第564話 勝利を掴め➄
『合わせろ!』
死に抗う巨馬を前にしてハックが叫ぶ!
『一斉砲撃だ!』
号令に傭兵二人とシャルロットが合わせる。
《穿風》と《飛刃》という違いはあったが、ハックの機体も含めて四機が一斉に遠距離攻撃を繰り出した。
それらはすべて巨馬に直撃する。
もう避けるだけの体力がないのか、それとも避けるつもりなどないのか。
巨馬はわずかに怯むこともなく突進してくる!
『――散開!』
再びハックが指示を出す。
前衛に出ている四機は四方へと散開した。
目標を失う巨馬だが、すぐさま方向転換。リーダー機と判断したのか、狙いをハックの機体に定めた。
『はン! 舐めてんじゃねえ!』
対するハックはそう叫び、愛機を自ら巨馬へと駆けさせた。
巨馬の前脚が振り下ろされる!
大きさからして巨岩が落ちてくるかのようだ。
しかし、それをハックの機体は寸前で回避する。ズズンッと前脚が大地に打ち込まれると同時にハックの機体は後ろ脚へと迫り、
――ザンッ!
手斧を振るう!
だが、あまり深くは食い込まない。
なにせ、互いの体格の差がまるで違う。
樹齢何百年という巨木に斧を叩きこんだようなものだ。
『やっぱ硬てえな!』
ハックの機体は、そのまま走り抜けた。
そんなハックを援護して《穿風》と《飛刃》が巨馬の体躯に直撃する。
巨馬は怒りのいななきを上げた。
四機は間合いを維持しつつ、巨馬を包囲して攻撃を繰り出していた。
そんな中。
『……よし』
サンクも動き出す。
『エイミー。ついてきてくれ』
『うん』
サンクとエイミーの愛機たちは戦場から少し離れて大樹の幹へと移動した。
鎧機兵の大きさであっても、その幹はまるで絶壁のようだった。
大樹海の規模の大きさを改めて実感する。
『エイミー。少し預かっておいてくれ』
言って、サンクは大剣の一振りをエイミーの《スライガー》に託す。
『分かった。じゃあこれを』
言って、《スライガー》は斧槍を《バルゥ》に渡した。
『ああ。ありがとう』
サンクは愛機に斧槍を担がせた。器具を巧く使い、背中に斧槍を固定する。
次いで、もう一振りを地面に突き刺してから、
「……ジェシー」
無言で背中にしがみつくジェシーに声をかける。
「これからかなり無茶をする。お前はエイミーの方へ……」
「……いや」
ジェシーはフルフルとかぶりを振った。
「私はサンクの傍にいる」
「いや、けど本当に無茶するんだぞ?」
「分かっているわ」
ジェシーはサンクの背中に額を強く当てた。
「だからこそ傍にいたいの。だって」
一拍おいて、
「私はサンクのお嫁さんなんでしょう?」
「……う」
サンクは困った表情を浮かべた。
「そいつを言われるとなぁ……」
「……一緒にいたらダメ?」
――ぎゅうっと。
それなりに豊かな胸を押し付けて言ってくる。
サンクはますます困った顔になった。
と、その時。
『サンク。お
エイミーが声をかけてきた。
操縦席で彼女はジト目になっている。
『この非常時にいちゃついていない?』
女の直感か。
そう言い当てるエイミーにサンクとジェシーは顔を引きつらせた。
『い、いや、それはな……』
と、サンクが口を開くが、
『……お
エイミーは姉の方に声をかける。
『やっと覚悟を決めた?』
『……う』
ジェシーは一瞬言葉を詰まらせるが、
『う、うん』
素直に答えた。エイミーは『そう』と呟き、
『私は昨夜、サンクとエッチしたよ』
『……ッ!?』
目を見開いて言葉を失うジェシー。
逆にサンクの方が「エ、エイミー!?」と顔色を青ざめさせる。
一方、エイミーは構わず続ける。
『私は昨夜いっぱい愛されたから。だから少し余裕だよ』
『……むむ』
動揺するサンクの背中をひっしと掴むジェシー。
『だからね』
エイミーはさらに告げる。
『お
一拍おいて。
『二人とも生きて戻ってきて』
『……エイミー』
ジェシーは目を見開いた。
サンクも動揺から表情を真剣なモノに変えた。
『これからの話をしたいの。三人の未来を。だから二人とも絶対に帰って来て』
『……エイミー』『……ああ』
ジェシーは妹の名を呟き、サンクは力強く頷いた。
『特にお
操縦席の中でエイミーは微笑む。
『どっちが第一夫人か、決めないといけないし』
『え? それは姉の私じゃないの?』
目を瞬かせるジェシー。
互いに鎧機兵に乗っている状況だ。そんな姉の様子が分かる訳ではない。
しかしながら、姉妹の直感でエイミーは少し勝ち誇った顔をする。
『だって、サンクとは私の方が先に結ばれたんだよ。だから、私が第一夫人でもいいんじゃないかな?』
『……エイミー』
ジェシーは
ただ、今回はジト目だったが。
『いいわ。話をしてあげる。姉の威厳を見せてあげるわ』
『私こそ年功序列の考えは古いって教えてあげるよ』
と、機体越しに視線をぶつけ合う姉妹。
が、互いに同じタイミングで目元を和らげて。
『生きて帰ってきて。二人とも』
『ええ』
妹の言葉に姉は応える。
『ああ』
サンクもまた頷いた。
『絶対に生きて帰る。三人の未来のためにな』
そう告げて、サンクの《バルゥ》は大樹の幹に手を伸ばすのだった。
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