タイガー〇・バーサス・ジャイア〇ツ!

タイガー〇・バーサス・ジャイア〇ツ!(1/3)

 青々とした葉と葉が擦れ、キラキラと輝く木漏れ日の下。

 我々は、学校の校舎裏にある大きな木の下にいる。

 この木は、季節によって桃色の花びらを舞い落ちらせる桜の木なのだが、生徒達の間ではこの桜の木の下で告白すると恋が成就すると、まことしやかに囁かれている。

 四世代前のゲーム機から持ってきたような設定であるが、藁にもすがりたい山田ヒロハル青少年は、その縁起をかつぎたく、わざわざこの場を選んだのだ。

「い、いや! ここを選んだ一番の理由は、この静かな雰囲気が良いからだ! これで桜が咲き乱れて、花びらが舞う演出があれば尚良かったんだ……」

 君がロマンチストなのは良く分かる。

 と、言うわけで、我々はここで松本氏が来るまで最終調整を行っている。

 最終調整と言っても、大したことはしていない。

 山田ヒロハル青少年の緊張をほぐすぐらいである。

 ちなみにキャサリン氏は、山田ヒロハル青少年の告白の現場に立ち会うことは勿論せず、遠くからアドバイスが出来る程の恋愛ノウハウも持っておらず、完全に手伝うことがない為、しばらく席を外すこととなった。のだが……

「……」・・・・・・

 遠くの草むらに、見覚えのあるネコミミと金色の頭髪が見え隠れし、何者かが動かずにこちらの様子を伺っているように思えるのだが、あれはもしやキャサリン氏ではないだろうか?

「あ、ああ……たぶん隠れてこちらの様子を見ているんだろう……」

 山田ヒロハル青少年。君は告白を邪魔されたくないのではないか?

 なら、さすがにキャサリン氏も完全に離れるように言った方が良いのではないだろうか?

「……いや、大丈夫だ」

 本当に良いのか?

「ああ、なんだかんだ彼女が私に切っ掛けをくれなかったら、ここまでこれなかった。介入は、さすがにしてほしくはないが、キャサリン君には最後まで事のてんまつを見る権利はあると思う」

 ……そうか。

 君がそう言うなら問題ない。

 精一杯、やるのだ。山田ヒロハル青少年よ。

「え? あ、ああ! ありがとう! デブネコ君! そうだ! どうせ無理だって分かっているなら怖くなんかない! 自分の全てをぶつけて、当たって砕けるのみさ! そうだ、どうせダメ……どうせダメ……どうせダメ……どうせダメ……どうせダメ……どうせダメ……」

 一生懸命自分に言い聞かせようと、ブツブツ唱えてしているのは分かるが……その言葉はどうかと我が輩は思うぞ。


「ごめんなさい山田君!馳せ参じてやったで、眼鏡モヤシ! 遅くなってしまって!」 玉取られる準備して待っとんたんかゴラァ!


 一日ぶりに聞いたはずの声が、随分久し振りに聞こえる。焦りつつも良く通った声が、後ろから山田ヒロハル青少年の暗雲を照らす。

 その声に彼は危うく、心臓を止めるところであった。

 ゆっくりと鼻で息を整え、さらに心を整え、声の方へと振り返った。


山田君……こんな隕石が落ちるって日にお嬢を呼び出したあ、良い度胸じゃのお?騒いでる中で、ごめんなさい。わざわざこんな 覚悟は出来とるんだろうな? ああ?私の忘れ物を見つけてくれたのよね?」

 ふんわりとした黒髪に、清楚で優しさが溢れる顔立ちの松本氏……を拝めるのは一瞬で、頭の上に乗った大きなトラが、山田ヒロハル青少年の眼前で睨みを利かせ、鼻息を吹きかける。

「は、はい……そうです……」

 高圧的なゼロ距離メンチにより、さっきまでの淡いドキドキとは打って変わって、命の危機を感じてドキドキしてしまう山田ヒロハル青少年。

 仕方がないので、我が輩がトラの顔を退かして、松本氏の顔を見えるようにしてやろう。

 無理矢理前足でトラの顔を退かせると、松本氏が山田ヒロハル青少年から視線を逸らし、ほんのりと頬を赤らめさせていた。

「えっと、そ、それで……その……あ、あのはよ返さんか! その手紙を餌にエリナお嬢にハレンチなことしようと考えとるんやったら……私がなくしてた、て、手紙は……」、物理干渉の力を無理矢理引き出させて、モヤシの頭を噛み取ったるからなぁ?

 確かに、その方法でセックスに至るのも一つの手である。

 だが、山田ヒロハル青少年は、そんなことが出来ない男なのである。

 良い意味でも悪い意味でも、

 我々のやり取りに言いたいことがあると思っている山田ヒロハル青少年だが、そこはグッと押さえ、ポケットに入れておいた手紙を松本氏に差し出す。

「ま、松本先輩の手紙は、こ、これですよね?」

 ハートマークのシールが貼られた封の面は、見せないように差し向けると、松本氏は頷く。

「そ、そう! うん! 間違いないよ!いいからはよ返せや! ありがとう山田君!」

 松本氏は素早く手紙を受け取り、手紙の外装をくまなく確認し、ホッと一安心した様子を見せる。


「あ、あの!」


 その様子を見て、ついに山田ヒロハル青少年は前に出る。

「え!? ど、どうしたの山田君? なんや、詮索か? え、えっと、もしかして手紙のことかな?余計なことに首を突っ込んで、タダで済むと思おとるんか? こ、ここの手紙は、その……」

「ち、違います! 手紙のことではありません!」

 真っ直ぐ、今までにないぐらい真っ直ぐ、憧れの松本氏を見る。

 今までは照れてしまい、まともに見ることすらままならなかったが、今はもうそうではなかったのだ。

 ずっと憧れて、憧れるだけの存在だったはずの女性に、あと数秒で愛の告白すると思った時、山田ヒロハル青少年はまるで夢でも見ているのではないかという浮遊感を感じた。まあ、それは緊張からなるただの目眩なのだが……

 とにかく山田ヒロハル青少年は最後に息を整え、そして決意を固めた。

「松本エリナさん!」

「は、ははは……はい!?」なんやワレ? こちとら大事な時間を取って……

 そして、彼は深々と頭を下げる。


「アナタに出会って、一緒に委員会活動していて分かりました。私はアナタのことが好きです! そ、その! 付き合って下さい!!」

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