―shaking hands ―
どうすればよいか悩む僕の肩にティアが手を置いた。肩から暖かな感触が伝わって来た。
「……シュウ。一人で戦おうとしないで。それじゃあゼロと同じ。だけどあんたには、あたしがいるでしょ?」
ティアのその言葉に僕はコクリとうなずく。
僕はティアの手をぎゅっと握りしめた。なぜか分からないが力が湧いてくるような感じがした。
そして、僕は右手を、ティアは左手をつきだし、声を揃えて【リエン】を唱えた。
すると、一瞬、周囲を巨大な光が包み込む。
静寂が周囲の空間を支配する。巨大化し続けていたあの黒い球もいつしか消えていた。
先ほどまでとは一転して、ひどく落ち着いた様子でゼロはそこに立っていた。
「ゼロ……?」
ゼロは僕とティアに視線を移す。
「シュウ……お前何をした? どうしてかわからない……だが先ほどまでの、僕を突き動かす衝動がどこかに消えた」
「それは……たぶん僕の魔法だよ」
「魔法……だと」
「ゼロ……もうカタストロフィなんてやめようよ。世界が破滅したっていいことないよ」
「ふざけるな。僕にはもう……世界を破滅させる以外に存在意義が無いんだよ!」
「そんなことない」
「知ったような口をきくな!」
「分かるよ。だって僕たちは友達だろ!」
「友達? 笑わせるな……」
ゼロは再び剣を構える。だが、僕の言葉が彼の動きを停止させた。
「ゼロ、君は僕に言った。久しぶりに話すことができて楽しかったって……」
「ぐっ……あれは……」
「意地っ張り!」
突然ティアが叫んだ。
「ぐじぐじとしてんじゃないわよ! ほら」
ティアはゼロに手を差し出した。
「……何の真似だ?」
「握手よ。これで、あんたもあたしと友達でしょ。昔の事なんかもういいわ」
「ふざけるな。誰が握手なんか……」
ゼロはそう言ってそっぽを向いてしまった。
その様子を見て、僕もポポも思わず笑ってしまった。
「何がおかしい!」
「ゼロってば、ティアに照れてるなあ~ってね」
「お前! いい加減叩き斬るぞ!」
その言葉を僕はずっと待っていた。
「ゼロ……今『いい加減叩き斬るぞ』って言ったよね」
「それがどうした」
「つまり、もうゼロには僕たちと戦う意思がないってことでしょ」
「チッ……僕はそんなこと言った覚えはない!」
「ゼロ……一人じゃ抱えきれないような悲しみでも、友達なら分け合うことが出来るんだ」
「だが、信じたばかりに、僕は人々に裏切られた。そんなのもうゴメンだ!」
しかし、唐突にティアがゼロの頬をひっぱたいた。
「あんたねえ……シュウがそんなやつに見える? こんなとこまで、あたしを追ってくるバカなのよ。あんたも気づいてんでしょ!」
バカとは心外な……と僕は心の内で思った。
「本当にいいのか。僕が……友達になっても……」
僕はにんまりと笑顔を作り笑って見せた。
「当たり前じゃないか。友達は多い方が楽しんだよ」
「バカ……野郎が……」
ゼロは後ろを向いてそっとつぶやいた。
「さあ、みんなのもとへ帰ろうか」
僕がそう言ったとき、突然、地鳴りのような音と共に、あの黒い球が姿を現した。
再び現れた黒い球は先ほどとは比べ物にならないスピードで大きくなっていく。
やがて、それはブラックホールのように僕たちを強い力で引きずり込もうとする。
「あれは……時空のひずみ……」
「時空のひずみ……?」
「説明している暇はねえ! シュウ、ティア、早くここから脱出するんだ!」
「脱出って、どうやって?」
「その、フェニックスならここから出られるだろ!」
《――皆さん、早く乗ってください!》
僕もティアも急いでポポの背中にまたがった。
「ゼロ! 早く!」
しかし、ゼロは動こうとしない。
「……行けよ」
「あんたも一緒でしょ!」
しかし、ティアの言葉には耳を貸さず、ゼロは蒼剣を抜いた。
「時空のひずみは……やがて大きくなって、レイゼンベルグを飲み込んでしまう。こんなことになったのは僕のせいだ。だから、僕が……止める!」
そんな……このままではゼロ一人が犠牲になってしまう。僕はそんなの……嫌だ!
ティアの手を借りて【リエン】を唱える。しかし、何も起こらなかった。時空のひずみはどんどん大きくなっていく。
「くそ……どうして、発動しない……」
ゼロは僕とティアを振り返った。彼は笑っていた。
「……もういい。その気持ちだけで十分だよシュウ」
「ゼロ、僕も一緒に戦うよ!」
「鳥! 早く行け!」
ゼロの言葉に促されポポは飛び立った。
「ポポ! 待ってよ! まだ……ゼロが……」
「……僕は……シュウそれにティア……君たちと出会えたことを幸せに思う。君たちはこんな僕を友達だと、そう言ってくれた。だから……友達として僕は君を助ける!」
ゼロは両手で蒼剣をがっちりと構えると、まっすぐに時空のひずみへと走っていった。
「うおおお!」
ゼロは雄叫びと共に時空のひずみの中に飲み込まれた。ゼロを飲み込んだ時空のひずみはやがて、そこには何もなかったかのように消え去った。
ゼロの姿はどこにも見当たらない。
僕は泣いていた。友達を失った。その悲しみは僕の心をがんじがらめに縛り付ける。
しかし、その時頭の中に声が響いたような気がした。
《――泣いてばっかりいないで笑ったら?》
……ゼロ? だが、彼の姿はやはりそこにはなかった。けれども、僕は頭に響いてきたその声に後押しされるような気がした。僕の心を縛り付けていた悲しみの鎖がほどけたようなある種のすっきりとしたものを僕は感じていた。
僕は深呼吸を一つする。そして言った。
「……帰ろう、皆のところへ」
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