10月31日(月)

特別編-Halloween in 2016-




 今日はハロウィン。

 一昨年や去年は栞と一緒にハロウィン仕様のスイーツを食べに行ったけれど、今年は受験が控えているので学校の授業が終わったら、真っ直ぐに家へ帰って受験勉強をしている。


「寒いな……」


 陽も沈んできたこともあってか段々と寒くなってくる。ここ1週間くらいは寒暖の差が激しいので、軽く風邪を引いてしまった。2学期の中間試験が終わっていたので良かったけれども。

 温かいコーヒーを作り、暖房をかけて部屋の中を暖めたところで受験勉強を再開……というときだった。

 ――ピンポーン。

 家のインターホンが鳴る。母さんは今、買い物に出かけているから僕が出ないと。


「はーい」


 玄関のドアを開けると、


「トリックオアトリート!」


 そこには吸血鬼のカチューシャを付けた制服姿の栞が立っていた。こういう姿を初めて見るからかとても可愛く見える。


「お、お菓子をくれないといたずらしちゃうよ!」


 顔を真っ赤にして栞はそう言った。この様子だと……かなり勇気を出したんだろうなぁ。まさか、僕の家に来るまでずっとカチューシャを付けていたのかな。


「今日はハロウィンだったね」

「……は、早くお菓子をくれないといたずらしちゃうよ」


 そんなにお菓子が食べたいのか。


「はいはい、ちょっと待っててね。あと、そこにいると寒いから家の中に入って」

「……う、うん」


 家の中に栞を招き入れる。

 自分の部屋に戻り、勉強の合間に食べるために買っておいたクッキーを持って栞の所に戻る。


「はい、栞。クッキーだよ」

「……あ、ありがとう」


 クッキーをあげたにも関わらず、あまり嬉しそうな様子ではない栞。


「どうしたの? クッキーじゃ嫌だった?」

「ううん……クッキーをもらえたのは嬉しいんだけれど、まさか悠介君がお菓子をくれると思ってなかったから……」

「そうなんだ」


 くれると思っていなかったんだったら、より嬉しくなりそうな気がするけれど。僕がもらったらきっと嬉しくなると思う。


「だって、お菓子をくれたらいたずらできないよ」


 栞のその言葉に耳を疑う。


「……いたずらするつもりだったの?」


 思わずそう訊いてみてしまった。


「うん」


 あっさりと認めたよ、この子。いたずらするつもりだったなら、お菓子をもらったことに嬉しくなさそうなのも納得がいく。


「だって、ここ最近は受験が近くなってきたから、朝の電車の中以外で悠介君となかなか会えなかったし……」

「だから、この際にいたずらしてやろうと思ったわけだ」

「そういうこと……かな」


 栞は照れた感じで笑っている。最初から、栞の中ではトリックオアトリートじゃなくてトリックしかなかったわけだ。

 確かに、栞の言うとおり、受験が近くなってきたから会える機会が少なくなってきた。ハロウィンという機会に栞が僕に会いにきてくれたんだ。ここは、栞の考えたいたずらを受けてみることにしようか。


「よし、じゃあ、好きにいたずらしてきていいよ」

「……うん。いたずらするね……」


 いたずらをしてもいいとは言ったけれど、実際にいたずらされることになると、段々と恐くなってきた。吸血鬼のカチューシャを付けているから血を吸われたりするのかな。

 すると、栞は僕に近づいてきて、そっと口づけをしてきた。


「……いたずら、したよ」

「……なるほどね」


 今の口づけがいたずらだったのか。いたずらって言うから、くすぐられたり、吸血鬼の真似をして首筋を噛んだりすると思っていた。


「いたずらをされたら、いたずら仕返さないといけないよね」

「……ということは同じことをするんだよね」

「うん。同じことをしてくれるかな」


 そう言うと、栞はゆっくりと目を閉じた。

 全ては僕から口づけをしてもらうためのことだったのか。最近、口づけは全然していなかったから、きっと栞はこの機会を使ったんだろう。いたずらをされたいためにいたずらをした、か。


「本当に可愛いね、栞は」


 そっと栞に口づけをする。

 すると、栞はぎゅっと抱きしめてくるので、なかなか唇を離すことができない。でも、今は家に僕と栞しかいないから少しの間はこのままでいいか。

 栞の可愛らしいいたずらのおかげで、心がとても温かくなった2016年のハロウィンになったのであった。



特別編-Halloween in 2016- おわり

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