第517話 再び、『ドラン』へ②

 翌日。

 早朝の七時。

 その時刻を以て、『ドランの大樹海』の大調査はスタートされた。

 早朝にも拘らず、ほとんどのチームは七時から、ボレストンを出立した。

 もちろん、アッシュたちも例外ではない。

 拠点の確保は、先着順だからだ。

 のんびりと構えていては、大幅に出遅れてしまう。


『そんじゃ行くぜ!』『おお~!』


 様々なチームが、勇ましい声を上げていた。

 各チームとも、ボレストンから、すでに鎧機兵に搭乗していた。

 一本道の街道は、瞬く間に巨人の列を成した。

 その光景は、まさに数多の鋼の巨人たちの進軍だった。それを見るために、ボレストンの住人たちも、朝早くから、最外部の防壁の上に集まったものだった。

 パンパンッと、防壁の上から花火を打ち上げる者たちもいた。

 細やかではあるが、そんな祝砲を背に受けて。

 勇壮なる巨人たちの進軍は続く。

 巨人たちが目指す地は、未開なる世界だ。

 かくして。

 アッシュたちは『ドランの大樹海』へと、足を踏み入れるのだった。




(ここに来んのも久しぶりだな)


 愛機・《朱天》の操縦棍を握りしめつつ、アッシュは思う。

 大樹が並び、天蓋を形作る大森林。

 微かな日差しこそ入り込んでいたが、全体的には薄暗い世界である。

 ズン、ズンと。

 その世界を《朱天》は進んでいた。

 アッシュたち一行の鎧機兵は、全部で六機いた。


 まずは先頭を進む《朱天》。

 その後には、シャルロットの《アトス》。

 次いで、ルカの《クルスス》と、ジェシーの《アッカル》。

 その後にエイミーの《スライガー》が続く。

 そして殿を、サンクの《バルゥ》が担っていた。

 その内、《アトス》、《クルスス》は、肩から巨大なコンテナを掛けていた。

 食料も含めた必需品だ。これはアッシュたちが用意したものだ。


 運営が用意した発掘資源転送用のコンテナは、各自、拠点確保後に転移陣で呼び寄せる手筈になっていた。

 大樹海は、どこかしら、獣の気配も孕んでいる。

 各機とも慎重に進んでいた。


「しんどくないか? ユーリィ」


 その時、アッシュは、自分の腰を掴む愛娘に声を掛けた。

 ユーリィは「うん」と答える。

 それから、ぎゅうっと、アッシュの背中にしがみついてきた。

 甘えん坊なユーリィに、アッシュはふっと口角を崩す。

 ユーリィは今、アッシュの《朱天》に相乗りしていた。

 それ以外のメンバーは、それぞれ自分の愛機に搭乗している。

 オルタナは、流石に大樹海内を飛行させては危険なので、ルカの肩の上で待機中だ。


『……ギャワッ! ヒロイ、モリダ!』


 時折、そんな騒がしい声が《クルスス》の中から聞こえてきた。

 ちなみに、アッシュとユーリィは、いつものクライン工房のつなぎ姿。

 ジェシーとエイミー、サンクは昨日と同じ騎士服だ。

 ただ、ルカとシャルロットだけは違っていた。

 彼女たちは、先の武闘大会で入手した操手衣ハンドラースーツを身に着けているのである。

 ルカは山吹色。シャルロットは、藍色の同じデザインのスーツだ。

 別に示し合わせた訳ではなく、たまたま二人ともこのスーツを持ってきたらしい。

 しかし、持ってきた目的に関しては、きっと偶然ではない。

 二人とも、アッシュへのアピールのために持ってきたのだろう。安全性も考えているとは思うが、それこそが主目的だ。スタイルを強調するこのスーツは、実にエロいのだ。シャルロットとルカが着れば、抜群の破壊力を発揮する。


『……二人ともあざとい』


『う……』『あ、あう』


 ボレストン出立前。ジト目でそう指摘してきたユーリィに、シャルロットとルカは、揃って言葉を詰まらせたので、その推測は図星のようだった。

 また、その傍らで、


『どうして! どうしてだ!』


 たった一晩で、すっかり顔面の腫れがひいたサンクが嘆いていた。


『どうして、ジェシーたちはあれを購入してないんだよ!』


『……まだ殴られ足りないの? サンク』


『……サンクのお馬鹿は筋金入り』


 そんなサンクに、ビレル姉妹――エイミーまでが冷たい眼差しを見せていた。

 ともあれ、アッシュたちは進んでいく。

 会話も少なく、黙々と進む六機の鎧機兵。

 大樹海の中の行軍は、すでに三時間以上も続いていた。

 時間にして、そろそろ十一時頃だった。


(そろそろ一度休憩をするか)


 今いるメンバーは、ユーリィ以外は、全員が本格的な戦闘訓練を受けている。

 数時間程度の行軍で根は上げないだろうが、まだ初日。それも森に入ったばかりだ。

 この先はまだまだ長い。

 ここは無理をせずに、一度息をつきたいところだった。


(ここらで一度止まって……お)


 その時、強い日差しが差し込んできた。


「あ。お日さま」


 ユーリィが呟く。

 アッシュが目を細めて相棒を進ませると、少し広い場所に出た。

 暗い樹海の中でも光が差し込む場所である。

 見上げると、蒼い空も見える。


『おし。ここなら休憩が取れそうだな』


『クライン君』


 続いて、この場所に到着したシャルロットが言う。

 彼女の愛機・《アトス》が、肩に掲げたコンテナを降ろした。

《アトス》が首を動かして周囲に目をやった。


『広い場所に出ましたね。ここで休憩を取るのですか?』


『おう。丁度良さげな場所だしな』


 アッシュも改めて周囲を見渡した。

 流石に平地とは言い難いが、繁みは少ない。大樹同士の間隔もかなり広く、比較的に土の見える箇所が多い広場だ。

 この場所なら、鎧機兵六機も滞在できるだろう。

 次々と到着する仲間たち。

 アッシュは、ニカっと笑って告げた。


『そんじゃあ昼食も兼ねて、ちょいと休憩しようか』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る