第11部 『亡郷の再会』

プロローグ

第317話 プロローグ

 とても晴れた日。

 どこまでも広がる蒼い空。

 そんな空を、最も近い位置で見られる場所――アティス王国の王城ラスセーヌ。その最上階のバルコニーに、彼女はいた。


 歳の頃は十四、五歳。

 淡い栗色のショートヘアに、澄んだ水色の瞳を覆う、長い前髪が印象的な少女だ。髪のため、少し分かりにくいが群を抜いた美貌も持っている。

 その上、彼女のスタイルは、年齢離れしているほどに抜群で、将来的には――いや、すでに今の段階でも充分な魅力を放っていた。


 ――ルカ=アティス。


 アティス王国の第一王女である。

 しかし、王女である彼女の傍に従者はいない。

 それどころかドレスさえ着ておらず、愛用のつなぎ姿である。

 いかに美しくても、彼女の服装から王女と思う人間は少ないだろう。

 ルカは、緊張した面持ちで空を見上げていた。

 この一週間ほど。彼女はずっと興奮気味だった。

 何故なら、彼女の敬愛するお師匠さまと先輩達が、この国にやってくるからだ。


 そのために、ルカはずっと奔走していた。

 大国の公爵令嬢でもある、お師匠さま達を歓迎するために準備をしてきたのだ。

 忙しいけれど、実に充実した時間。

 心地よささえも感じる時間ではあったが、ルカには少し不満もあった。


(……仮面さんに全然会えないよ)


 ここまで忙しいと、想い人に会いに行く時間が作れない。

 それが、ルカの唯一の不満だった。

 クライン工房に通う女性陣の中でも、最も精神的にタフなのではないかと噂される彼女であっても、やはり成分不足だけは堪えるのだ。


(うん。とりあえずお師匠さまが来たら、少し時間を取ろう。出来れば、仮面さんに頭を撫でて欲しいな)


 それだけでもかなり成分は補充できる。

 と、彼女が考えていた矢先のことだった。


「――あっ」


 ルカの水色の瞳が輝く。

 蒼い空に、銀色の翼を見つけたからだ。

 銀色の翼、鋼の小鳥はルカの元へと滑空する。

 そして彼女の頭上で翼を羽ばたかせると、ルカの肩に止まった。


「……ルカ! イマカエッタ!」


 と、鋼の鳥が喋りだす。

 この人語さえ操る鋼の小鳥の名は、オルタナ。

 ルカが造り上げた、自律型鎧機兵である。

 その上、飛行機能まで有する驚異の機体だ。


「……お帰り。オルタナ」


 しかし、ルカにとっては子供にも等しい機体。

 愛しそうな笑みを浮かべて、鋼の小鳥の顎先を撫でてやった。


「それで、どうだったの?」


 続けて、ルカは尋ねる。

 すると、オルタナは首を揺らして。


「……ミツケタ! デッカイフネ! アニジャタチガイタ!」


「っ! 本当!」


「……ウム。アイサツ、シカタッタガ、ガマンシタ!」


 オルタナは、褒めろとばかりに翼を広げた。


「うん。ありがとう。オルタナ」


 ルカが、微笑む。

 オルタナの存在は、まだお師匠さまに秘密にしている。

 修行の成果として、今回の来訪で初めてお披露目する予定なのだ。

 そのため、現時点でバレるのは避けたいのである。


「……ケド、アニジャタチハ、コッチニ、キヅイテイタ。イッパイ、テヲフッテクレタ」


 とは言え、本当の意味でまだ秘密にしているは、お師匠さまだけだった。

 側には、すでにオルタナを知る者もいる。

 例えば、ルカの敬愛するコウ先輩や、オルタナの原型とも言える兄弟達だ。


「そうなんだ。何機いたの?」


「……カンパンニハ、サンキイタ。ゼロノ、アニジャモイタ」


「うん。そっか」


 ルカは、ニコニコとオルタナの報告を聞く。


「もうじき到着するんだね?」


「……ウム! タブン、アト、ニジカングライダ!」


「ありがとう。オルタナ」


 わざわざ海を渡ってまで様子を見てきてくれたオルタナに、ルカは改めて礼を言う。

 これで、お持てなしのタイミングを知ることが出来た。


「うん。早速行かなくちゃ」


 言って、ルカは城内に足を向けるが、


「あ、そうだ、オルタナ」


 うっかり忘れるところだった。


「あのね、オルタナ」


 そしてルカは、満面の笑みと共にお願いする。


「このことを、サーシャお姉ちゃん達にも伝えて欲しいの」

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