intermission

にん

 強くなりはじめた雨音にかき消されることない、聞きなれた呼び声に足を止める。

「その手に持ってるものを活用しようとか思わないわけ?」

 差しかけられた傘にあたり雨音が跳ねる。

「ここまで濡れて、今更」

 呆れた口調に嘆息交じりに返す。

「そうなる前に差せって話なんだけどな」

「タイミングを逃した」

 傘を押し返し、自分の傘を開いて歩き出すと、わずかに後ろについてくる気配。

「やめてもいいんだぞ?」

 決して大声ではない。どちらかというと控えた声が雨音にはまぎれずに届く。

「いまさら」

 前を向いたまま応えた言葉は聞こえなかったのかもしれない。

「義務じゃない。依頼でもない。おまえが動く必要もない」

 淡々と並べられた理由は、言われるまでもないことばかりだ。

「わかってるよ」

「わかってない」

 聞こえていたようだ。今度はすぐさま否定を入れて続けられる。

「心を削ってまで対応する必要はない」

「わかってるよ。すべてに手を伸ばすことはできないし、するつもりもない。ただ、視界に入ってしまったものを、見過ごすことができないだけだ」

 そこに漂う人たちを助けようと思ってしていることでもない。助けられる段階は、もう通り過ぎている。ただの後処理をしているだけだ。放置しては障りがあるから。

 いつの間にか隣に並んだ傘の下からのわざとらしい深いため息。

「おれが勝手にかかわっていることで、それを嘆くのは違うだろ?」

「放置できないその厄介な性質を、課せられたものと愚痴るくらいは特に問題だとは思わないが?」

岑羅しんらは、おれに甘いからな」

 ゆるす言葉は心地よく、一度浸かってしまえば抜け出すことは難しくなる。

「ほんとに強情でかわいげない」

 言葉とは裏腹に、声はやさしく響いた。

「おかげさまで、師匠に似たんだよ」

 かるく笑って返すと、師であり兄のようでもある岑羅の苦笑いが隣からこぼれた。


 

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