7月7日(日)

特別編-Tanabata Night in 2019-




 令和最初の夏が始まってから1ヶ月あまり。

 去年のように6月中に梅雨が明けることもなく、6月の終わり頃からずっと梅雨空が続いている。6月の間は雨が降れば涼しい日も多かったけれど、7月に入ったら雨が降ってもムシムシとする日が増えてきた。

 大学3年生の春学期の終盤に差し掛かってきた。ゼミや大学主催の就活のセミナーに参加していることもあって、去年よりも大変である。ただ、受講している講義が期末試験はなく、最終レポートを出せばいいものが多いのが幸いだ。それに、大学生活のほとんどを栞と一緒に過ごしているから楽しい。




「雨が上がったけれど、雲が取れる感じは全くしないね、悠介君」

「そうだね。見渡す限り……どんよりとしているもんね」


 七夕の日。

 今年も栞と一緒に、鳴瀬駅の近くで開催されている七夕祭りに遊びに来ていた。去年は梅雨が明けて晴れていたので、今年もそうなったらいいなと思っていたけれど、梅雨空はずっと関東上空に居続けている。


「雨が降らないだけラッキーだと思った方がいいかもしれない。6月の終わり頃から全然晴れなくて、雨が降ることが多かったから」

「そうだね。明日からも曇りや雨の日が多いし、雨が降らないだけいいのかも。雨が降っていないから、こうして悠介君と一緒に七夕祭りを楽しむことができているんだし」


 栞は楽しげな笑みを浮かべる。

 この地域の今日の天気予報では昼過ぎまで雨が降り、それ以降は通り雨があるかもしれないというものだった。

 実際は昼過ぎまでは予報通り雨が降ったけれど、それからは一度も降っていない。だからこそ、七夕祭りは予定通りに開催され、僕と栞は一緒に楽しむことができているのだ。


「じゃあ、雨が降っていないラッキーな間に、短冊でお願いを書こうよ。いつも以上に願いが叶いそうな気がするし」

「おっ、いいね。書きに行こうか」


 去年と同じように短冊コーナーが設けられており、そこには長い行列ができている。その先にある大きな笹には、既に多くの短冊が飾られている。様々な色の短冊があるからかカラフルで綺麗だ。


「悠介君、短冊にどんなお願い事を書くの?」

「う~ん、決めてあるけれど、短冊に書いてから教えるよ」

「ふふっ、そっか。それならもうすぐ分かるから、そのときまで楽しみにしておこう。私も短冊に書いたら悠介君に教えるね」

「分かった。どんな願いを書くのか楽しみだな」


 書いてから教える方が願い事もより叶いやすくなるような気がする。

 短冊を書いて笹に吊すだけだからか、行列がとても長い割には流れが早い。去年のことを思い出すと、書くスペースが結構あった気がする。

 そんなことを考えていると、あっという間に僕らの順番になった。

 去年と同じように、運良く僕らは隣同士で短冊に願いを書くことに。僕は緑色の短冊に願いを書いていく。


「悠介君、願い事は書けたかな?」

「うん。書けたよ」

「じゃあ、去年みたいに見せ合おうか」

「そうだね。せーの」


 僕は栞と互いの短冊を見せ合う。


『好きな人が夢みる未来の一歩を踏み出せますように。そんな人の側にいられますように。 新倉悠介』


『好きな人と一緒に、目指したい未来への一歩を踏み出せますように。 日高栞』


 赤い短冊には栞のそんな願いが書かれていた。自分に対してだけじゃない願いを書くところが彼女らしい。


「……悠介君の願い、素敵だね」

「栞の願いこそ」

「ありがとう。……私に関する願いを書いてくれたこと、嬉しいよ」


 ちゅっ、と栞は頬にキスをしてきた。周りに人がたくさんいるのにキスをしてくるなんて。よほど嬉しかったのだろう。


「じゃあ、飾ろっか!」

「そうだね」


 笹に栞と僕の短冊を隣り合う形で飾った。こうしていれば、きっと願いが叶いやすくなると信じよう。


「これで大丈夫だね」

「うん。ここで願ったことが叶うように頑張っていこうね、栞」

「そうだね、悠介君」


 栞は僕の手をぎゅっと握ってきた。彼女の手からははっきりと温もりが伝わってきて。この温もりをいつまでも感じていられるように頑張らないと。

 もちろん、来年もこうして栞と一緒に七夕祭りに来たいな。

 今夜は栞が僕の家に泊まることになっているので、彼女と一緒に帰るのであった。




特別編-Tanabata Night in 2019- おわり

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