第146回『一夜の宿』→落選

「二月二十八日のシングル、空いてる?」

 予約のため俺は窓口に駆け込んだ。

「はい。まだ空きがあります」

 お姉さんがニッコリ笑う。よかった、まだ空きがあって。

「じゃあ予約頼む。三泊で」

「えっ?」

 驚いた顔をするお姉さん。もしかして翌日以降は予約で一杯なのだろうか?

 しまった、もっと早く来ればよかった。頭の中が真っ白になる。

「空いてないの? 翌日以降」

「いえ、二月二十九日も三月一日も空いておりますが……」

 なんだよ、驚かせるなよ。

 だったらさっきの反応は何だ? まさか、うるう年だからシステムが対応してないってことはあるまい。それとも――

「同じ場所が取れないとか?」

「いえ、三日間とも同じ場所を予約することはできます」

「だったらそれで頼むよ」

 俺は呆れる。

 この窓口の対応はなってない。お客を不安にさせてどうするんだよ。

 心配になった俺は、念のために確認する。

「三泊だから、その間は荷物を置いたままでもいいんだよね?」

 するとお姉さんは再び表情を曇らせた。

「いえ、それは困ります。規則ですので」

 やっぱりダメだ。今度、会社に意見してやろう。

「ななつ星とかなら可能でしょうけど、これは普通の寝台列車ですから……」

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