてから死ぬまで誰かと関わらないではいられないものである。それは現実であれ空想であれ。」

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