第149回『ロココのココロ』→落選

「これは?」

「あいてません」

「じゃあ、これ?」

「左」

「これ?」

「左」

「次は分かる?」

「うーん……」

 視力検査は苦手だ。

 だんだんと小さくなるマーク。矢継ぎ早に質問する検査官。

 そのプレッシャーが私を押しつぶそうとする。

「下……ですか?」

 最後のマークを、私は適当に答えてしまった。

「次は反対の目で。これは?」

「左」

「じゃあ、これ?」

「左」

「これは?」

「あいてません……」

 やっとのことで検査から解放され、ほっとする私の耳にクラスメートの話声が飛び込んでくる。

「ねえ、今日の視力検査、平仮名の『の』が混ざって無かった?」

「ええっ、そんなのあったっけ?」

「ほら、最後の視力二・〇のやつ」

「そこまで見えるの、あんただけよ」

 それって……?

 私が適当に答えた一番下のやつ?

 確かめようと視力検査場を向いてみるが、離れたこの場所からは確かめることなんてできる訳が無い。

「あいてません、左、左、えっと、えっと、次は……」

 あんなに嫌だった視力検査の声につい耳を傾けてしまうのは、なんとも不思議な気持ちだった。

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